厚生労働省が就業中の震災被災について労災の認定をする方針とするようだ
下記の記事が出ている。
勤務中の震災被害、労災認定へ 厚労省が方針
共同通信: 2011/03/31
http://www.47news.jp/CN/201103/CN2011033101000023.html
理屈から言えば,業務起因性(または通勤起因性)がないので,労働災害とは認めないというのが裁判所の判例の態度ということになるだろう。業務や通勤それ自体の中に地震や大津波の危険性が内在しているとは考えられないので,その内在的な危険が顕在化することもあり得ない。単に,一般的な危険があるというだけのことに過ぎず,その危険は労働者であると否とを問わず,誰にとっても危険だからだ。
労働災害の本質について,労働それ自体に内在する危険としてとらえる限り,そのような理解は間違ってはいない。
しかし,それが判例理論の(理論それ自体としての)限界だとも言える。
かつてのオウム真理教関連の事件でも,裁判所がそのような理解をしていることが大きな限界となっていた。通勤途上に公安のスパイと誤解されて拉致された労働者の家族からの労災請求について,大阪地裁,大阪高裁及び最高裁とも業務起因性がないとして労災事故とは認めなかったのだ(請求棄却で確定)。
人情論としては,どうも妙な理屈だと思われる。
この理屈に従うと,地下鉄でサリンによる被害を受けた人々についても労災の適用がないということになりそうだ。
しかし,労働基準監督署は,通勤途中に毒ガスによって被害者となってしまった多数の人々について,労働災害であると認定し,労災保険法に基づく労災給付をした。
もし労働基準監督署がサリンの被害者について労災であるとの認定をせず,不支給処分取消しを求める訴訟が提起されたとしたら,やはり業務起因性や通勤起因性がないとして請求棄却の判決がなされた可能性が非常に高い。
今回の震災について,厚生労働省が労災として認定する方向で方針を決めつつあるということは,被災者にとっては大きな朗報だと思う。普通の労働者は,仮に生命保険をかけていたとしてもそんなに大きな額の生命保険をかけていない。だから,一家の柱を失った家族は,とことん悲惨な境遇に追いやられる危険性がある。
労災保険制度に関する法解釈論上の理屈はともかくとして,行政としての救済がなされることになりそうだという具合に理解すれば良いのだと考える。
なお,最高裁としては,本当に従来の判例理論のままでよいのかどうか,再検討すべきだと思う。
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