グローバルなクラウドコンピューティングとローカルな国家主権をめぐる議論
下記の記事が出ていた。
Borderless European Cloud Risks Fragmentation
Europe Insight: May 24, 2010
http://www.businessweek.com/globalbiz/blog/europeinsight/archives/2010/05/borderless_european_cloud_risks_fragmentation.html
パブリッククラウドが国家主権を有名無実にしてしまう可能性があることはこれまで何度も書いてきたことだ。どうしてこんなに簡単なことに気づくのに時間がかかるのだろうか?
ポイントは,「パブリッククラウド環境では利用者の側の統制が消滅する」という極めて簡単なことに尽きるのに・・・
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コメント
キメイラさん こんにちは。
原稿締め切りが来ていて,尻に火がぼうぼう状態で,かなり汗をかいております。(笑)
さて,冷房コスト削減のために,湿度の低い寒冷地に物理サーバを設置する例(またはそのような場所に設置してある物理サーバをまるごと借り上げる例)が非常に多いようですが,実は,僻地なので,物理的な監視や管理がちゃんとできているかどうかは全く謎です。
また,僻地なので,物理的な災害に対する事前防御はむしろ弱いと推定したほうが良いでしょう。
しかも,寒冷地に置こうとどうしようと,物理装置は相当の熱を出しますので,氷河を溶かしたり,永久凍土を融解させたりします。つまり,自ら自然災害を積極的に招き寄せているのと同じ状態を作り出しています。「基礎工事をしっかりやっているから」との反論(?)を受けたことがありますけど,永久凍土の上にコンクリートで基礎工事をやっても海の上の木製筏とそんなに変わらない状態だということがどうして理解できないのでしょうね。馬鹿です。
というわけで,世界制覇を狙ってコスト削減を徹底すればするほど,ますますもって脆弱な仕組みが構築されてしまうという構造になっていると理解しています。
では,比較的安全な場所に物理サーバを移動したらどうかというと,価格競争力において圧倒的な優位を保つことなどできなくなってしまいますね。
要するに,最初から成立困難なビジネスモデルなのに,そうおもっていないという虚妄が現在の嘆かわしい状況をつくりだしてしまっているのだろうと思います。
投稿: 夏井高人 | 2010年5月29日 (土曜日) 21時59分
夏井先生ご応答ありがとうございます。m(_ _)m
災害ヲタクの私からすれば,活断層上の原発や政府緊急指揮機構と同じで,火山島(アイスランド・グリーンランド・ハワイ)や砂州(上海・日本の埋立地の大半)は,地殻変動で粉体流(アイスクラッシャーを含む)や液状化が予想されるところだから,重要インフラ基部を設置するのは狂気の沙汰と言っても過言ではない,という過激な意見を提示したいところです。
古大陸岩盤内岩塩層(ザルツブルグ)とか活断層がない強固な岩盤上(スイスアルプス)でないとホントは安眠できないです。湿度と気温が高いですけど(瀧汗かき。
投稿: キメイラ | 2010年5月29日 (土曜日) 12時18分
キメイラさん こんにちは。
冷却コストを削減するため,アイスランドやグリーンランドなどの寒いところに物理サーバを集中して置いている企業が少なくないようですが,それだと物理攻撃をしやすくしてしまいますね。それに,火山の噴火や氷河の溶解による洪水などでぜんぶまるごと一巻の終わりなんてシナリオもあり得るかもしれません。
投稿: 夏井高人 | 2010年5月27日 (木曜日) 19時14分
かっては資源や農産物を人質に外交交渉を図るのが流行りましたが(ex.資源戦略~キッチン戦争),未来は,他国のクラウドDBを自国内に囲い込んで恫喝する時代でしょうか。国際的ラッダイト運動がボーダレスで起きてからでは遅いと思います。
サーバは自国内に置きましょう。以上国内産業界からのCMでした(笑。
投稿: キメイラ | 2010年5月27日 (木曜日) 15時28分
町村先生 こんにちは
私の場合,過激だとの非難を受けていますが,それは,認識不足によるものだと理解しています。
私は,世界的に「パブリッククラウド」を禁止する条約を推進することがベターだと思っています。
それが無理な場合,国防上の理由に基づき,日本の政府や企業等が外国のパブリッククラウドを利用することを禁止すべきだと思います。国防上の理由に基づくものですので,自由貿易協定の範囲外の問題です。課税などで対処しようとすると逆に自由貿易協定の問題にされてしまいます。
2番目の選択肢を世界各国がこぞって採用することにより,特定の国のクラウド企業が(自国の連邦政府や州政府を含め)世界中を支配し,事実上民主主義を有名無実化してしまうという悪夢から逃れることができます。
日本国は,世界各国が主権国家としてのプライドを維持するために,パブリッククラウドを禁止するように声高に叫ぶべきだろうと思います。
ちなみに,私は,自説が採用される可能性は極めて低いだろうという認識はあります。そのような認識にたった場合,現実には非常に巨大なパブリッククラウドが世界を支配することになるでしょう。
そのような支配が確立された後の世界において予想される事態は,パブリッククラウドに対するゲリラ的な破壊工作と,そして,パブリッククラウドの中枢にいる管理者を脅迫または買収して実行される犯罪組織によるマネジメントの支配という事態だろうと思います。そのような事態が現実に発生する可能性は非常に高いです。マフィアに支配されてしまってからでは,警察とて手も足も出ません。なぜなら警察のシステムもマフィアに支配されてしまっていることになるからです。
パブリッククラウドは,それ自体として悪です。だから,反対しています。
なお,プライベートクラウドを適正に利用することについてはぜんぜん反対していません。
投稿: 夏井高人 | 2010年5月27日 (木曜日) 12時57分
なんとなく思うことは、附合契約で契約の自由を事実上奪われてしまっている消費者の立場に似てきているなということです。
そうだとすると、その情報の非対称性みたいな構図にどう法的な規制をかけていくのか、あるいは対等性を回復させる仕組みを法的に、もしくは事実的に、こしらえていくのかということが次の動きとして予想されます。
グローバルな事業者に規制をかける個別の国家というのは、アメリカ、中国、EUといったスーパーパワーが思い浮かぶわけですが、そこでまた温故知新。政財官の持ちつ持たれつ関係がある場合、そこに入れない一般企業・一般庶民は搾取されるばかりという自民党時代の日本の構図を思い出すと、上記スーパーパワーとグローバル企業とが持ちつ持たれつ関係になって、そこに入れない日本とその企業・国民は搾取されるばかりという近未来が想像されますね。
グローバル企業に対して情報の透明性を要求しても、それと結託したスーパーパワーが率先して機密保護を追求するのだから、出口は見出しにくく・・・。
投稿: 町村 | 2010年5月27日 (木曜日) 10時48分
丸山さん こんにちは。
ひとくちに「パブリッククラウド」と言っても多種多様なサービス形態があるので一律全部同じということにはならないということはよく理解しているつもりです。しかし,単なるディスク貸しではなく,業務処理の中枢部分や会計処理などについてのアプリケーションサービスを全面的にクラウドに頼ってしまうと,利用者側での統制は消滅してしまいますね。
この場合,統制のないところではマネジメントもないので,クラウド側のマネジメントに完全に依存する従属的な立場となってしまいます。また,利用者側での統制とマネジメントが存在しない以上,利用者側のマネジメントが適正であるかどうかの監査や第三者認証等もすべて無意味なものとなってしまいます。つまり,認証機関の大半が倒産することになります。当然,極めて大規模な人員削減が広範囲に生じます。
もしかすると,「パブリッククラウドが普及すれば大恐慌が発生する」なんてシナリオが成立してしまうかもしれません。
投稿: 夏井高人 | 2010年5月26日 (水曜日) 20時15分
夏井先生、なかなか興味深い記事の紹介ありがとうございます。
委託元と受託者の力関係によっては、委託先は受託者を完全に統制できなくなる。特にクラウド業者は超大手で効率性の観点から同質のサービスを従量制で販売するというケースが多いので、委託先から見ると、受託するかしないかの二者択一になりますね。。。
たとえ、はじめにある契約条件に納得して委託しても、その後契約変更をしてくる場合があるので、注意ですよね。。。
とにかく統制できない状況がどのような結果を生むのかを冷静に考える必要があります。。。
投稿: 丸山満彦 | 2010年5月26日 (水曜日) 16時55分