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2010年10月 6日 (水曜日)

ストーリーに乗ると有罪になる?

奇妙な考えをもつ人が増えてきたようだ。

「事件」は,すべて過去のできごとなので,真相を知るのは神のみだ。人間は,現存している資料に基づいて事実関係を推測するしかない。したがって,歴史を含め,過去はすべて空想の一種と言ってよく,真実であるかどうかは誰も検証できない。

しかし,それでは社会生活ができないし,まして他人を有罪にすることもできないので,人は過去の事実を推論する。この推論のプロセスの中で,仮説が構築される。その仮説構築手法の一つが「ストーリー」だ。ストーリーは,一連の事実の時間的・歴史的流れを合理的に説明するための仮説と言ってもよい。そして,この仮説の検証のために現存する証拠が集められる。

問題は,そこから先だ。

現存する資料は,資料それ自体としては何の意味ももっていない。当該資料に対する何らかの「意味づけ」という主観的評価プロセスを経てはじめて証拠としての意味をもつ。この評価がストーリーに沿って歪められている場合,そもそも証拠としての意味づけが間違っている。このことは,随分昔にフランシス・ベーコンが説明しているとおりだ(イドラ)。他方で,ストーリーを否定するような資料は意図的に無視または軽視されることが多い。その結果,ストーリーを維持するのに好都合な資料だけが集められることになるから,仮設に過ぎないストーリーがあたかも真実のように見えてしまうことになり,最後には確信に至ることになる。しかし,これは,単なる思い込みかもしれないのだ。

世間の風説や誹謗中傷等の多くもまた,自分の認識能力や情報処理能力の乏しさを認識・理解できない人々によって意図的に歪められた「仮説(ストーリー)」を「事実」であるとして述べるところから始まることが多い。

一般に,仮説に基づいて何かを推論するというプロセスは,人間にとって不可欠の思考プロセスであるので,それ自体がおかしいとは思わない。このことは自然科学でも同じだ。しかし,仮説は仮説に過ぎないので,実験や観察によってその仮説が維持できないことが判明したときは,その仮説は直ちに捨てられなければならない。仮設に合わせてデータを捏造すれば,地球温暖化CO2説のようなとんでもない結果を招くことになる。つまり,実証を無視した思考態度は,自然科学であれ人文科学であれ社会科学であれ,必ず人々を不幸な状況に陥れることになるということを理解しなければならない。このことは,マスコミの報道姿勢でも全く同じだ(例:取材資料の全てが検察庁から与えられたものであった場合,もしその資料が意図的に歪められたものであるときは,記者の信念は全く根拠のないものであることになる。簡単に言えば,いわゆる情報操作によって騙されていたのだ。)。

この点については,下記の記事でも既に触れた。

 クライメートゲート事件
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-bd85.html

さて,例の事件の関係で次のような報道がある。

 障害者郵便割引不正:証拠改ざん 大坪容疑者ら「全面的に争う」
 毎日jp: 2010年10月3日
 http://mainichi.jp/select/jiken/news/20101003ddm041040058000c.html

報道に過ぎないので真実であるかどうかはわからないが,仮に真実であるとして,問題の元特捜副部長検事氏は,「検察側のストーリーに乗らず徹底抗戦する」と主張しているのだそうだ。

仮にこれが真実だとした場合,この元特捜副部長氏は,「自分が思い込んだストーリーだけを信じて捜査を遂げ,証拠や資料を取捨選択し,起訴してきた可能性が高い」と推測することは可能だろう。要するに,自分が採用してきた手法を他の全ての検事も全く同じように採用していると勝手に解釈し,かつ,自分の仮説を押し通すことが正義であると誤解して検察官人生を送ってきた人なのかもしれないのだ。そのような姿勢は,もちろん客観性に欠けるものであり,法曹としては禁忌と言っても過言ではないと思われる。加えて,そのような「自己の仮説だけを最優先にして犯罪捜査をする姿勢が検察官全部に共通である」と信じていたとするならば,それは,他のまともな検事に対して極めて失礼な態度だと言わざるを得ない(他の検事も自分と同じように「思い込みだけで犯罪捜査をしている」と勝手に決め付けないでもらいたい。)。

そして,このような推測が正しいとした場合,この元特捜副部長氏が関与した事件の大半が冤罪である可能性があるということになる。

この元特捜副部長氏が関与した事件である限り,例外なく,現在公判中の事件については,一律公訴取消しとすべきだし,既に有罪で確定している事件については(被告人が無罪を主張していた事件である限り)無条件で再審・無罪とすべきだろうと思う。仮にそれが最高裁で判断されたものであったとしても,そうすべきだと考える。

検事総長が検察庁の綱紀粛正と名誉回復を真に願うのであれば,自己の進退をまじめに考えるべきことは当然として(任命・採用等を含む人事上の責任はどうやっても否定できない。),私見を採用し,公判中の事件については公訴取消しとし,有罪で確定している事件については検察官としての検事総長からの申し立てにより(被告人が無罪を主張していた事件である限り)一律に再審請求をし,検察官として無罪を主張すべきだと思う。

[このブログ内の関連記事]

 起訴強制
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bdfb.html

 検察審査会は冤罪の温床になるのではないか?
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-ff5c.html

 検事による電磁的記録日付改ざん事件における弁解の奇妙さ
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-2b24.html

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