東電・清水社長の記者会見
下記の記事が出ている。
東電・清水社長会見(10完)「出処進退は今、言及する段階ではない」
産経ニュース: 2011.4.13
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110413/biz11041317400044-n1.htm
質問に対する回答がほとんどすべてナンセンスであり,かなり悪質な「悪い冗談」としか思えないので,精神状態が大丈夫なのかどうかかなり心配になる。
例えば・・・
--補償の部分で、漁業に迷惑かけたといったが、農業にも風評被害を含めて、大きな 被害が出ているが
清水社長「原子力損害に関する補償については、原子力賠償法に基づいて風評被害にも誠実に対応する」
という部分。
法律家として読むと,「補償する気はあるけれども,損害賠償責任はない」という前提に立っているとしか読めない。本当は,原子力賠償法ではなく,「民法709条の不法行為責任として損害賠償責任を負う」のであって,東電の全財産を売り払っても賠償し切れない場合には,国が何らかの支援をするというだけのことだ。東電は,自分が加害者であるという意識が全くないものとみえる。簡単にいうと,「自分に非がある」とは全く感じていないということを示す回答であることになる。
次に・・・
--株主代表訴訟は頭をよぎったか。マネジメントが機能していないと思うが、今の体制に問題はなかったか
清水社長「代表訴訟はさまざまな事象で意識している。組織のあり方は常にリスクマネジメントを描きながら取り組んでいる。要員の配置はしっかりやってきている」
とある。
しかし,リスク(脅威)とは,現実にはまだ発生していない危険のことを意味する。ところが,原発事故は現実に発生してしまっているので,リスクマネジメントを適用してはならない。このようなマネジメントにおける初歩の初歩がわかっていない者が経営者になっているとは本当に驚きだ。このようなマネジメントの初歩の初歩もわかっていない者である以上,直ちに退任させないと,会社がつぶれる。会社がつぶれれば,当然,被害者に対する賠償責任を果たすこともできなくなる。
ちなみに,「被害者は全国民であること」を忘れてはならない。放射能汚染により現実に身体的被害を発生させることがなくても,これまでだけでも十分に精神的苦痛を与えてきた。だから,東電には,全国民に対し,1人あたり100万円以上の慰謝料を支払うべき損害賠償責任がある。近隣諸国からも,当然のことながら,損害賠償請求があるだろう。しかるに,原発付近の住民に対してだけ雀の涙程度の「小銭」を渡して批判をかわそうとは,あまりにも姑息すぎる。
そして,
--福島第1原発の7、8号機について、供給計画の修正はどうやるのか。柏崎刈羽原発については、地元に説明していると思うが、再稼働の時期は
清水社長「柏崎刈羽の残りのプラントは解析耐震補強工事を進めている。明示できないが、3号機は年内のうちに工事を終え、了解をいただく手続きに入る。ほかのプラントも同時並行で、工事を進めている段階だ」
とある。
この回答は,「新潟では福島におけるような大津波があることを想定していない」と断言しているのと同じだ。
しかし,日本海側でも巨大津波が襲来して都市を破壊してしまったことがあることは歴史上既に明らかな事実だから,当然,10メートルを超える大津波が襲来することを想定すべき義務があり,そのような想定に基づき,原発の安全性を確保すべき結果回避義務がある。
加えて,柏崎刈羽の直下に活断層が存在することは既に公知の事実だ。
簡単に言うと,清水社長は,「想定しない」と言っているのと同じだ。このような者を経営者にしておくと,国民全てが犠牲者になってしまう危険性がある。1日でも早く退任させなければ駄目だ。
いずれにしても,まともに賠償しようとすれば,明らかに,東電は支払不能となってつぶれる。これは,不可避なことであり,それ以外の未来はあり得ない。
要するに,原子力発電所というものは,一度事故を起こしてしまい,その事故に対する損害賠償をきちんとやろとすれば,絶対にペイしないビジネスだということ,そして,現実に事故を起こすと企業としては全財産をもってしても賠償仕切れないことが最初から明らかなので,国民の税金を用いて国が「補償」することになるということを正しく理解しなければならない。
そして,国による「補償」は,増税によってまかなわれるしかない。だから,結局,補償として受け取ったお金をあとから徴税されてしまうという結論になる。「国の賠償責任」とは,経済学的には,「何の罪もない一般国民が税金をむしりとられること」を帰結するという当たり前のことを理解しなければならない。そして,基本的にはゼロサムなので,補償金が支払われてもあとから徴税されてパーになるというモデルが成立するのだ。
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(余談)
「法と経済」の専門家だと自称する人の中で,ちょっと問題の者が何人かある。
そのような者は,オモシロゲームみたいな理論いじりは得意でも,この記事の本文に書いたような経済モデルを構築することができない。
要するに,最も初歩的な経済学を全く知らないまま,または,そのように思考する能力がないのに,「法と経済の専門家」を自称しているだけだと評価するしかない。
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コメント
ROMさん
日本の社会というものが一体誰の利益のために運営されてきたのかをすけすけに見て取れるとても良い機会ですね。
投稿: 夏井高人 | 2011年4月14日 (木曜日) 21時21分
やはり、もう政財官で東電の救済は "握られて" いるようですね…。
経産相、原発事故の賠償「東電を政府が支援する枠組みで」 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C9381949EE3E6E2E7888DE3E6E2E6E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2
山崎元さんは批判していますが、どこまでこの声が届くのか…。
Twitter / Hajime Yamazaki /山崎元: 海江田経産相は、原発事故の賠償について「東電を政府が ...
http://twitter.com/yamagen_jp/status/58412714346815488
投稿: ROM | 2011年4月14日 (木曜日) 20時00分
夏井先生
早速出ましたね。
銀行の救済と同じく、東電もこれで救済される方向ですかね。はぁ…(ため息)。
五百旗頭氏、震災復興税を提案「全国民の負担を視界に」 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C9381949EE3E6E2939F8DE3E6E2E6E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2
復興構想会議 6月に第1次提言へ NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110414/t10015316751000.html
投稿: ROM | 2011年4月14日 (木曜日) 19時27分
ROMさん
そうかもしれませんね。
もし今が幕末~明治維新なら,たちまち「天誅」ということになっていくことでしょう。
投稿: 夏井高人 | 2011年4月14日 (木曜日) 05時52分
夏井先生
> しかし,リスク(脅威)とは,現実にはまだ発生していない危険のことを意味する。
> ところが,原発事故は現実に発生してしまっているので,リスクマネジメントを
> 適用してはならない。
彼ら(東電)にとっての「リスク」は、原発事故じゃないのだと思います。
彼ら(東電)にとってのリスクは、「被災者に多額のお金を自社だけで払う事態
になってしまうこと」であり、そうしないための「リスクマネジメント」として、
政財官で裏で"握って"おいて、最終的なツケは、国民に税金という形で払って
もらいましょう、というストーリーづくりが進められているのだと思って(邪推
して)います。
菅首相の会見も「国民がみんなで協力してこの困難を乗り切っていきましょう」
的なメッセージでしたが、その裏は、「増税しますのでよろしくお願いします」
ということだと思っています。
天下り先とか、既得特権だけは手放したくない「保身」を考える人たちによって
状況はどんどんと悪化しているようで、最近TVニュースなど見ても、怒りよりも
ため息が出るばかりです・・・。
投稿: ROM | 2011年4月14日 (木曜日) 01時33分