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2011年3月21日 (月曜日)

福島原発の事故による損害賠償責任を国が負うことになりそうだ-しかし,問題がないわけではない

下記の記事が出ている。

 福島原発,政府賠償1兆円超も 例外規定を初適用へ
 共同通信: 2011/03/20
 http://www.47news.jp/CN/201103/CN2011032001000542.html

ただし,この記事は若干不正確だ。

原子力損害の賠償に関する法律3条1項本文は,「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる」と定めているが,同項ただし書は,その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは,この限りでない」と定めており, 今回の被災が「巨大な天災地変」に該当するとすれば,そもそも東電に損害賠償責任が発生しないと解する余地がある(「原子炉の運転等の際」の解釈として,天災地変からの復旧作業を含まないと解することができれば,損害賠償責任が発生する余地がある。なお,テレビに出ている「専門家」が「想定外」を強調するのは,東電及び自分に損害賠償責任を発生させないようにするという意図があるかもしれない。私見では,想定していなかったとしても,今回の程度の津波の襲来は十分に予見可能な範囲であったので,想定しなかったことが重過失に該当すると考える。)。

そして,第16条1項は,「政府は,原子力損害が生じた場合において,原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第3条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ,かつ,この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは,原子力事業者に対し,原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする」と定め,同条2項は,「前項の援助は,国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする 」と定めている。

したがって,第3条1項ただし書により,「天災地変」によるものとして東電が損害賠償責任を負わない場合には,16条1項を適用しようがない。16条1項は,東電が損害賠償責任を負う場合であり,かつ,その額が一定額を超過する場合にのみ適用できる。

つまり,「天災地変」による場合として,東電が損害賠償責任を負わない場合には,16条1項による国の救済はできない。

上記記事で例外措置と述べているのは,17条1項のことと思われる。17条1項は,「政府は,第3条第1項ただし書の場合又は第7条の2第2項の原子力損害で同項に規定する額をこえると認められるものが生じた場合においては,被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする」と定めている。

これは,「天災地変」として東電が一切損害賠償責任を負わない場合に適用される救済策だ。東電が損害賠償責任を負う場合には,適用されない。

ここから先は,法解釈論というよりは政策論なのかもしれないが,今回のような重大な結果を出したのに,17条を適用するための必須の前提である3条1項ただし書により「東電には損害賠償責任がない」との結論を先行させることは,絶対に国民の納得するところではない。そのようなやり方をすれば,国民は,絶対に政府と東電を許さないだろう。また,そのような解釈をすることは,これまでイエスマンで通してきた「専門家」の法的・社会的責任を隠蔽することにもなる。

私見としては,東電がさっさと記者会見をひらき,「天災地変」ではあるけれども予見可能の範囲にあり,それを予見して結果回避措置を講じなかったこと(「想定」しなかったこと)について法律上の義務違反を認めて損害賠償責任を負うことを明らかにすべきだ。

その上で,16条1項により国が賠償の支援をするものとすることが妥当だと考える。

もし東電が「天災地変」であるとして損害賠償責任を負わないとの姿勢を貫き,逃げ続けれるとすれば,経営陣,従業員及び東電の財産並びに東電のブレーンである専門家や顧問弁護士等に対する個人テロが発生する危険性もある。

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(参考)

原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年6月17日法律第147号)

第二章 原子力損害賠償責任

第3条(無過失責任,責任の集中等)
1 原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし,その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは,この限りでない。
2 前項の場合において,その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは,当該原子力事業者間に特約がない限り,当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。

第四章 国の措置

第16条(国の措置)
1 政府は,原子力損害が生じた場合において,原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第3条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ,かつ,この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは,原子力事業者に対し,原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2 前項の援助は,国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。

第17条 政府は,第3条第1項ただし書の場合又は第7条の2第2項の原子力損害で同項に規定する額をこえると認められるものが生じた場合においては,被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。

第五章 原子力損害賠償紛争審査会

第18条
1 文部科学省に,原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行わせるため,政令の定めるところにより,原子力損害賠償紛争審査会(以下この条において「審査会」という。)を置くことができる。
2 審査会は,次に掲げる事務を処理する。
 一 原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。
 二 原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること。
 三 前二号に掲げる事務を行うため必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。
3 前二項に定めるもののほか,審査会の組織及び運営並びに和解の仲介の申立及びその処理の手続に関し必要な事項は,政令で定める。

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[追記:2011年3月24日]

その後,更に検討してみた結果,この法律には重大な欠陥があることがわかった。

上記で書いたとおり,東電が損害賠償責任を負うか否かによって16条を適用するか17条を適用するかが分かれる。

しかし,東電が過失を認めて損害賠償責任を負うと決める場合はともかくとして,もし法廷で争うと決めた場合には,東電敗訴の判決が確定するまでは,16条と17条のいずれを適用すべきかを判断することができない。

そして,この種の訴訟ではへたをすると10年以上もかかることがあるから,それだけ長い年月を待たないと,16条と17条のいずれを適用すべきかを政府として判断することができない。

つまり,早期の救済のためには致命的な欠陥を有する法律であることになる。

しかし,本文にも書いたとおり,政府は,政治判断として,東電が損害賠償責任を負う場合を前提とする16条を適用すべきだ。そして,政治判断として,東電に対し,訴権を放棄し,損害賠償責任を認めるように強く説得すべきだと考える。

ただし,政府によるこのような説得は,国家権力による東電の私権に対する侵害行為であり,憲法違反であるとの見解は十分に成立可能だ。

しかし,今はそんなことを言っていられる状態にはない。

私としては,東電の社長が正しい決断をするのが最も望ましいと考えている。

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