ITビジネス法入門の刊行予定(速報)
下記の書籍を刊行予定。
ITビジネス法入門-デジタルネットワーク社会の法と制度
夏井高人(監修・著)
湯淺墾道,丸橋 透,佐々木秀智,山神清和(著)
Tac出版
約500ページ
3,780円
ISBN: 978-4-8132-3900-0
http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1102964308/subno/1
当初8月30日出版予定だったが,9月5日ころになる見込み。
詳細は,別途お知らせすることにする。
[追記:2010年9月1日]
出版社からの出荷が9月7日になったとの連絡を受けた。
[追記:2010年9月2日]
出版社からの出荷が9月8日になったとの連絡を受けた。
[追記:2010年9月3日]
コンセプトの紹介の趣旨で,「はじめに」の部分の元原稿をこのブログで公開することにする(最終稿では若干の修正あり。)。
はじめに 夏井高人
現代社会では,IT(Information Technology)またはICT(Information and Communication Technology)は,なくてならない存在となっています。インターネット,携帯電話,スマートフォンなどは,専門家やプロフェッショナルのための特殊なツールではなく,普通の人々が日常的に利用する便利な道具になっています。また,企業活動においても官庁や自治体における行政活動においても情報が重要な役割を果たしています。そして,道路,鉄道,空港,水道,ガスといった社会のインフラ,コンビニなどの小売業,宅配便などの物流もコンピュータシステムによって精緻に管理されています。このような情報処理技術の導入・運用なしには,もはや安定した社会生活を維持することができない状況になっていると言っても過言ではないでしょう。一般に,このようなIT(ICT)を基礎とする社会のことを「IT社会」と呼んでいます。
このような社会生活におけるITの利活用では,その運用・管理が適正になされなければなりません。ITも技術の一種ですので,便利で有用な道具として使うことができる一方で,他方では,犯罪のための凶器として悪用することもできますし,また,誤った使い方,ミスや不注意などによって様々な混乱や事故などが発生することもあり得ます。
そのため,ITの導入・運用が人々の幸福につながる方向でなされるよう,様々な国の施策が講じられてきましたし,ITの浸透に合わせて業務処理を情報化するのに必要な法改正等がなされてきました。行政庁や企業におけるITを活用した業務遂行が適正に行われ,その利便性を享受できるようにするための法制定や法改正等が重ねられています。
例えば,紙の書面ではなく電子ファイルによって業務処理をすることができるようにするための法改正等がその例です。そして,情報通信を担当するインターネットサービスプロバイダ(ISP)や電話会社などと関連する法律の制定や改正などもなされてきました。
それと同時に,ITの普及に伴って生ずる様々な社会的問題に対処したり,新たな知的財産権を保護したりするための立法努力もなされてきました。コンピュータ犯罪やサイバー犯罪に対応するための刑事法制の整備は,ITを基礎とする社会ならではのことです。また,ITと関連して新たに生じたタイプの著作物,企業秘密,特許などの保護のための知的財産法制の整備もまた同様に考えることができます。
個々の市民と最もかかわりの深いところでは,インターネットと関係したプライバシーや個人情報の保護,名誉毀損行為や通信の秘密に対する侵害などの違法行為に対する対応がその重要性を増しています。この領域では,個人情報保護法などの新しい法律が制定されただけではなく,裁判実務を通じて新たな法理論や法解釈を構築するための努力が続けられています。
企業活動の中では,ITを意識した統制が重要になっています。また,ITを利活用して機能している社会環境を前提に労働法制を考える必要性も高まっています。
このような社会環境の変化によって生ずる法的課題を解決するために,民法や商法や刑法などの既存の法令が適用されるべき場合が非常に多いです。したがって,これら基本的な法令を正確に理解することがまず大事なことです。しかし,既存の法令だけでは対応不可能な問題について適正な対処を可能とするために,情報法やサイバー法等の領域に属するとされる膨大な数の特別法が制定され運用されています。それら個別の特別法についてきちんと整理して理解することも重要なことです。さらに,これらの法令を解釈・適用してなされる裁判所の判断(判決,決定)は,法解釈において重要な指針を与えるものです。とりわけ,最高裁の判断(判例)は,個々の具体的な事件おける裁判所としての最終的な判断であるとされており,具体的な事件を離れて一般的な法解釈をする上でも無視することが許されないものです。
ところで,情報法(Information Law)は,情報処理と関連する法領域(法のカテゴリ)を示す概念であるとされ,また,サイバー法(Cyberlaw)は,インターネットのようなサイバー空間(サイバースペース)と関連する法領域を示す概念だとされています。似たようなものとして,IT法(Information Technology Law)やインターネット法(Internet Law)という法領域もあります。日本国では,情報法やサイバー法という名前の法律が存在するわけではなく,あくまでもカテゴリの名称ですので,実際には民法や刑法その他の特別法とこれらの法令と関連する主要な学説・判例について学び研究することによって,情報法やサイバー法についての基本的な理解を得ることができることになります。
本書は,このような意味での情報法やサイバー法に属する法領域において,①どのような法的課題が存在するのか,②基本的な法制はどうなっているのか,③重要な学悦・判例にはどのようなものがあるのかを初学者にもわかりやすいように解説しています。そして,効果的な学習の便のために,重要なケースを解説し,練習問題を提供しています。
本書は,全部で6つの章で構成され,更に第2章は2つの部分で構成されています。
第1章(第1章 IT社会の推進法(1))では,政府によるIT社会の推進がどのような法律によって行われているのかについて説明します。第2章(IT社会の推進法(2) )は,民間部門におけるIT社会を推進する法について説明しています。第2章は2つの部分に分かれており,そのpart 1(電子商取引と法)では,ネット取引と関連する重要な法令等について,ネット取引に関与する事業者と消費者双方の立場から説明します。第2章のpart 2では,電子商取引に関与する通信事業者等の法的リスクとその解決について,主に通信事業者の視点から解説します。第3章(IT社会と情報犯罪)では,コンピュータ犯罪やサイバー犯罪の概要と主要な処罰法令について説明し,必要な範囲内で通信法制の概略と通信の秘密の保護についても説明します。第4章(プライバシー・個人情報保護)では,プライバシー権とその侵害に関する法制と個人情報保護法の概要について説明します。第5章(IT社会と知的財産権)では,知的財産法制全体の概要を説明した上で,IT社会における著作権,特許権,営業秘密,デジタル化の法律問題及び意匠権等について説明します。そして,第6章(IT社会と企業法務)では,様々な情報技術を業務遂行のために利活用する一般企業を想定した上で,企業における統制と情報資産の管理,電子文書の管理及び労働関係について説明します。
本書は,情報法及びサイバー法の領域に属するすべての問題について網羅的に解説するものではありません。専門家ではない一般の人々を読者として想定した上で,情報法やサイバー法の領域に属する主要な法とその課題について解説することを目的としています。
そのため,本書では,非常に重要な法令や学説・判例であっても本書内ではとりあげていないものがあります。また,専門家向けの書籍ではないことから,特殊な学説・判例等の参照・引用は必要最小限にとどめてあります。専門家や上級者向けの詳細な解説書の刊行は,後日を期したいと考えています。
本書では,関連法令,政府ガイドライン,標準規格等のスタンダードな解釈に基づく解説を基本としています。これらは,学校や企業等での教育・研修におけるテキストとしての利用や独習者の自己研鑽のために大いに役だつと期待します。
しかし,IT社会で生起する新しい法的課題については,まだ法解釈が確定しておらず,判例もないものが少なくありません。そこで,そのような新しい法的課題に関しては,専門家の方にも今後の実務・研究における参考となるような斬新な示唆を提供し,専門家でない方にも興味関心を深めていただけるような解説を提供します。
なお,本書において参照・引用する法令は,2010年7月現在のものです。
本書は,情報法やサイバー法について,より多くの人々に対して正しい知識と柔軟な理解を提供し,加えて,IT社会における法の適正・妥当な解釈・運用に資するものとして,健全かつ活力あるIT社会の発展に寄与するものであると信じます。
[追記:2010年9月7日]
本日,見本刷りが仕上がる予定だったが明日になってしまった。明日(2010年9月8日),見本刷りが届く。出荷は,明日以降となる見込みとのことだ。
[追記:2010年9月13日]
本日,出版社から連絡を受けたところによると,倉庫から出荷可能になるのが9月17日ころであり,一般の書店の本棚に並ぶのは9月21日以降になる見込みとのことだ。
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