ジャミング装置と通信の自由
携帯電話等の電波を妨害するためのジャミング装置について,通信の自由を侵害するとの見解がある。
たしかに,公共の場ではそうだろうし,とりわけ第三者の無線通信を阻害する場合にはそうだろう(それゆえ,ジャミングのための干渉波が外部に漏れないようにする工夫が必要となる。)。
しかし,そのような問題をクリアしているという前提で,入試等においてジャミング装置を用いて無線通信を無効化することについて,通信の自由が問題になる余地はないと考える。
なぜなら,大前提として,大学の構内では,大学の規律に従った秩序により管理することができるし,されなければならないからだ。そして,大学入試に限定して言うと,入試中に受験者が外部と通信をしてはならないことは当然のことであり,ジャミング装置は,そのための技術的手段の一つに過ぎないからだ(現時点では,携帯電話のスイッチをオフにしてカバン等にしまうことを受験生に命じ,試験監督者がそれを確認するという手作業でやっていることを自動化・電子化するだけのことに過ぎない。もしジャミングが違法であるというのであれば,携帯電話のスイッチをオフにさせることも違法であることになるが,そのような馬鹿な見解を支持する者はいないだろう。)。
自分が支配する環境の範囲内において電波や音波を遮断することは,その支配を有している者(大学構内では大学の理事長等,私宅ではその所有者等)が自由にすることができる。それゆえ,オーディオやピアノ練習用の防音室を室内に設置することができる。電波を完全に遮断する部屋や施設を設置することももちろん可能であり,理系の大学研究施設等では,そのような設備や施設が数え切れないほど多数存在してきた。高層ビルにキャンパスを有する都市型の大学では,各階に携帯電話の電波を送受信するためのアンテナが設置されており,それゆえに高層階でも携帯電話を用いることができるのだが,アンテナの機能を停止するだけで,高品質の通信を利用することがほとんど不可能にすることができる。これまた施設管理者の管理権の範囲内に属することであり,通信の自由とは関係がない。
つまり,もともと,自分が管理する場所や施設の範囲内で音波や電波を完全に遮断することは,その管理者の自由の範囲内に属することなのであり,通信の自由とは全く無関係のことだ。
理論的にも,受験生は入試の試験時間中には誰かと通信をしてはならないのであり,そのために必要な何らかの措置を講じても,そもそも通信をしてはならない者が対象である限り,通信の自由に対する侵害が発生する余地が全くない。
そこらへんのことをごちゃまぜにしてしまった報道が散見されるが,常識に従い,普通に考えた上で報道してもらいたいものだと思う。
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