まことしやかな嘘を見抜くこと
福島第一原発の復旧工事の工程が示されたことは新聞・テレビ等で広く報道されている。
福島第一原発の事故処理日程?
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-b109.html
期待値に過ぎないので,このとおりにできるはずがないのだが,一応,それを前提にした場合でも,自分に都合よく理解すると騙されてしまう。
実際,テレビのインタビューなどを視ていると,9ヶ月経てば一時帰宅できると思い込んでしまった地元住民が多数あることを理解することができる。結果的に騙されてしまっているということに気づいていないのだ。
正しくは,次のように考えると良い。
1) 仮に9ヶ月で放射能の漏出を阻止できたと仮定し,3月からそれまでの間に蓄積される放射性物質の分量がどれくらいになっているかを計算する必要がある。単純な加算だけの算数でよい。そうしてみると,とても人間が住めるような場所ではなくなってしまっているということを即座に理解することができる。つまり,9ヶ月後に住民が一時帰宅できる見込みは誰が考えても完全にゼロだ。経済産業大臣は,住民に期待を抱かせるような生半可なことを述べているが,逆に住民の失望感を深めるだけなので,もっと冷酷に事実に即した発言をすべきだろう。
2) では,どれくらい先になれば人の立入が可能となるかについては,過去の事故事例を参考にしてみれば良い。例えば,チェルノブイリ原発では事故後20年以上を経た現在でも,半径30キロ圏内が立入禁止となっている。石棺によって放射性物質の流出が阻止されてもそうなのだ。そして,石棺の耐用年数は30年程度なので,更新しなければならない。もし更新作業中に新たな放射性物質の漏出があれば,更に汚染が重ねられることになる。日本の福島第一原発でも同様の経過をたどると推定するのが妥当だ。つまり,チェルノブイリと同様に考えれば,今後30年間,一時帰宅できるようになる可能性は非常に低い。私見では放射性物質除去技術が向上していることから,合理的に作業をすれば20年程度で一時帰宅できるようになるかもしれないと考えているが,その場合,除去した放射性物質をどこに廃棄するかという非常に重要な問題が一切解決されていないので,結局,除去技術はあっても現実には使えないという状況が発生するのではないかと考えている。
3) 超有名大学の著名教授らの言うことを信じてはならない。正直に本当のことを述べるようになるまでは,国民全体に対する敵だと思ったほうが良い。そのような著名教授にコメントを求めるマスコミもまた,同じ穴の狢だ。つまり,まことしやかな楽観論は,すべて嘘だと考えなければならない。
4) 地震が終息すると考えてはならない。新たな地震によって工事現場が崩壊してしまう可能性がある。つまり,復旧工事ができなくなるだけではなく,誰も手のつけようがない状態になってしまう可能性がある。この場合,少なくとも福島県全域+宮城県南部+茨城県北部等にわたり,1万年以上の期間,立入禁止とせざるを得ない。福島第一原発ではMOX燃料が大量に用いられていたことを忘れてはならない。裁判所が差止請求を却下しなければこのような事態が発生することはなかったのだが,裁判官は自分がしていることの意味を全く理解できないくらい知性のレベルが低かったと思われる(←裁判官としてはもちろん不適なので,自分の愚かさを悟り,退官すべきだ。「想定外だった」と弁解するかもしれない。しかし,「想定する能力」または「予見義務を尽くすことのできる能力」がない者は裁判官になっていはいけない。)。
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福島原発周辺住民の涙
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原発周辺では,最短でも20年間は人が住むことは許されない
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コメント
矢島昭彦さん
「事故」のとらえ方が根本的に間違っているのでしょうね。
3月11日に1回的に発生したものとして理解しているのでしょう。
原発の事故というものは,放射性物質が完全に除去されるまで「発生し続ける」ものだという認識をもつ必要があります。
と言っても,テレビ局の人間を視聴者が再教育する方法が全くないので,どうにもならないのですが・・・
投稿: 夏井高人 | 2011年4月19日 (火曜日) 00時05分
4月18日夜21時からのNHKのニュースを見て、原子炉問題を収束させるのに最短6ヶ月かかる=最短でも家に帰れるのは6ヶ月後、というデマを発信していることを確認しました。どうやったらこのデマを消せるんでしょう?
投稿: 矢島昭彦 | 2011年4月18日 (月曜日) 22時01分