裁判員の許されない発言と裁判長の重大な怠慢
報道によれば,「男性裁判員が「被害者に弁償する気はありますか」と質問。松下被告が「生活保護で返す」などと答えたため、「死刑を望みながら、弁償するというのは矛盾している。全額返済し、責任を取ってから死んでください」と言って質問を終えた。」とのことだ。
裁判員裁判:「責任取ってから死んで」裁判員発言 被告「死刑にして」に--大津地裁
毎日jp: 2010年5月27日
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100527ddm041040111000c.html
報道だけなので,実際に述べられた発言の正確性は担保されていない。もし報道されている内容以上にきついことを述べたとすれば,場合によっては,名誉毀損罪または侮辱罪となることがあり得る。有罪判決前の被告人は,身柄を拘束されている場合でさえ,無罪の推定を受けた国民なので,法律に基づき受忍しなければならない拘束以外の侵害行為(特に精神的侵害行為)を甘受しなければならない義務はなく,普通の人間としての名誉権も保有している。
さて,直接の資料がないのであくまても仮定で私見を述べざるを得ないが,仮にこの報道どおりだと仮定した場合,この男性裁判員は,やってはいけないことをしてしまっていることになる。直ちに排除しなければならない。
なぜなら,裁判官にしろ裁判員にしろ,被告人に対して「質問」をすることができることは当然のことなのだが,自分の「意見」を押し付けることはできないからだ。
男性裁判員は,裁判員なので,あまり深く考えず,単純に自分の意見を言っただけなのだろう推測される。しかし,被告人の立場にもなってほしい。反論や論争などできそうにない「裁かれる立場」にあるのだ。
だから,裁判官と裁判員法廷では意見を言ってはならず,ポーカーフェイスで通さなくてはいけない。
例外は,裁判長が判決の宣告をする際に説諭をする場面だけだ。これは判決理由を示す行為の一部として評価可能な範囲にある限り許される。ただし,理由の説示の一部としてではなく,単なる私的感情の押し付けであれば,裁判長といえども許される行為ではない。思想や感情を国家権力機関が個々の国民押し付けることは,重大な人権侵害となるだろう。
さて,この男性裁判員の発言に対しては弁護人も異議を申し立てなかったようだ。弁護人として怠慢だったと評価する。
しかし,それ以上に,裁判長が発言を阻止しなかったことは重大な職務怠慢と言える。最高裁と地裁所長は,注意処分くらいは検討すべきだろうと思う。
裁判員裁判に慣れっこになってしまって,刑事訴訟における適正手続の保障という最も重要な事柄が頭からすっぽりと抜け落ち始めているのかもしれない。これは由々しき問題だ。私は,左翼系の法律家でも人権保護系法律家でもない。中立というよりは若干保守的な人間かもしれない。それでも,このような人権侵害行為が平然と行われていることには黙っていることができない。
そのことを指摘できないマスコミの不勉強のひどさにもあきれ果てる。
今後の問題としては,「意見」と「質問」をわけて考えることのできない者は,裁判に関与してはならない以上,そのような識別ができるだけの知的水準にある者かどうかを審査した上で裁判員を選任すべきだろうと思う。
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