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2011年8月26日 (金曜日)

所有権に基づく妨害排除請求

かつて名著といわれた我妻栄『民法案内』の中に面白い設例がある。

要点を簡単にまとめると,傾斜地の上のほうにある家(A)から庭石が転げ落ち,下のほうにある家(B)の庭に来てしまった場合,AはBに対して庭石の所有権に基づいて返還請求をすることができるのか(この場合,費用負担はBとなる。),それとも,BはAに対して土地の所有権に基づいて妨害排除請求をすることができるのか(この場合,費用負担はAとなる)という問題だ。

福島原発から出た放射性物質(焼却灰等)の問題は,この問題と異なる面もあるが,所有権に着目した場合,似た側面を有している。

放射性物質を含んだ塵等は,東電の所有物だ。東電の所有物が他の人々の土地や建物といった所有物の所有権を侵害している。これが現在の状況だ。

東電は,放射性物質の所有権に基づき,その返還を求めることができる。原子力燃料1本が盗まれた場合には誰でもそうだと理解することができるだろうが,ばらばらにされて盗まれた場合でもそうだし,盗まれたわけではないのだけれど他人のところに行ってしまった場合でもそうだ。粉々になった場合も同じと考えなければならない。ただし,返還請求をする場合,汚染された土地の所有者に返還費用を請求することはできない。それは,東電の管理上の過失に基づくものであり,費用請求をすることは権利の濫用になると考えられるからだ。もっとも,東電がこのような返還請求をするとは到底考えられない。

他方,土地や建物の所有者等は,土地等の所有権に基づき,東電に対して,妨害排除請求をすることができる。放射性物質による汚染は明らかに所有権に対する妨害行為となるからだ。この場合の「行為」とは故意による場合と過失による場合とを含む。そして,この場合,東電は,東電の費用で放射性物質を回収し,所有権侵害の状態を解消しなければならない。なお,東電が回収した汚染物質は東電の所有物なので,原発の中に戻して原状回復(保管)をすることになる。

以上のような感じになる。

こういった問題は,民法の基本なのだが,民法学者の中には民法の問題としてとらえない者がいる。そのような民法学者は怠慢または無能だと言い切ることができる。

他方,考えることができても発言しない者もいる。これは,東電や政府から睨まれて不利な立場になることをおそれてのことと推測される(例:法制審議会等の委員を解任される,研究費をもらえなくなる,勲章をもらえなくなるなど。)。それはそれでとても人間っぽい話なのだが,そのような者は,決して「正義」を口にしてはならないと考える。教壇を去るべきだ。

この問題について,枝野氏は,「最終処分を受け入れる地域がなければ、東京電力や政府が焼却灰を集めて運ぶことはできない」と述べているようだ。

 セシウム検出の焼却灰で各県苦悩「持ち帰れ」「費用請求」
 産経ニュース: 2011.8.26
 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110826/dst11082600380000-n1.htm

この議論は,ちょっと変だ。

どの自治体も,放射性物質の最終処分場を引き受けるべき義務など最初からない。つまり,現在の原子力発電政策とそのための基本法制は,最終処分場が存在することを必須の前提として組み立てられているわけだが,現実には最終処分場を引き受ける自治体はないので,「遂行不能」なことを必須の前提とする政策であり法制であることになる。要するに,原子力行政それ自体が,全体として,違憲であり違法だ。

そして,原子力発電所が無効な法制を根拠とするものであるとした場合,正当理由がないことになる。

このように,マクロ的に制度の全体像を考えることのできる法律家がほとんどいない。

小手先は器用だけれど,本質的なことについては何も考えられない者ばかりになってしまった。

このようなことになってしまったことについては,全て旧自民党政権に責任がある。この問題に関する限り,自民党には何らの発言権もない。

さて,緊急避難的な措置としては,東電の所有地に汚染汚泥等を積み上げて保管するしかないだろう。放射性物質はもともと東電の所有物なわけだし,東電が管理・処分すべきものだ。

それで足りなければ,これまで原子力発電を推進・擁護してきた経済産業省の敷地,最高裁の敷地等に積み上げて保管するしかない。それでも足りなければ,原発推進を最初に決めた中曽根氏の私宅に積み上げるしかないだろう。

以前にも書いたが,政府が「汚泥は危険ではない」と保障しているので以上のように提案している。もし本当は「汚泥は危険」だというのであれば,直ちに私見を撤回する。

その代わり,日本全土を危険な状態に陥らせたことにとについて,東電に業務上過失傷害罪が成立し得ることは言うまでもないが,その他諸々の特別法上の違反があることはもちろんのことだ。とは言っても,検察庁は,見て見ぬふりをするだろうと思う。

[このブログ内の関連記事]

 福島原発は最終処分場だった
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-9e4b.html

 政府は,最終処分場に関して,嘘を言うのをやめるべきだ
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-9399.html

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