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2011年8月20日 (土曜日)

FD(Faculty Development)

ある方から私のブログ記事を読んだ感想のようなメールを頂戴した。たぶん,下記の記事だろうと思う。

 人工知能学会誌 vol.25 no.2 特集「学習支援環境のシステマティックなデザイン:学習の工学を目指して」
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/vol25-no2-976f.html

そのメールの内容を開示するわけにはいかないが,私からの返信メールの一部をここで公開しようと思う。全部ではない。

「更に,長期的に考えてみると,大器晩成という言葉からもわかるとおり,教育の効果を短期間で測定することは不可能なはずです。しかし,多くの大学では,学生の就職率をもって教育の成果と等価のものとみなしています。これは最も大きな誤りだと思われます。私は,地方大学で経済を学んだ人間ですが,卒業後自宅にこもり2年間独学で法律学を習得し3年目の夏に司法試験に合格しました。(中略)その後,40歳で研究者に転進しました。同僚や先輩である裁判官らは,「これでおわったな」と思っていたようです。学問的業績をあげることなどできないと確信していたのでしょう。それから10年以上経過し,私は,目下,世界レベルでサイバー法の領域に属する重要な仕事に従事し,数々の論文を世に出し続けています。要するに,人の将来など誰にもわからないので,教育効果を測定することもできないのです。そうなると,学生の側から教員の教育方法の優劣を測定・評価することも理論上意味がないということになりますし,教員相互で評価し合うこともまた意味がないことになります。効果を測定不可能な以上,ある方法の合理性や有用性も評価不可能なのです。私見については批判もあろうかと存じます。しかし,私見としては,何の役にもたたないものなので,FD廃止が相当と考えます。」

以上のとおりだ。

一般に,「評価」は,対象となる事柄について「効果が測定可能であること」を必須の前提とする。ある「効果」をあげることができたかできなかったが「評価」の実質的内容になるからだ。

しかし,「効果が測定不能」な事柄については,原理的に,「評価」が成立し得ない。

評価が成立しない以上,「評価のための方法論に対する評価」も全く成立しないことになる。

上記の某氏からのメールは私見に反対するとか批判するとかいうものではなく,逆に同意見であることを前提とするメールだったのだが,以前書いた記事(上記で引用する記事)では,なぜ私がFDに反対するのか,その理論的根拠を必ずしも明らかにしていなかったので,再度同じテーマで記事を書くことにした。

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(余談)

戦車軍団で有名なパットン将軍は,読み書きに関する知的能力に障害をもっていたらしいというのが定説になっている。

そのせいかどうか,パットン将軍が学生のころ,短期的な意味での学業成績は必ずしもよくなかったらしい。

しかし,戦車軍団を率いる司令官としては比類なき才能を発揮したこと,それによって,北アフリカ戦線~シチリア島攻略及びノルマンジー上陸~ベルリン陥落までの間,米軍を優位に導いたという大きな功績があったこと,第二次世界大戦の後に来る世界規模での対立構造を鋭く見抜いていたことを否定する者はないだろうと思う。

他方,戦車軍団のリーダーとして,経験のない新兵をどう教育したかという点については,かなり多くの批判がある。要するに,たたき上げ重視であり,教育理論などないからだ。しかし,戦車戦に関して教育する能力を有する者は,当時,ロンメルくらしかおらず,しかも,ロンメルの方法はロンメルでなければ実行できなかったかもしれない。パットンの方法にしても同じだ。全ては結果論なので,ここでもまた教育論は成立しない。一つだけ確実に言えることは,パットンの指揮に従った部下達は,全滅という最悪の事態を経験しなくて済んだということだ。パットンが命じた軍事的行動の中には,パットンでない者が指揮官だったら全滅もあり得る無謀なものが決して少くなかったのではないかと思う(ドイツ軍が偵察活動とそのための方法論をもっと重視し,空戦の重要性を認識して空戦力を高め,戦車の機動性向上の努力を重ねていたら,戦況はもっと違ったものとなっていたかもしれない。パットンが優位にたてたのは,ドイツ軍の驕りと慢心に起因するところが少なくないかもしれない。)。

その無謀と無能の代表例は,理論的にも知的にも経験的にも地位的にも,パットン将軍よりずっと優れていると自己評価していたモントゴメリー元帥だったのではないかと思う。そして,その最も悲惨な実験例は,マーケットガーデン作戦だ。この作戦は無謀というしかないが,それでも仮に同じ作戦を実施するにしても,もし指揮官が優秀かつ勇敢な者であったとすれば,もっと損害が少なくて済んだかもしれない。

パットン将軍は,人格的に問題のある人だったかもしれない。しかし,人が神ではない以上,「万能人」など存在し得ない。だから,欠点があっても,それだけで全部駄目ということにはならない。

ともあれ,パットン将軍という存在は,「教育」というものを考える上で非常に貴重な資料の一つではないかと常に思ってきた。

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