頭でっかちで事実認識に欠ける対応策は滑稽を通り過ぎて残忍だ
屋内待機の措置は,一見もっともらしいが,実は変だ。
福島の原発周辺は,大変な被災地だ。たいていの家屋に何らかの損傷があるだろう。
とりわけ海岸線沿いの家屋では,屋根と柱しか残っていない家屋でもましなほうである場合が珍しくない。壁が残っていても,窓が破損している例が非常に多い。それでもそこに待機せよというのだろうか?
たぶん,大地震のあとでも家屋だけは何ら問題なく立派に建っているという前提でものごとが判断されているのだろう。
テレビのアナウンサーが「窓をしめてください」と原稿を読み上げるのを耳にするにつけ,「この人たちには現実感というものが全くないのだなぁ~~」と深く幻滅するのだ。結局,何もわかっていない人々がテレビという公器を支配してきたということなのだろう。これでは,日本の知性がおかしくなってしまうのも無理はない。
とはいえ,もちろん,何ら問題のない家屋も多数あるだろう。
そうだとすると,家屋に問題のある場合と問題のない場合とを分けた対応策も理論的にはあり得ることになる。しかし,これまた非現実的な案だ。
本当は,原発に近い地域に残留している住民に対し,1秒でも早く強制的に退避させるための方法を考えるのが正しい。
住民の強制避難の経過の中で,住民が多少被爆してしまうことがあるかもしれない。それでも,同じ場所でずっと被爆し続けるよりはマシなのではないだろうか?
なお,私自身は,原発から100キロ以上離れている。100キロ以上離れていても,近隣の観測点で得られているデータによれば,一定程度以上の放射線が継続的に計測されている。
しかし,JR常磐線の線路が地震により曲がってしまって不通になっており,また,ガソリンが枯渇して給油できないため自動車を動かすことができない。仮に移動できたとしても,首都圏であればどこでも同じような状況だろうと思う(東京都内では観測点が非常に少ないので,詳しいことがわからない。)。
したがって,黙って自宅の中にいるしかない。その自宅では余震による火事を避けるため暖房を止めており,冷え切っている。
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(余談)
この関係の報道をずっと観てきたが,本当に悪い意味で頭でっかちなだけの人が多いことに本当にあきれている。
一般に,豊かな想像力は,リアルな事実体験の豊富な積み重ねなしには絶対に形成されない。悪い意味での秀才の頭脳には大量の符号が詰め込まれているかもしれないが,それは単なる符号に過ぎないのであり,事実そのものとは相当かけ離れていることが普通だ。
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コメント
高梨さん
ご無事でなによりです。
別の記事で紹介している震源地マップをみていると,首都の地下が震源になっている直下型地震がこの数日間だけでも既に何度か起きていますね。それでも日本の高層ビルはびくともしないわけですから,たいしたものだと思います。もちろん,耐震になっていないビルの中には一部壊れたところもありますけど,それは仕方がないです。
緊急時対応として,パニック等を避けるため,公開できない情報はあります。この私の場合でも,個人的には知っている情報であっても,いろいろ考えた上で,公開のブログでは一切触れない情報が多々あります。
しかし,放射線量の情報は,ネット上で知ることのできる公開情報なんですよ。ただ,アクセスが集中しているらしく,なかなかアクセスできない。そこで,この記事を書いてみました。
テレビ報道をみていると,ちょっとかじっただけで知ったかぶりのキャスターなどが専門家顔をしてどうのこうの演説をぶっていることがあり,辟易します。そのようなことをしている暇があるなら,ネット上でも公開されている放射線量情報をファクト情報としてコメント抜きで流してくれたほうがずっと助かります。
被爆量とその身体に対する影響については,これまたネット上で信頼できる情報を得ることができます。放射線関係の医療の専門家の意見であれば聞く価値が十分にありますが,所詮私と同じ素人の一員に過ぎないニュースキャスターの個人的意見や評論など聞きたくないです。
さて,微量とはいえ現在のレベルの放射線の影響には個人差がありますから,絶対安全ということはないし必ず危険ということもできません。健康被害等を平均値でしか考えられないのは,工場で画一的に生産された製品しか知らない人の発想であり,本当はかなりゆがんだ発想だと思います。
すべては個別事例の集積に過ぎないので,個別の対応が必要なんですよ。
今後もいろんなことが起きるでしょうけど,常に冷静であってください。そして,結局は,自分のことは自分で守るしかありませんが,希望を捨てることなく,しっかりと頑張ってください。
この震災が終わったら,いつかまたお会いしましょう。
投稿: 夏井高人 | 2011年3月15日 (火曜日) 15時43分
元聴講生さん
コメントありがとうございます。
隙間風で冷暖房の効果が失われるのは事実です。ガムテープ等はたしかに効果がありますね。
ただ,完全に密封してしまうと数時間で酸欠になり死亡してしまうので,空気の流通をブロックすることはできません。
したがって,空気中の気体成分に放射性物質が含まれている場合,誰がどうやってもブロックすることはできないんです。そこらへんは諦めてください。
原発から30キロ以上離れていれば急性の被爆障害が発生することはまずありませんから大丈夫です。
自衛隊の特殊部隊だけではなく,米軍等の海外の専門チームが今回の事故対応について,既に積極的にかかわっています。
一般市民である私としては,現場で事故対応にあたっている人々の安全を神仏に祈りながら,一日でも早い解決を待ち続けています。
投稿: 夏井高人 | 2011年3月15日 (火曜日) 15時30分
先生お久しぶりです。元ゼミ生の高梨です。
この度は大変な事態になり、心からお見舞い申し上げます。ご無事とのことで何よりです。
私は発生当時25階にいまして、大変恐怖を感じました。
授業の中で災害、テロ等における情報公開、報道規制について少し議論したことがあったと記憶していますが、今回の事態は非常に考えさせられます。
私もテレビ各局は各地の大気中放射線量や計画停電情報の公開について、極めて重要な役割を有していると考えます。
投稿: 高梨 | 2011年3月15日 (火曜日) 14時08分
当初、放射能対策として、サランラップとガムテープでできる限り窓やドアの隙間、室外機付の暖房器具などをすべて覆ったところ、予想外に室内を暖かく保てています。
投稿: 元聴講生 | 2011年3月15日 (火曜日) 13時50分