弁護士にとっては朗報-パブリッククラウド環境では大量の特許侵害訴訟がビッグバンのように爆発的に起きる
パブリッククラウドで用いられ利用者に提供されるシステムやサービスが特許侵害を構成するものであった場合,特許権者からの求めにより裁判所が差止命令を出せば,以後,全ての利用者が当該サービスを全く受けられなくなってしまう。例えば,Amazon EC2について,仮に差止命令が出れば,EC2のシステムを利用しているテナント(利用者)は,瞬時にして一斉に廃業せざるを得なくなってしまうだろう。この関連のことはこれまで何度も書いてきた。
これと全く同じことなのだが,ベンダではなく,テナントもまた権利侵害者として損害賠償請求等を受ける可能性がある(←このことは,既にこのブログで書いたこともでもあるが,英文の論文にまとめ,この論文は採択される見込みなので,近い将来,米国から出版されることだろう。)。
もしそのようになった場合,つまり,ベンダではなく利用者(テナント)が被告とされるようになった場合,とんでもない数の訴訟が提起される可能性がある。
(とりわけ米国の大規模ファームの)弁護士にとっては,まさに朗報と言うべきだろう。
問題は,利用者(テナント)は,防御の方法を全くもっていないということだ。特許侵害物を利用して商売をする行為が特許侵害行為を構成するとして訴えを提起されるわけなのだが,利用しているサービスに関する詳細情報は全てベンダが握っており,利用者(テナント)は何も知らない。
だから,利用者(テナント)は,ベンダが訴訟に協力してくれない限り,何も防御できないまま敗訴になってしまう可能性が高い。
ところが,このような訴訟が世界各地で発生した場合,世界最大のベンダであっても,全てのテナント(利用者)を支援することは不可能だと思われる。
しかも,利用者は,自分が全く予想もしていなかった国で訴訟を提起される可能性がある。これは,クラウド内に複数の物理サーバが存在し,それが仮想的に統合されて1個の論理サーバとしてサービス提供されている場合には不可避のことだ。利用者の地理的状態を利用者自身が特定することはできず,物理的なIDを利用者の側で確定することもできない。
Nimbula Tackles Cloud's Identity Problem
Information Week: August 17, 2011
http://www.informationweek.com/news/cloud-computing/infrastructure/231500102
要するに,飽和攻撃に対しては防御できない。
このことは,訴えを提起する自称特許権者が本当に権利者と言えるかどうかとは無関係に生ずる。何しろ,権利関係を確定するためには,莫大なコストを要するが,普通の規模の利用者(テナント)はその負担に耐えられないし,ベンダの側も無理だ。
とても楽しい時代がやってきそうだ。
ちなみに,ベンダの側で「自分は間違いなく権利者だ」と確信していたとしても,そんなことはどうでもよいことで,もちろん,何の保障にもなっていないということを忘れてはならない。
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