山口いつ子『情報法の構造-情報の自由・規制・保護』
下記の本を読んだ。
山口いつ子
『情報法の構造-情報の自由・規制・保護』
東京大学出版会 (2010/7/17)
ISBN-13: 978-4130361415
知識の整理のための補助として使うには便利な本ではないかと思う。
しかし,肝心のテーマに対する姿勢には疑問がある。
本書において,経済的な意味で「情報の自由」というとき,それは,原始共産主義的な意味での素朴な共有のことを指しているのではないのだろうと思われる。自由経済社会では,財の独占が基本となる。独占された財を自由に交換できるということが自由な取引の本質であり,「誰でも自由」というわけではない。換言すると,契約当事者間での自由だけが問題となる。そうでなければ単なる略奪行為または海賊行為として扱われる。これは,現在の法秩序の基本であるし,私有財産制を認める国ではどの国でも共通の常識的理解の一部だ。
このような基本原理に関する哲学的考察(私見)の詳細については,目下構想中の著作の中で明確に示そうと思っている(←夏井高人監修『ITビジネス法入門』の中では知的財産権の章を担当しなかったので,別稿で私見を明らかにする必要がある。)。
ところが,この山口いつ子氏の本では,この最も基本となる部分が無視されてしまっているように思われる。
もちろん,著者が私有財産制を否定し,共産主義的社会をもって理想とするのであれば,それはそれで著者の思想信条の自由に属する。
ただし,もちろん,私はそのような見解には賛成しない。
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