政府は首都圏近郊の輸送手段の復旧を緊急の重点課題としなければならない
首都の人間は,(東京湾のコンビナートで生産される石油製品等を除いては)基本的には物体を何も生産せず,物体を消費するだけの存在だ。GDPの計算ではサービス等も「生産」として数字を計上するが,(当たり前のことながら)数字だけでは空腹を満たすことができない。その意味で,首都の人間は,首都圏近郊に寄生するパラサイトであると位置づけることができる。要するに,現代社会は,パラサイトを基本構造としている。
ただ,そのパラサイト人口がべらぼうに大きい。
そのパラサイト人口の需要を満たすためには,首都圏近郊での物流を確保する必要がある。
そのために,一方では首都圏近郊から食品や工業製品等を首都に運搬するために必要な物流経路を確保することが重要であると同時に,東京湾のコンビナート等で生産されるガソリンなどを首都圏近郊に運搬し,①首都圏近郊から首都への輸送手段であるトラック等の運行に必要な燃料,②温室野菜を栽培するのに必要な燃料(冬の間には温室でなければ野菜を生産できない),③家畜の飼育に必要な飼料や燃料及び加工工場に必要な燃料(鶏肉,鶏卵,豚肉,乳製品等の多くを北関東や東北で生産し首都に出荷している。),④工業製品の生産に必要な燃料や原料等,⑤加えて,首都圏近郊の農地や工場等で働く人々の足となっている自動車の燃料(首都では電車が最も重要な交通手段だが,首都圏近郊では自動車なしには何もできない。)を運搬するための手段を確保することが非常に重要となる。もちろん,大量輸送手段としてのJR線(貨物線)も極めて大きな役割を担っており,それを回復しないとジェット燃料等の輸送にも支障が生じ,空の輸送手段が失われてしまう危険性がある。
東北地方の被災地の惨状は,テレビなどでいやというほど見せ付けられている。今回の被災者の中には親類や親しい知人・友人が多数含まれており,中にはまだ行方不明のままの方もある。そうした被災地の救援はとても大事なことだ。
しかし,首都圏近郊の建て直し・復旧を急がないと,東北地方の被災者を救援したくても救援するだけの余力が首都及び首都圏から完全に失われてしまう危険性がある。
政府は,そこらへんのところをよく考え,そして,首都もまた直接・間接に被災地の一部なのだというこれまた当たり前すぎるほど当たり前のことを正しく認識し,必要な施策を急いで講ずるべきだと考える。
国会議員や国務大臣等は巨額の税金と権力によって守られているので,あまり危機感がないかもしれないが,一人の人間としての視点にたち,ちゃんと思考・判断・行動して欲しい。
この国難を乗り切るためには,政争なんかやっている場合じゃない。くだらないあげ足取りのようなことばかりにこだわる国会議員は,次の選挙において必ずやその報いを受けることになるだろう。そのことを銘記すべきだ。
今は総力戦として乗り切るしかない。
私は,もしできることなら老骨に鞭打って郷里の被災地に駆けつけ,捜索や復旧のために何かできることを手伝いたいという気持ちでいっぱいなのだが,私自身も今回の地震の被災者であり,移動手段が物理的に失われてしまっているのでどうにもならない。そのような極めて複雑な気持ちでこのブログを書き続けている。
[追記:2011年3月16日22:04]
関連記事を追加する。
高速道で通行証発行=タンクローリーに特別措置-被災地にガソリン供給・警察庁
時事通信: 2011/03/16
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011031601053
[追記:2011年3月17日]
関連記事を追加する。
政府無策の6日…緊急本部、具体案示せず
Yomiuri Online: 2011年3月17日
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110317-OYT1T00105.htm
私見である「戦時と平時が常に共存する状況」の下においては,緊急事態への対応と常務の健全な遂行とを併行して実施しなければならないという困難性がある。そして,それを両立させなければ対応に失敗する。あることがらだけに全てのリソースを投入すると,必ず失敗する。このような事態に対応するためには,文民であっても常に軍事に関する研究を怠ってはならない。このことは企業でも全く同じだ。ある作戦を成功させるために,平素仮想の課題を適正に想定することのできる能力,その仮想の課題を踏まえ,平素事前に何を準備しておかなければならないのかを構想する能力,そして,戦略と戦術との相違を踏まえ,現実に発生している課題に対して適切に対応するため,権限とリソースを適正に分配することのできる能力等が求められる。しかし,現実に行われていることは,せいぜい軍曹レベルのことだけだ。悲しいことだが,それくらいの実力しかない。
しかし,やれることはある。
関係各省庁の次官クラスで現実的な対応策を練り,上申し,権限を得て実行することだ。それが成功した場合,その手柄と名誉を与えてやればそれだけで喜び,常に自分の自己満足とそのための人気とりしか考えないようなタイプの司令官に対しては,そのようにしておだててやれば意外と簡単に権限を与えてくれることだろう。部下が苦労してなしとげた成果を褒めるでもなく,ぜんぶまるごと自分の手柄として横取りしたがる上司やトップなどは,どのような組織にも存在し得る。彼らの脆弱性は,まさに横取り能力に長けていることにある。下々の者は決して馬鹿ではなく,常に冷静に観察している。そして,危機が去ったと誰でも判断できる時点に至ると,民意が離れたり,下克上が発生したり,裏切りが起きたりする。ここでもまた,真の意味での利己と利他というものを鋭く洞察し,真の意味での利他として判断・行動することが大事だ。
もともとちゃんとした参謀を置いていない組織なので,参謀よりももっと下のレベルの組織が参謀的な役割を果たすしかない。これは,組織としては非常にまずいことなのだが,破綻し全滅してしまうよりはマシだと思う。
関連する記事として,下記の記事が目に付いた。
常識を越えた自衛隊10万人“全軍”動員
産経ニュース: 2011.3.17
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110317/plc11031700140000-n1.htm
ちなみに,事業仕分けは,安っぽい経営者や聞きかじりだけで威張っている似非学者等にしばしば見られるような安易な「最適化」の考え方をベースにしている。基本的には,フェイルセーフやバックアップとなるような部分を単純に切り捨てて名目上のコストダウンだけを狙うやり方なので,結果的には,余力が全くなくなり,極めて脆弱な組織しか残らない。私は無駄を排除しなくても良いと言っているのではない。しかし,平時においては無駄に見えるリソースが実は「貯金」のようなものとして,緊急時においてフェイルセーフやバックアップの役割を果たすということがいくらでもある。そのことを正しく認識し,判断し,決断するのがトップの責任だと思う。一流の企業の経営者は,みなそれができている。一流と二流の相違はそこにある。
[追記:2011年3月19日]
関連記事を追加する。
北沢防衛相、「決断」丸投げ 現職自衛官が悲痛な寄稿
産経ニュース: 2011.3.19
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110319/plc11031901160000-n1.htm
[このブログ内の関連記事]
線路の被災の影響
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-aeb6.html
物流の確保が急務
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/03/post-7330.html
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