« 米国:ホワイトハウスがサイバーセキュリティ推進-民間部門でのセキュリティ強化も重視 | トップページ | 寓話:ある国のおはなし »

2010年7月16日 (金曜日)

仮想都市の消滅事例から考えるパブリッククラウドの問題点

かつて,ゴゴ市という仮想都市があったそうだ。

 ウィキペディア: ゴゴ市
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%82%B4%E5%B8%82

私はそのサービスを利用したことがないので,詳細は知らない。当時は,要するに,「アニメーションを駆使したソーシャルメディアの一種であり,暇人が集う場所のようなものだろう」くらいに想像していた。実際,そうだったのじゃないかと思う。

ところで,この仮想都市の中では,課金サービスがあり,サービス利用者は,課金サービスによって様々なアイテムを蓄積し,それなりに楽しむことができたらしい。

ところが,ゴゴ市のサービス終了と共に,仮想都市は消滅し,また,その中に蓄積されていたサービス利用者達のアイテムも生活も記憶もすべて同時に消滅した。

仮想都市では,利用者によるアプリケーションのバックアップというものがあり得ない。そして,そのアプリケーションで処理されるデータの大半は,仮想都市の中にのみ存在しており,利用者が任意にバックアップをとることが難しいのがむしろ普通だと思われる。仮に利用者によるデータのバックアップが存在していたとしても,利用者によるアプリケーションのバックアップというものがあり得ない以上,そのデータを適正に処理することができない。

ただそれだけのことなのだが,このような娯楽サイトの歴史を調べている間に,パブリッククラウドの未来像の一つを示す良い具体例ではないかと思うようになった。

そもそも,私がパブリッククラウドの法律問題に首をつっこむきっかけとなったのは,リーマンショックにより大規模なネットサービスが終了してしまった場合,個人情報やプライバシー情報や営業秘密に属する情報等の管理をする管理主体(事業者)が消滅してしまい,これらの情報が野ざらしになってしまうだけでなく,管理主体が消滅してしまう以上,管理主体の存在を必須の前提としている現在のマネジメントシステム理論の根本部分が完全に崩壊してしまうという問題ととりくんだことにある。

ゴゴ市が消滅した経済的原因の詳細についてはよく分からない。当時,ゴゴ市の経営主体である企業の本社が所在する韓国では大規模なサイバー攻撃が繰り返ししかけられていた時期であり,もしかするとサイバー攻撃によって仮想都市の運営(とりわけ課金処理)が難しくなり,結果的に倒産したのかもしれない。ここらへんのところは,朝鮮語に精通している研究者に調べていただけるとありがたい。

いずれにしても,クラウドの場合であっても,大規模なサイバー攻撃によってシステムの一部がハックされると,(システム内で提供されるサービスが基本的にはクローンとしてのアプリケーションサービスだけで構成されているがゆえに)かなり短期間に全面的な攻撃に晒されるという問題がある。一つでも攻撃手法が発見されると,それがクラウド内のあらゆる部分で通用する攻撃手段である可能性が高いからだ。コンピュータリソースにしろ,生体にしろ,クローンで構成される集合のもつ最大の脆弱性とでも言ってよいだろう。この脆弱性は,クローンであることから自動的に発生する本質的なものなので,改善または抑制できる余地が全くない。つまり,クローンである以上,一つでも攻撃手段が発見されると,直ちに全面的な崩壊につながる危険性を常にもっていると言うべきだ。このことは,パブリッククラウドでもプライベートクラウドでも基本的には変わりがない。

他方で,課金の失敗がサービス終了を招いてしまう例は,実は数え切れないほど多数ある。どんなに格好良いことを言ってみて,所詮,商売の一種なので,利益がなければ事業を継続することができない。

そして,現在,データセンター,ホスティング,SaaS,クラウドのいずれをとっても,世界規模で供給過剰状態になっていることが明白なので,そんなに遠くない将来,世界規模で極めて大規模な業界再編が生ずることになるだろう。

その場合,特定のパブリッククラウドを利用して仮想サーバを立ち上げ,ビジネス運営をその特定のパブリッククラウドに全面的に委ねている企業は,その特定のクラウドサービスの終了と共に,瞬時にして企業としての活動を終えることになってしまう。しかも,その企業の情報資産は,すべて野ざらしとなる。

リーマンショックの影響は薄れつつある。しかし,だからこそ,企業は競争活力を回復しつつあるのであり,競争が本当に激化する。その結果,競争に敗れた企業は消えていくことになる。そのようにして消えていく企業の中には,非常に有名なパブリッククラウドサービスを提供する世界的超大企業も当然に含まれることを忘れてはならない。このようなことを書くと反発を感ずる読者もあるかもしれないが,エンロンとアーサーアンダーセンの事例を常に想起すべきだ。

結局のところ,サービスの利用者として採れる最善の方策は,とにかく,「クラウドに100パーセント依存してはならない」,「依存しないために,自前のシステムを必ず並存的に持つ」ということになる。

そうなると,クラウドを利用することによる「コスト削減効果」なるものは,実は「幻想」の一種に過ぎないのだということを極めて容易に理解することができる。

|

« 米国:ホワイトハウスがサイバーセキュリティ推進-民間部門でのセキュリティ強化も重視 | トップページ | 寓話:ある国のおはなし »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 米国:ホワイトハウスがサイバーセキュリティ推進-民間部門でのセキュリティ強化も重視 | トップページ | 寓話:ある国のおはなし »