強制起訴された事件の指定弁護士
下記の記事が出ている。
【小沢氏「強制起訴」】「検察官役」の弁護士を指定へ
産経ニュース: 2010.10.5
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/101005/trl1010051838006-n1.htm
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以下はあくまでも一般論なので,特定の具体的事件とは一切の関係がない。
検察審査会では,補佐役の弁護士が助言をすることがある。しかし,「自由と正義」を標榜する弁護士である以上,公平であるべきであり,決して起訴強制などを煽るような言動をしたり,被疑者が有罪であるかのような予断をしたりそのような予断を与えてもならず,まして,起訴強制の議決書の文案の作成に関与してもならない(検察審査会法26条)。なお,弁護士は,検察審査員となることができない(検察審査会法6条)。検察審査会法36条は,「検察審査会は,相当と認める者の出頭を求め,法律その他の事項に関し専門的助言を徴することができる」と定めているが,検察審査員を扇動したり検察審査員に予断を与えたりする可能性のある弁護士は,「相当と認める者」に該当しない(相当でない者からの助言に基づく議決は無効である。)。また,「相当と認める者」であっても,「助言」以外の行為をすることができないし,この助言はあくまでも公平で中立なものでなければならない。
ところで,この補佐役の弁護士なるものを担当した者が起訴強制による公判事件で指定弁護士(検察審査会法41条の9)を担当することがあるとすれば,これは相当問題なことだと考える。
まして,当該事件にかかる審査において補佐役の弁護士なるものを担当した者が自薦で指定弁護士となる場合,検察審査会を煽って起訴強制の議決をさせた可能性を疑われることになり,これは,弁護士倫理に反する行為であると言える。しかも,その弁護士は,検察審査会における議事内容を知っているわけだから,守秘義務違反となる事態も予想される。これは,弁護士法にも抵触する可能性が全くないとはいえない。
したがって,いかなるかたちにせよ検察審査会に関与した弁護士は,公判とは一切無縁の状態で沈黙するのが正しい。検察官もまた同じ。
以上のようなことを全く考慮しないで裁判所が指定をしたとすれば,それは,裁判所自身が冤罪の発生を意図(意欲)しているか,または,全く馬鹿であるかのどちらかであると推定してよいと考えている。
なお,検察審査会は,検察審査会事務局と検察審査委員で構成され,検察審査会事務局は最高裁が指定する検察審査会事務官及び検察審査会事務局長によって構成される(検察審査会法19条,20条)。本来であれば,この組織の中に弁護士が入り込む余地は全くないし,入り込むことは許されない。私の実際の経験(裁判官在職当時)でも,裁判所職員が検察審査会事務官及び検察審査会事務局長として補職され,検察審査会の事務を担当していた。また,理論的にも,最高裁が裁判所職員以外の者に対して検察審査会事務官を指定する権限はないと解され(実質的にみて検察審査会法6条及び7条違反となる。),まして,検察審査会事務官としての俸給を裁判所の予算から支出することは許されないと思われる。
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強制起訴の法的性質を考えると,それは行政庁としての検察庁と同じ権限を行使していることになる。したがって,ここでは,日本国憲法が保障する適正手続の保障が貫徹されなければならない。憲法学上「国民の直接参加の一種である」ということが,当該事件について適正手続の保障を排除する理由には到底なり得ない。
議決書は,検察審査会が起案・作成すべきものであるので,検察審査員以外の者がその作成に関与することは許されない。検察審査員以外の者が作成した議決書,及びその議決書に基づく起訴等は,日本国憲法が保障する適正手続の保障を侵害するものであり,違憲・無効であると考える。
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以上を理解するポイントは,起訴強制権限を付与する法改正がなされた以降の時点における検察審査会が,それ以前の単なる諮問機関的な性質を有する組織から第二検察庁とでもいうべき行政庁としての性質を有する組織へと根本的に変質したのだということを正しく理解することに尽きる。行政庁である以上,人事を含め,法律による行政の原理が貫徹されなければならない。また,第二検察庁とでもいうべき組織である以上,日本国憲法に定める適正手続の保障が完全に適用されなければならない。
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更に遡って考えると,検察審査会法それ自体が最初から違憲・無効だったのではないかと解する余地がある。
[追記:2010年10月20日]
下記の記事が出ている。
行政訴訟却下 小沢VS東京地裁 第2R突入
日刊ゲンダイ:2010年10月19日
http://gendai.net/articles/view/syakai/127009
裁判所の判断としては,準司法機能を営む組織であり行政機関ではないとの考えに基づくもののようだ。「準司法機関」は講学上の概念であり,日本国の法令上に根拠のある概念ではないので,考え方によっては「準司法機関」そのものが一切存在しないという考え方もあり得る。後先考えないで適当に学説を構築してきた憲法学者の責任は重い。
もちろん,憲法上に根拠があるものであれば,行政庁でも司法機関でも立法機関でもない国家組織が存在してもかまわないわけだが,現行憲法には検察審査会に関する条項はない。裁判所は検察審査会が行政機関ではないと判断したわけだが,検察審査会が立法機関でないことはもちろん,司法権(裁判所)にも属さないことは明らかだ。検察審査会法によれば,事務局長等に関する人事上の監督権等は最高裁に権限があることになっているが,検察審査会そのものに対する監督権限があるわけではなく,検察審査会に何らかの違法行為があった場合においても起訴後の法定において公訴棄却を求める理由としてその違法の存在が争われることになると解されているのだろう(この場合,一切の違法行為がなかったことの立証責任は,検察官としての指定弁護士が負うことになる。刑事事件においては,すべての事柄について検察官だけが立証責任を負うとするのが原則だからだ。)。
しかし,仮に検察審査会に何らかの違法行為があったとした場合,その賠償責任は誰が負うことになるのだろうか?
そして,その訴訟手続きはどうなるのだろうか?
今回の裁判所の判断により,行政訴訟法が適用にならないという結果になっている。そうだとすれば,通常の民事訴訟によらざるを得ないことになるが,おそらく検察審査員の氏名等の個人情報については(行政庁ではないので)情報公開の対象にならない。
そうなると,どんなにひどい違法行為によって損害が生じた場合でも,民事訴訟も起こせないということになりそうだ。
そのようなことを考えてみると,検察審査会制度それ自体が全面的に違憲な存在であるとの考え方も成立可能となる。
今回の裁判所の判断は,検察審査会が違憲な存在である可能性を世間に周知せしめたという意味で極めて大きな歴史的意義を有するものと評価することができる。
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起訴強制
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bdfb.html
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