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2010年8月 9日 (月曜日)

パブリッククラウドコンピューティングを導入することによるメリットはまだ実現していない

下記の記事が出ている。

 World Economic Forum says cloud benefits still not realised
 Irish Times: August 6, 2010
 http://www.irishtimes.com/newspaper/finance/2010/0806/1224276306713.html

この記事の中でも触れられているように,パブリッククラウドがもっと普及するれば,全体としてのコスト削減の効果はあるだろうと思われる。

ただし,そのコスト削減の実質的な中身は人件費や外注費の削減で構成されているため,パブリッククラウドの普及は,それだけで世界規模の大失業時代の到来=大恐慌の最大の原因となる。そのような事態が発生した場合,コスト削減どころか企業や自治体等が経営破綻してしまうので,世界全体でみた経済効果としては,パブリッククラウドは極めて破滅的な存在であると断定することができる。反対意見もあるが,受け売りしかできず,経済現象を正しく洞察し,自分の頭で経済理論を構築する能力などひとかけらももっていない偽経済学者または詐欺的な商人のような人々の意見なので,完全に無視すればよい。

また,日本政府は自治体クラウドを推進するとのことだ。憲法違反になる可能性については既に触れたのだが,これまで観察してきた結果によると,政府及び政府に協力している委員等の中でそのような意見をもっている者は皆無のようだ。私は,自説が間違っているとは思わない。憲法違反の可能性を検討しないことが怠慢であるか無能であるか欺瞞的であるかのいずれかであると信じる。国民は,決してだまされてはいけない。憲法違反を避けるためには憲法を改正すればよいのだが,憲法違反の可能性についての検討がなされていないので,もちろん憲法改正の意見も全くない。憲法は,事実上,無視された存在となっている。これを違憲状態という。

なお,憲法違反の問題を一応おくとしても,自治体クラウドの導入によりそれまでの納入業者や関連事業者等だけではなく,税理士や弁護士等の事業者そしてそれらの者の収入によって飯を食っている様々な産業もほぼすべて経営破綻してしまうこともまた既に述べてきたとおりだ。つまり,自治体地場産業はほぼ全面的に壊滅し,自治体の税収は底をついてしまうことになるだろう。要するに,自治体システムの無駄があるからこそ飯を食っていられる人々が何百万人も存在し,それらの人々が普通の商店で物品を購入したりサービスの購入を受けたりして地場産業が成立しているので,安易に無駄をはぶけばたちまち経済が破綻してしまうのだ。

どうしてこんな簡単な経済学がわからないのだろうか?

あくまでも一般論だが,世界を救うためには,「コスト削減」では駄目だ。逆のベクトルで考えなければならない。そのためには,幼稚で素朴な自由経済論はやめてしまわなければならない。ただし,このことは統制経済や社会主義を意味するのではないので,誤解のないように付言しておく。

ちなみに,自治体クラウドが全面的に導入された場合,システムの統制は総務省にある。自治体にはない。その結果,各自治体の個人情報保護条例は,システムで処理される以外の個人情報だけに適用されることになる。個人情報保護条例は,自治体による統制の根幹をなすものなのでが,自治体にはシステムに対する統制がないことになるので,その条例を適用したくても適用しようがなくなってしまう。つまり,政府による自治体システムの統合とは,地方自治制度を根底から破壊し,共産主義国家的な国家統制を実現することにほかならない。日本は,自治体クラウドシステムの国家統制を通じて共産主義国になる。そして,おそらく,たちまちサイバーテロの餌食となり,物理的にも完全に崩壊してしまうことになるだろう。

この「統制」の問題については,このブログでも何度も書いたし,論文としても発表してきた。しかし,現実には,そもそも「統制」の概念をイメージする能力を欠く者が非常に多いとう事実を最近認識するようになってきた。理解できない人々に訴えても,理解されるはずがないので,意味がない。日本は,そこまで知的レベルが劇的に劣化している。このことは,マスコミも同じで,ほとんどのマスコミには正しく理解する能力が欠けている。もし「新聞社のシステムを総務省クラウドに統合し総務大臣が管理する」などと誰かが言い出したら,どの新聞社だって激怒するだろう。しかし,新聞社は,企業や自治体などでそれと全く同じことが起つつあるということを理解しようとしない。または,理解していたとしても,自分だけは特権階級だと信じ,他人事として考えているのだろうか。しかし,新聞社といえども,パブリッククラウドの普及に伴う大恐慌の発生という経済現象の影響から逃れることはできない。何しろ,上記に述べたような経済メカニズムにより,購読者だけではなくスポンサー企業もどんどん消滅してしまうことになるからだ。そして,最後に残るスポンサーは,国と世界規模でのパブリッククラウド企業だけになってしまうから,結局,新聞社は国と世界規模でのパブリッククラウド企業のいいなりになるしかなくなってしまうだろう。そこには報道機関の独立や報道の自由など絶対にあり得ない。単なる奴隷だ。

いずれにしても,無自覚かつ安易にパブリッククラウドの導入をどんどん進めてしまうと,結果的に,世界規模での経済破局が発生し,来る日も来る日も自殺することばかり考えてしまうような地獄の日々が到来することになるだろう。

そんな日が到来する前に,いま楽しめることを大いに楽しんでおくのが正しい選択ではないかと思う。ただし,私は裕福ではないので,お金のかからないささやかな楽しみで満足するしかないのだが・・・(苦笑


[参考]

 総務省 自治体クラウド推進本部
 まるちゃんの情報セキュリティ気まぐれ日記: 2010.08.05
 http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2010/08/post-864f.html

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コメント

bbmさん こんにちは。

実験段階としては,確かに複数の自治体の共同組合的なものとして構想されていたと思います。しかし,たぶん現時点では違うと思います。少なくとも総務大臣は統合するつもりでしょう。ただし,成功するかどうかはわかりません。

なお,複数の自治体の共同組合的なものとして自治体クラウドが構築される場合でも,各自治体の条例は異なっていますからやはり憲法違反の問題が生じますし,仮に憲法違反ではないとしても,どの自治体のポリシーが適用されるのかが不明になってしまいます。その場合,条例改正なしに合意だけでやってしまうと明白な憲法違反になります。また,合意形成を総務省が強く求めると,これまた憲法違反になります。

この種の憲法問題をぜんぜん意識しないでことが進められてきてしまったところに最大の問題があるのですが,左翼の憲法学者を含め,ほとんど全ての憲法学者が問題の所在に気づいていないことには本当にあきれ果ててしまいます。なお,私は中立であり,右翼でも左翼でもありませんので誤解のないようにお願いします。

さて,統制の問題ですが,自治体クラウドの統制は,自治体のクラウドである以上,条例に基づく必要があります。統制の主体は,民主主義のたてまえ上,自治体の住民であり知事ではありません。異なる自治体の選挙結果は他の自治体の統制に影響を与えることはできません。

ブログなので細かいことは避けますが,実は,同じ問題は既に住民台帳DBで発生してしまっています。各自治体の統制は,事実上否定されてしまっています。形式論的には違法状態と思われますが,最高裁の判事の中にはそのことを理解できるだけの教養と能力を持った人がひとりもいませんので絶望的です。つまり,なし崩し的に違憲状態がどんどん積み重ねられるということになります。

違憲状態となることを避けるためには,憲法を改正して自治体を全部廃止し,国の直轄(天領)とするしかないでしょう。さもなくば,パブリッククラウドの利用をやめることです。複数の自治体が共用するものはプライベートクラウドではなくパブリッククラウドです。

bbmさんは,「各自治体はクラウド化されたシステムのガバナンスとして、セキュリティや個人情報保護についてしっかり統制する必要が生じる」というご意見ですが,その統制の法的根拠となる条例を他の自治体に優先して適用することが相互にできない以上,どの自治体も統制できなくなるというのが法的理解としては最も正しい解釈です。

投稿: 夏井高人 | 2010年8月 9日 (月曜日) 20時33分

一介のITコンサルタントです。いつも読んで勉強させてもらってます。

個人情報保護法の関する件だけ、気になったので、コメントさせてください。「自治体クラウドが全面的に導入された場合,システムの統制は総務省にある。」とありますが、本当でしょうか。

私の理解では、自治体クラウドは全国一律のシステムとして捉えるものではなく、複数自治体の構築によるプライベートクラウド、又は民間事業者提供によるクラウドサービスが、いくつか立ち上がることだと想定しています。総務省が一手に統制するのとは異なるのではないでしょうか。

実際、情報技術戦略でも、連携仕様や調達方針は作成すると示していますが、後は助成金による支援となっているので、総務省がシステムを構築して統制するものではないと思われます。

となると、各自治体はクラウド化されたシステムのガバナンスとして、セキュリティや個人情報保護についてしっかり統制する必要が生じる、というのが私の認識です。

投稿: bbm | 2010年8月 9日 (月曜日) 18時54分

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