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2010年10月28日 (木曜日)

オランダ:botネットを遮断するために警察当局が無権限で第三者のサーバにアクセスしプログラムの書き換えを実行した行為の当否に関する議論

下記の記事が出ている。

 Dutch police use unusual tactics in botnet battle
 BBC: 27 Octobner 2010
 http://www.bbc.co.uk/news/technology-11635317

要するに,違法性阻却事由に関する議論だ。もちろん,警察を捜査しようとする警察があるわけがないことはオランダでも日本でも同じなので,どの警察官も捜査対象とされていない。もちろん,警察トップの指令により実行されたことであるので,組織としての行動であり,今後とも誰も警察を捜査することはまずないだろう。誰も自分で自分を罰するようにすることがないのは当たり前のことだ。

このことは,検察官が違法行為をしたとき(とりわけ検察トップの指令により組織的に違法行為が実行されたとき)に検察庁が検察を捜査することはまずないことや(←大阪地検特捜部の事例は,例外的な異常事態と言える。),あるいは,起訴強制権限をもったことにより第二検察庁とでもいうべき行政組織の一種へと国家組織上の性格を変容させてしまった検察審査会に違法行為があった場合に(法務大臣を含め)誰も監督・懲戒権限をもっていないためスモールサイズのロベス・ピエールの出現を可能とするような制度に変化してしまっているのと同じことだと思われる。なお,日本の最高裁長官が何らかの違法行為をした場合には,もちろん検察による捜査対象となり得ると同時に,弾劾裁判により罷免となる可能性もあるので,結果的に,裁判所は検察よりも相当弱い地位にあることになるかもしれない。

結果として,社会における警察の優位は常に圧倒的なものであり,ジョセフ・フーシェのような人物が社会を牛耳ることもあることになる(←ステファン・ツワイクが書いた伝記的な本が有名。現実に現代社会でフーシェに相当する人物が存在するかどうかは不明。)。

このような人物は,日本では明治維新に有名な人物が存在したし,おそらくそれ以前(江戸時代以前)にも存在したのだろう。そのような人物に対しては,誰も捜査することができず,政権が変わろうが首相が誰になろうが関係なく,実質的な支配者として君臨し続けることができる。もちろん,それが誰なのかを知ることのできる人は,滅多にいない。それが知られたとたんに失脚する可能性があるので,表向きは支配者のような顔をしていないからだ。フランス革命以降,人類は,何百年かかってもこのような事態を改善することができなかったので,おそらく,相当将来までこういうことなのだろうと思う。

それはさておき,法理論として,自力救済行為の適法性に関する議論は結構昔からなされており,例えば,UCITAの電子気的自力救済に関して,随分と議論がなされたことがある(←現時点では,もの忘れの早い日本人の記憶に残っている可能性は低いが,かつては随分と激しく議論されたものだ。)。

警察が,情報セキュリティの目的で,サーバのルート権限を奪い,プログラムやデータを書き換える行為が適法行為といえるかどうかについての議論は,日本ではほとんどなされていない。また,仮にそのような行為がなされた場合,ルート権限者に対して情報提供または通知などがなされることはないだろうと予想されるが,そうだとすれば,警察によってシステムを書き換えられたルート権限者はそれと知らずにシステムを管理運用することになる。そこでは,管理運用上の完全性が完全に欠落していることになるので,安全な管理運用がなされているとはいえないことになる。にもかかわらず,ルート権限者は警察によってルート権限を奪われてしまっているのと同じ状態にあるので,何もできないという悲惨な状況におかれてしまっていることになる。「知らぬがほとけ」とはまさにこのことを言う。

同じことは,パブリッククラウド上の仮装サーバの管理運用をするルート権限者について常に発生する。そのような仮装サーバのルート権限者の権限は常にクラウドのポリシーと権限に服従することになるので,クラウドの運営者によって何をされても仮装サーバのルート権限者にはわからず,単純に服従するしかない状態となる。つまり,仮装サーバのルート権限者は,本当はルートではなく,かなり下位の権限しか保有していないユーザの一員であるのに過ぎない。

いずれにしても,世界の全体的動向が「自立性の喪失」へと向かっていることは顕著な事実だろうと思われる。私は,このような趨勢について「マゾ化理論」の一部として学生に説明することがあるが,あまり評判はよくない。精神的な構造を説明しているだけなのだが,性愛のことしか連想できない学生が多いからかもしれない。

しかし,大事なことは,限られた事象の観察結果から一般化・抽象化しながらいかに優れた仮説(モデル)を構築するかにある。

そのためには,本当は,相当大量の教養を遅くとも高校卒業ころまでに蓄積し終えている必要がある。旧制高校の制度は,その面では非常に優れていたのではないかと考えている。けれども,現在の受験競争社会ではそれを期待するのは無理なことかもしれない。

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