世間では騒ぎになっているが,世界的にはほとんど関心をもたれていないニュースの一つだというところが面白い。一応,下記の記事が出ている。
【尖閣ビデオ流出】「最初から公開すべきだった」民主・川内氏
産経ニュース: 2010.11.6
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/101106/plc1011061131008-n1.htm
ちなみに,犯人探しが始まっている。
犯人探し騒動は,尖閣諸島をめぐる国際的・政治的問題の本質から国民の目をそらせるためにはうってつけの材料だと言えるだろう。
もしかすると,そのためにあえてリークされたものかもしれない。それは,「策士策に溺れる」的なタイプの人間であれば,思いつき的に考え付くかもしれないやり方の一つではないだろうか。
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ここから先はあくまでも一般論であり,具体的な事件や人物等とは一切無関係なのでくれぐれも誤解のないようにお願いしたい。
一般に,国家機密や企業秘密等の機密情報の漏洩事件に関する限り,末端の公務員や従業員等を容疑者と決めてかかると,初動段階で大きな間違いを犯してしまうことがしばしばある。
過去の歴史をひもとくと,国家や企業のトップが実はスパイであったという事例を数え切れないほど多数列挙することができる。幹部職員等ではもっと多いかもしれない。
ここで,容疑者を推定するための方法を関数的に表現してみると・・・
容疑者(x)=・・・・
として表現可能だ。
そして,あくまでも一般論としては,理論的には,この変数xに国家元首からホームレスまでありとあらゆる人間を代入することが可能だ。
しかも,機密情報に関する限り,変数xに代入される特定の人間に関する推論計算(確率)の確実性は,一般の公務員や従業員よりもトップや幹部である場合のほうが高いということが言える。なぜなら,機密情報に触れる可能性が高いからだ。古今東西の幾多の事例をみればわかるとおり,「組織のトップや幹部が誰であれ常に格別に倫理観の強い人間である」という保障など,どこにも全くない。むしろ自分の利益のことしか考えていないのが普通なのだ。これは,人間の生存本能に基づいて生ずることなので,その発生を阻止する方法がない。
このようにして,職業や地位とは無関係に,完全に即物的にものごとを推論するのが本来の捜査の基本であるべきだと思う。
マスコミは,一般に,自分達の世界観だけで特定の地位や立場にある者を容疑者と推定し報道したがるが,そのような姿勢は,誰か無実の人間を血祭りにあげ,冤罪を生む温床となっているかもしれない。それゆえ,マスコミに所属する人間は,「もしかすると自分の上司である編集長や社長等が真犯人(または真犯人であるグループの一員もしくはその協力者)であるかもしれないという可能性が(可能性の問題としては)常に残されている」ということを絶対に忘れてはならない。誰も信じてはならない。
[追記:2010年11月7日]
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【尖閣ビデオ流出】海保、PCに閲覧制限なし 内部からの漏洩想定せず
産経ニュース: 2010.11.7
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/101107/trd1011070056001-n1.htm
この記事を書いた記者は,海保の現場から漏れたという可能性(先入観)にといらわれすぎている。パスワードがかかっていないのは,現場のPCだけではないかもしれないという可能性をどうして考えようとしないのだろうか?
[追記:2010年11月8日]
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【尖閣ビデオ流出】“投稿者”はどんな罪に 国家公務員法、窃盗など浮上
産経ニュース: 11.7 23:33
http://sankei.jp.msn.com/topics/economy/1882/ecn1882-t.htm
この記事は不正確だ。入手者と投稿者が同一人であると断定している。しかし,そうではないかもしれないのだ。
画像をポストするだけの行為については,処罰規定が基本的に存在しないと考えられる。日本には機密情報保護法がない。長年,野党(当時)が機密保護法の制定に反対してきたからだ。入手者とは関係のない別人が投稿したような場合,事後的行為であるし,共犯も成立しない。
ちなみに,一般論として,画像が著作物である場合には著作権法違反となり得るが,国家公務員が職務上作成した画像については著作権侵害も成立しない。
[追記:2010年11月10日]
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【尖閣ビデオ流出】神戸市内のネットカフェから投稿か 警視庁が捜査員派遣
産経ニュース: 2010.11.10
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/101110/crm1011100904013-n1.htm
投稿者が国家公務員ではなく,かつ,共謀関係等も認定できないときは,国家公務委員法違反は成立しない。つまり,投稿行為に関する限り,告発された被疑事実(国家公務員法違反)に該当する者が法理論上存在しないことになる。
2010年11月8日付の追記で書いたとおり,画像データの入手者と投稿者が同一人物だと勝手に決め込む奇妙な予断をもつから,初動捜査を誤ってしまうし,マスコミの論調もトンチンカンになってしまうのだ。妙な感情移入を一切咲け,スタートレックのスポックのように理性だけに依拠して,物理的に可能な全ての組み合わせを全部検討してみるようなタイプの推論ができなければ駄目だ。そこでは,加害者が内閣総理大臣や法務大臣や検事総長のようなトップである可能性も否定してはならないし,米国大領領や中国国家主席のような外国の元首である可能性も否定してはならないし,海外の諜報機関である可能性を否定してはならないし,政府の情報ネットワークシステムの管理者である可能性を否定してはならないし,単なるポカミスやシステムバグ及び偶然の結果である可能性も否定してはならないし,その他物理的に可能性な全ての可能性が検証されなければならない。
また,投稿者が自分と同じように発想するタイプの人間だと勝手に決め込んでものごとを考えることは,厳禁というべきだろう。人間の思考における多様性は,生態系の一種としてとてつもなく複雑だ。人間は,法的には平等に扱われなければならないのだが,それは,本当は人間が全部異なっているからこそそうなのであって,もし人間が全て同じだとすれば平等に扱うように求める必要性さえなくなってしまうのだという当たり前のことを理解しなければならない。
私自身を含め,自分よりもはるかに優れた人は数え切れないほど多数存在している。自分の直感的な推理能力の限界を知るべきだ。だからこそ,物理的に可能な全ての可能性を論理的かつ冷静に検証してみる必要があるのだ。
ということなのだが,世間がこの画像データ流出の謎解きに狂奔している間に日本国の外交関係がますますモヤモヤしたものとなってしまっている。そして,世間の目はますますもって事柄の本質からそらされてしまうことになる。これは,非常によくないことだと思う。
[追記:2010年11月11日]
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【尖閣衝突事件】ジャーナリストらの中国漁船船長告発、那覇地検が受理
産経ニュース: 2010.11.10
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/101110/trl1011101827010-n1.htm
不起訴処分となれば,検察審査会への申し立てがなされることは確実で,検察審査会が起訴強制の議決をすることも確実だ。現行の検察審査会制度は誰もコントロールできない異常な制度である以上,政治的判断があろうがなかろうが起訴強制は有効であり,かつ,検察官を担当する指定弁護士は弁護士であって検察官であるので法務大臣の指揮権も及ばない。つまり,検察審査会+指定弁護士という制度は,国家による統制外にある非常に恐ろしい制度であるということがますますもって明らかになってきたと言える。ロベスピエールの出現を許してはならない。即時廃止すべき制度の一つだろう。
なお,海上保安庁の職員が画像を投稿したとして自首したニュースが話題を呼んでいる。
中国漁船・尖閣領海内接触:ビデオ流出 海保職員取り調べ 識者の話
毎日jp: 2011年11月11日
http://mainichi.jp/select/world/news/20101111ddm041040095000c.html
この記事の中に出てくるインタビューの内容は編集されたものなので正確かどうかわからないが,仮にそのとおりの内容だったとして,堀部先生の談話は全く正しい。法理論としてはそうなるだろう。とりわけ,この画像は,この事件で中国人船長に対する起訴がされれば,当然,弁護人に対して全面的に証拠開示されるべき性質のものであるし,公開の公判廷で取り調べられるべき性質のものなので,起訴後には国家機密であってはならない性質のものだと言える。起訴前であれば機密性を有することになるが,そこらへんのところをどう考えるかによって裁判官のセンスの良し悪しが試されることになるだろう。
他方で,この記事の中に出てくるインタビューの中で,大石教授の「ジャーナリストだけが正しい」というような趣旨の言説は認めがたい。人権を保障すべきジャーナリストは,ジャーナリズムを職業とする者以外の者による思想信条の自由,表現の自由,報道の自由も等しく認め,そのための資質・能力を有する者が多数存在し得ることを承認すべきだ。プロのジャーナリストは,単にそのような職業にあるというだけのことに過ぎない。
ちなみに,自首した職員が画像の投稿者であるのに過ぎず入手者ではない場合において,画像を入手した者が国家公務員でない場合,または,仮に国家公務員であっても共謀関係が認められない場合,投稿者について国家公務員法違反の罪が成立しないことは明らかだ。なぜなら,自首した職員が,たまたま国家公務員であったというだけのことであり,「職務上知りえた秘密」であるとはいえないからだ。要するに,この場合,国家公務員法違反の罪との関係では無罪となる。
[追記:2010年11月17日]
真相はいまだに不明だと思っているが,一応新聞報道のとおりだと仮定した場合どうなるだろうか?
「秘」指定されていない文書は機密文書ではない。このことは,企業でも官庁でも同じ。末端の職員に対して機密文書であるかどうかを判断させることができないし,そのように求めることに合理性があるとは言えないからだ。そして,このことは情報セキュリティの標準においても全く同じだ。
つまり,今回のビデオについて機密指定がされていたかどうかは定かではないが,指定されていなければ機密ではない。
機密でないものについても守秘義務が生ずるかどうかについては,かなり面倒な検討が必要となる。ただし,一般的には,守秘義務はない。
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