100歳以上の高齢者の所在・生存確認がとれないことの意味
100歳以上の高齢者の中で所在・生存の確認がとれない者があることが大きな社会問題となっている。問題点は,次のとおり。
1) 本来確認業務をすべき民生委員(非常勤特別職公務員)が実際には何も仕事をしていなかったという事例があり得ることが示唆される。それが職務怠慢なのかどうかは事案によるものと思われる。現在よくあるような公務員OB等を民生委員にあてるような慣行を改めない限り,解決できない問題が多い。ただし,誰でも民生委員にすると,様々な非違行為が発生してしまう可能性がある。それを避けるためには民生委員の行動を常時監視する必要があるが,憲法上そのような常時監視を導入することができない。結局,問題を解決する方法はないかもしれない。制度疲労の一種と考える。
2) 本人確認事項の信頼性が失われた。住民登録が検証されていないものであることが判明した。したがって,住民登録を基礎とする本人確認の信頼性も大幅に低下したといえる。その信頼性を確保するためには,登録事項の確実性を確保するための常時行動監視を導入するしかないが,そのようなものが憲法上許されないものであることは明らかなので,導入できない。つまり,住民登録を基礎とする本人確認には信頼性がない。要するに,法に定める本人確認事項を確認しただけでは本人確認をしたとはいえないと解するしかない事態となっている。本人確認と関連する諸法令は一時的に無効化していると解するしかないだろう。
3) 所在・生存の確認がとれない者の数がかなり大きな人数になる可能性がある。現時点では100歳以上について調査ということになっているが,平均余命以上の者全員を対象とするのでなければ全く意味がない。おそらく,千人~万人単位で所在・生存の確認がとれない者が存在するだろうと推定される。仮にそうだとした場合,年金等を詐取する詐欺犯の人数が千~万単位に及ぶ可能性が出てくるが,仮にそれらの者全員を有罪とすることができたとしても収容するための刑務所が存在しない。つまり,社会の中に夥しい数の犯罪者が平気で生活しているということを想定した社会設計になっていない。これは,社会制度設計上の欠陥なので,簡単には解決できない。
4) なお,ホームレスから戸籍を買い取るなどして日本人になりすましているスパイを含め,偽の日本人が多数存在するということは公然の秘密の一種となっている。したがって,もともと戸籍や住民登録などの単なるデータに基づく本人確認には信頼性などないのだということを銘記すべきだろう。以前にも書いたことだが,哲学的には,単なる確率論に過ぎないので,絶対値としての本人確認なるものは(理論的には)成立し得ない。強いて言えば,信頼度パラメータ付のデータとして利用可能なだけであり,通常のデフォルトのパラメータ値はゼロとして理解すべきだということになるだろう。
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コメント
名無しの方に対しては何も回答する義務はないと考えておりますが,参考のため下記のとおり回答いたします。
一つ目のご質問については民生委員法(第14条など)をよくお読みください。
二つ目のご質問については伝聞と思われますので回答の要はないと理解しますが,仮にそのようなことがあるとしても個人情報保護法の解釈・運用上の誤りに基づく現象と思われます。
三つ目のご質問についてですが,公務員がなってはならないとは述べておりません。概念の集合関係(論理)をよくご理解いただいていないことによる誤読と思われますので回答しようがありません。
投稿: 夏井高人 | 2010年8月 5日 (木曜日) 12時48分
質問させてください。
「本来確認業務すべき民生委員…」
とありますが、民生委員は何を確認しなければならなかったのでしょうか?
個人情報保護法の施行以来、高齢者の名簿も手に入れられなくなった、と聞いています。どこに高齢者が住んでいるのかもわからないのに、何に基づいてどのように「確認業務」をしなければならなかったのでしょう?
それともうひとつ、「公務員OBを民生委員にあてるような慣行…」とありますが、公務員OBはなぜ民生委員になってはいけないのか、教えていただきたいです。
投稿: 名無し | 2010年8月 5日 (木曜日) 11時23分