今後のロボット開発は危険な場所での作業用ロボットの研究・開発に重点を置くべきだ
日本はロボット大国と言われる。
たしかに,その通りだと思われる。特に産業用ロボットの分野ではそうだ。
しかし,停電になると,ロボットは動かない。その意味で,産業用ロボットは産業界のアキレス腱ともなっている。しかも,ロボットの導入により,(当然のことながら)人員削減も行われることから,社会の安定性確保という意味では,実は脆弱性要素のひとつでもある。
他方,様々な人間型ロボットもつくられている。
要するに,江戸の「からくり人形」の現代版に過ぎない。アザラシ型ロボットや女の子型ロボットもその類型に入る。
欲しい人がいるのかどうかはわからないが,これまた停電になるとバッテリーの充電ができなくなって動かなくなり,単なる粗大ゴミとなる。人間は,飲み食いしなくても一定期間なら生きていられるが,いざとなれば何でも食べて生き残ることが可能だが,ロボットではそういうわけにはいかない。
そして,実に様々な特殊用途のロボットも作られている。中には危険な場所での作業のためにつくられているものもないではない。
しかし,今回の震災及び原発トラブルによって,ある弱点があることが判明しつつある。
それは,強力な放射線や電磁波を浴びると動かなくなるものが大半だということだ。また,海水など電気伝導率の高い液体をかぶったり,微細な塵をかぶったりするとショートして動かなくなるロボットが一般的だ(水中作業用ロボットは例外)。
このようにみてくると,人間では危険すぎて作業できない場所で使用するためのロボットが実際にはほとんどつくられてこなかったことを理解することができる。
現に,原発の施設内では,人間が防護服を着用して仕事をしてきたのであり,ロボットが仕事をしていたわけではない。
私が思うには,ロボットは人間の仕事を奪うために存在してはならない。そうではなく,人間にとっては過酷過ぎる条件下での仕事をさせるために存在すべきだ。
そうであるとすれば,今後は,人間型であると否とを問わず,防水性・防放射線性・防電磁波性・防塵性が非常に高い危険作業用のロボットこそ,日本が開発を進め実用に供するべきロボットなのではないかと思う。
これに耐熱性を強化したロボットを加えれば,危険すぎて消防署員が入ることのできない場所での救助活動や消火活動にも使うことができるだろう。
また,停電でも一定時間使い続けることができるよう,長寿命・防水性・防放射線性・防電磁波性・耐熱性・防塵性に優れた高出力小型電池の開発も急務ではないかと思われる。
日本人は,歴史上何度もひどい災難と遭遇してきた。それでも立ち上がり立派な国を築いてきた。
今回の震災の被害は想像を絶するものとなっている。本来防災の役にたつはずのものが全然役にたっていないという事例も数え切れないほど多数存在する。
しかし,そのような事例を教訓にして,国の防災力を高めるロボットをつくるという方向に産業界は重点をシフトすべきだ。そのようなロボットは,日本だけではなく,世界中から歓迎されることになるだろう。
日本は,地震国であり火山国であり津波の国だ。今回の大震災が歴史上最後の大震災ではない。今後も今回と同規模かそれ以上の悲惨な大規模震災をいやというほど繰り返し経験しなければならない。
だからこそ,そのような場合に役に立つロボットの研究・開発を進めなければならない。
そして,国もまた,需要がないのに遊びでロボットをつくらせているようなくだらない政策を改め,質実剛健で実用性の高いロボットの開発を基本政策の一つとし,財政支援も含め,強力に推進すべきだと考える。
日本の産業界の底力に期待したい。
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コメント
星野益三さん
コメントありがとうございます。
私も非常にがっかりしている者の一人です。
日本の「モノづくり」とはこの程度のレベルのものだったのでしょうか?
どうやら米国から危険作業用のロボットを借りることになったようですが,何とも情けないことです。
日本の産業界は,反省すべき点が多々あると思っています。
それは,「需要」サイドで発想することなく,「供給」サイドだけで発想して製品開発をしてきたことです。
需要者が需要するものをつくれば売れるはずなのにそうしない。その代わりに,「こんな技術を開発した」ということになると,「どうにか製品化しろ!」と号令が出て,そして,コマーシャルで煽って無理やり需要を作り出す。そんなことを繰り返してきたと理解しています。ロボットに限らず,食品でも化粧品でも医薬品でも何でもそうです。企業で働く研究者の姿勢にも問題があるかもしれません。
だから,誰も使いそうにない女の子のロボットやあざらしのロボットみたいなものばかりになってしまいます。
本文にも書いたとおり,私は「人間の労働」を奪うロボットには大反対です。
そうではなく,人間にとって過酷な労働を代替するロボットを開発すべきでしょう。その典型例が危険作業用ロボットだと思います。
産業界は猛省すべきです。いざというときに役立つ危険作業用ロボットを安価に提供してこなかったのですから。
投稿: 夏井高人 | 2011年3月31日 (木曜日) 16時21分
今回の事故に対する人海戦術を見て、日本のロボット技術に対して非常にがっかりしました。
日本には危険作業用ロボットは無かったんだと・・・。
多くの研究者はその方々の学会、職人さんたち、ロボットおたく、ラジコン(遠隔操作)おたく・・・、この方々の知恵と腕をもってすれば、原発事故の復旧に使える単一作業ロボットをすぐにでも作れるものと思います。
スイッチをオンオフするだけの指、ホースを運ぶだけの肩、またそれをつなぐ手、自走式のどこへでも行ける目と耳(計測器)、危険を知らせる声を出す口、どこへでも登って行ける足・・・、色々考えられると思います。
当然、ラジコン(遠隔操作)、カメラ付(ビデオをつけてもいいかなあ)、クローラなどでどこでも走れるようにします。
こんなこと直ぐにできませんか?
投稿: 星野益三 | 2011年3月31日 (木曜日) 15時56分