入試問題漏洩事件の影響で携帯電話を禁止するというが・・・
馬鹿げていると思う。
あくまでも冗談だが,「スマートフォンだからケータイじゃありません」と言ってスマートフォンを持ち込む者,同様に,トランシーバやPCを持ち込む者が出てきたら,いちいち(「お前は馬鹿か」と言うと,すぐに名誉毀損で訴えられることになるので)「入試要綱に携帯電話禁止と書いてあるのは,当然解釈として,外部と無線通信することのできる電子機器は禁止という趣旨で・・・」と長々と説明し,議論になってしまったり,あるいは,ありとあらゆる種類の電子機器の禁止を入試要綱に印刷したり,ということになってしまいかねない。
そうではなく,別の解決策があるだろうと思う。
例えば,干渉波を出して無線通信をできないようにしてしまう機器(ジャミング機器等)を校舎内に設置するのが妥当だ。そのような機器は,大学入試のときだけではなく,静粛を要する講義や講演会,期末試験等のときにも利用することができるから,利用価値が高いと言える。
ちなみに,2004年に携帯電話を用いたリモートカンニングが発覚して大きな社会問題となった隣国韓国の報道等をみていると,「いまどき金属探知機も設置しないで入試をしているとは,日本は時代遅れの国だ」という趣旨の嘲るような意見もあるようなのだ。しかし,「金属探知機を設置しないと入試を実施できないほど民力が低いということになるのかもしれない」ということを冷静に再考してもらいたいものだというのが率直な感想だ。
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(余談)
大学では,通常,カンニングがあり得ることを想定し,大学入試でも定期試験でも,カンニングその他の不正行為に対する対応をマニュアル化し,教職員に徹底している。
だから,大学入試でカンニングがあったことが発覚し,それに対して対応することは,予め想定された業務を想定どおりに遂行しているだけのことになる。つまり,業務を妨害しているのではなく,当初からなすべきものとされていた業務を遂行しているのに過ぎない。
そうなると,業務妨害罪の成立は難しいのではないかとの考え方もあり得る。
そもそも業務妨害罪については法解釈上の問題がある。この点については,昨日発行した有料会員向けプレミアムサービスの中で詳しく書いたし,本日発行したニューズレターの中でも簡単に触れておいた。
しかしながら,例えば爆破予告事件などで業務妨害罪の成立を認めることに批判的な意見は少ない。爆破予告があれば,それに対応して捜査活動等をするのは警察の本来的業務そのものなので何も業務が妨害されていないことになるのではないかとも考えられるのだが,そのような意見はあまり耳にしない。私見としては,単純に脅迫罪等で対応すればよいと思うのだが・・・
さて,カンニングだが,もし大学入試のカンニングが偽計業務妨害罪に該当するという見解が正しいとすれば,今後,大学の定期試験でカンニングがあった場合にも,大学としては,当該学生を偽計業務妨害罪で告訴または告発しなければならないということになるだろう。
それでよいかどうかがこの問題を考える際の重要なポイントになるのではないかと思われる。
ちなみに,過去において,司法試験の問題が公開されていなかった当時,過去問題の再現問題集を出版する行為が偽計業務妨害罪に該当するとの見解はなかったように記憶している。もしこれも偽計業務妨害罪に該当するとすれば,司法試験問題を暗記して持ち帰り,出版社や司法試験受験団体等に協力した受験生(現在裁判官,検察官,弁護士となっている者を含む。)は,全員,偽計業務妨害罪の共同正犯であるか幇助犯であったことになるだろう。
[2011年3月1日]
念のため,他の法令違反の罪についても検討してみた。
著作権法上の権利(公衆送信権)の侵害については,著作権法13条1項2号に該当する場合を除き,一応,成立の生むを検討すべき余地がある。しかし,数学の問題については,数式が最適化されたものであればあるほど創作性の余地が乏しくなってしまうので,そもそも著作物ではないということになりそうだ。ここらへんのところは小倉秀夫先生が特に詳しいので,興味のある方は小倉先生のブログで質問してみたらよいのではないかと思う。
私立大学の場合,入試問題であっても,その公開前には営業秘密の一種であると解する余地がある。しかし,カンニングが不正競争行為であると解するのは難しいのではないかと思われる。
軽犯罪法1条31号の適用に関しては,業務妨害罪の場合と同じ問題がある。なお,大学入試は「儀式」とは言えないので,同法1条24号には該当しない。
詐欺罪が成立しないことに異論はないと思われる。他人を騙して役務を提供した場合に詐欺罪を成立させるような立法的解決を図るしかない。なお,カンニングによって不正に入学した者が後になって発覚し入学を取り消された場合,既に支払った入学金や授業料等は不法原因給付(民法708条)となるので,その返還を求めることができない。
このほか,もしかすると,地方自治体の迷惑防止条例の中には該当し得るものがあるかもしれないが,全ての条例を調べているわけではないので,わからない。
要するに,ドイツ刑法のように保護されたデータ一般に対する無権限アクセスや無権限送信行為等を処罰する法令が存在しておらず,特定の法益侵害に該当する場合のみ処罰するものとする法制度しかない日本においては,どんなに「けしからん行為」であっても処罰することができないといういつもの「おきまりのパターン」ということになる。
[追記:2011年3月2日]
ほぼ特定できてきたようだ。関連記事を追加する。
都内2高校生が関与 1人は外で中継 京都府警ほぼ特定
産経ニュース: 2011.3.2
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110302/crm11030213560020-n1.htm
なお,被疑者は未成年者のようなので,少年法の適用がある。
業務妨害罪の適用に困難がある場合,家庭裁判所は,少年法3条1項1号または2号を適用せず,同条同項3号の「ぐ犯」として扱う可能性がある。その場合,リモートカンニングが業務妨害罪に該当するかどうかの判断をしないことになる。なお,該当するとして3条1項1号または2号により対処する場合でも,少年審判が非公開となっていることから,結局,裁判所の判断を知ることはできないだろうと思われる。
かくして,事例としては,裁判所の判断を知ることができない可能性の高い事件となりそうなので,学者が議論して結論を出すしかなさそうだ。
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