イカタコウイルスによりハードディスクを使用不能にした行為について器物損壊罪の容疑で27歳の男が逮捕
下記の記事が出ている。
イカタコウイルス流しデータ破損 器物損壊容疑を初適用
共同通信: 2010/08/04
http://www.47news.jp/CN/201008/CN2010080401000266.html
[追記:2010年12月9日]
関連記事を追加する。
イカタコウイルス「器物損壊にあたらない」 作成者、初公判で無罪主張
産経ニュース: 2010.12.9
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/101209/trl1012091555005-n1.htm
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コメント
石井先生
情報提供ありがとうございます。
新聞報道は限られた字数の範囲内に無理やり多くの情報を詰め込まざるを得ない面があるため,結果的によくわからないことになってしまうことがありますね。
今回の事件では,どのような事実についてどのような法律構成で起訴されることになるのか大いに興味があります。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: 夏井高人 | 2010年8月 8日 (日曜日) 13時00分
夏井先生
機会があり,警視庁の報道発表の席にいた記者の方から発表資料とそのメモ書きをもとに発表の内容を説明していただきました。
発表資料自体には,たんに「器物」としかなかったのですが,説明において,器物とはハードディスクのこととされていたそうです。
私の直感が間違っていたようです。
なお,その記者の方の話では,法解釈については,相当程度地検と詰めているようだということでした。
おわびとともに,お知らせまで。
投稿: 石井 | 2010年8月 8日 (日曜日) 08時05分
石井 先生
夏井です。
この事件はなかなか興味深いものですね。
逮捕状も現物のPCも見ていないので何とも言えないんですが,たしかに実務的な対応としてはPCに対する器物損壊罪で起訴することもあり得ると思います。
投稿: 夏井高人 | 2010年8月 5日 (木曜日) 15時38分
夏井先生
どうもありがとうございます。
たしかに,ハードディスクの損壊として起訴するのが堅いのかもしれませんが,夏井先生のように十分に斟酌することなく,パソコンを使用不能にしたとして起訴する気がしております。
今,電子マネーとか,立法されなかったウィルス罪とか扱っており,87年改正のあら・問題点を感じているところで,ちょっと敏感に反応してしまいました。
投稿: 石井 | 2010年8月 5日 (木曜日) 11時25分
石井 先生
夏井です。
コメントありがとうございます。
「イカタコ」の図(グラフィックイメージ)を表示してある報道でしたので,この記事を紹介することにしました。
ところで,この事案をどう考えるかは非常に難しいのですが,HDを全部取り替えるとPCとしては使える状態になるという事案のようですので,この事実をどう評価するかで解釈が分かれるのではないかと思います。HDだけが損壊されたのであり,PCとしては効用が喪失したわけではなく,物理的に破壊されたわけでもないと解する余地は確かにあるのではないでしょうか。現実のPCがどのようなものであったのかは知りませんが,たとえば引き出し式のファイルベイに装着し,フロントで交換して利用するようなタイプのPCだったり,USBで接続されている外付け型HDだったりした場合,明らかにHDに対する器物損壊しか成立せず,PCに対する器物損壊は成立しないだろうと思います。事実関係が分からないので,この点は何とも言えません。
逮捕状に記載されている被疑事実を是非とも読んでみたいところです。大本営発表みたいなものを受け売りしているだけでは,新聞記者もちゃんと理解できていない状態で報道記事を書くことになるでしょう。逮捕状の被疑事実欄のコピーを新聞記者等に提供するような慣行があれば,各社とももっと違ったテイストの新聞記事を書けるようになるんじゃないかと思います。しかし,現実はそうではありません。また,記者会見する警察担当者及び新聞記者(←通常,警察まわりは経験の乏しい新入社員である新聞記者の仕事です。)の能力もまちまちなので,そもそも正確な報道など最初から期待できないですね。
逮捕状の記載はともかく,起訴するまでの間に検察官もあれこれ検討するでしょうから,起訴状の公訴事実がどうなるのかにむしろ関心を持っています。
なお,HDに対する器物損壊として有罪となる場合でもPCに対する器物損壊として有罪となる場合でも,もし有罪になるのであれば,その量刑には一切の差がないと考えられます。したがって,もし私が検察官なら,一番かたいところでHDに対する器物損壊のみで起訴することになるだろうと思います。
そして,この場合,ウイルスによってデータ書き換えがなされてしまったHDも完全にフォーマットすれば再利用可能だろうと思われますので,物理的損壊説ではなく効用喪失説にたって処理するということになりますね。もし物理的損解説に立つべきだとすれば,PCに対するものとしてもHDに対するものとしても器物損壊罪としては無罪になるでしょう。
他方,もし私電磁的記録損壊罪が成立可能な電子ファイルがそのHDに含まれており,それが破壊されたという事実を証拠によって証明可能であるとすれば,私電磁的記録損壊罪で起訴すれば,器物損壊罪の罪質に関するどの説にたつ場合でも,最も確実に有罪にできる道ではないかと思います。
これらの点については,要するに,現行刑法の重大な欠陥の一つであることは既にしばしば指摘してきたところです。ただし,現行の選挙制度を前提にする限り,十分な能力を有する立法者という意味で国会議員に対して多くを期待することは不可能ですので,このような欠陥状態が解消されることは永久にないでしょう。
また,刑法学説の中には電子技術についても法理論についてもぜんぜんわかっていないのではないかと疑われるものがあり,参考にならないことがしばしばあります。
近々に出版予定の書籍の中で,情報犯罪に関してまとめて書いた部分を執筆担当しており,その中で私見を整理してあるので,それをお読みいただければ幸いです。
通常,細かなことはブログに書かないことにしておりますが,石井先生のご厚情のゆえに今回だけ書くことにしました。
投稿: 夏井高人 | 2010年8月 5日 (木曜日) 05時37分
夏井先生
この事件は,報道各社によりかなり説明が異なっているのですが,ハードディスクではなく,パソコンを使用不能にしたとされたのではないでしょうか。
おそらく毎日新聞の記事が比較的適切なように思います。
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2010/08/04/20100804dde001040009000c.html
投稿: 石井 | 2010年8月 5日 (木曜日) 02時30分