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2010年5月15日 (土曜日)

蔵置

サイバー法関連の判決を調べていると,しばしば「蔵置(ぞうち)」という用語を用いたものを見かける。

「蔵置」は,もともとは改正前の刑法190条(死体損壊罪)で用いられていたもので,どうやら明治時代に刑法典を制定した際に人工的に作り出された合成語らしい。その意味は,遺体やお骨などを「墓の中に安置する」という意味だ。

「蔵置」は,一般用語ではないし,刑法の領域以外では用いられることがないだけではなく,読み方も意味の理解も容易ではないため,刑法改正(現代語化)の際に,「納める」という語に置き変えることとし,以後,「蔵置」という語を用いないことにされた経緯がある。これは,法制審議会において専門家が慎重に審議した上での判断結果なので,一応権威ある判断だと言えよう。

にもかかわらず,検察官や裁判官は,無自覚的または意図的に「蔵置」を用い続けている。その意図するところは,電子計算機の記憶装置に電磁的記録を記録すること(to store)だ。例えば,「ハードディスク内に記憶・蔵置し」というような使い方がそうで,刑事判決だけではなく,著作権法や民法の関係の判決でしばしば用いられている。

しかし,上記に述べたように,「蔵置」は遺体やお骨などを「墓の中に安置する」という意味があるのであり,かなり気色悪い語であることは明らかだ。宗教的立場によっては,この語を安易に用いることは,死者に対する冒とくとして理解されるかもしれない。

検察官や裁判官が電子技術に対して敵意を抱いているためにこの語を用い続けているのかどうかは知らない。

しかし,私は,必要性も合理性もないのに,安易に「蔵置」という語を用いる人に対しては,無知または不勉強な人であると評価することがある。少なくとも,教養ある法律家だとは思わない。

私の講義を受講する学生についても,「蔵置」という語を判決理由中で用いている裁判例を引用するために必然的にそうなってしまう場合などを除き,安易に「蔵置」という語を用いる者に対しては,容赦なく低い点数で採点をするようにしている。あまりにも勉強不足だからだ。

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コメント

ごんべいさん こんにちは。

良いアイデアだと思います。

裁判官が使用する日本語変換ソフトには,「ぞうち」を変換しようとすると自動的に「安置」だけが候補として出てくるようにプログラムすればよいと思います。

例えば,「***のデータを***のハードディスク内に記憶・蔵置し・・・」と入力しようとすると,どうやっても「***のデータを***のハードディスク内に記憶・安置し・・・」となってしまうようにしてしまうわけです。そうすれば,どんなにレベルの低い裁判官でも気味悪がって「蔵置」を使わなくなってしまうでしょう。(笑)

投稿: 夏井高人 | 2010年5月17日 (月曜日) 23時03分

アンチ「蔵置」ということで、「安置する」というのはどうでしょうか。
だめですね。失礼いたしました。

投稿: ごんべい | 2010年5月17日 (月曜日) 17時30分

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