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2010年4月24日 (土曜日)

もしサイバー犯罪者によってGoogleのシステムの支配が奪われたら

下記の記事が出ている。

 Liability issues could linger over Google Gaia system hack
 USA Today: Apr 21, 2010
 http://content.usatoday.com/communities/technologylive/post/2010/04/liability-issues-raised-over-google-gaia-system-hack-/1

この記事は,Googleの巨大なシステムが抱える膨大なユーザのアカウント情報が盗まれたとしたらどうなるかということを想定した記事だ。

しかし,一般化して考えてみると,要するに,「巨大なパブリッククラウドの統制が奪われたら,その利用者である企業等は一斉に全滅し,かつ,クラウドのベンダーには弁償の能力がない」という一般的な問題として理解することが可能だ。

以下は,あくまでも一般論なのだが,現在までの世界の法制度においては,「独占」という概念で,特定の企業の巨大化を防止するという方策を講ずることができるようになっている。しかし,これだけでは十分ではない。

今後の世界では,もし利用者(顧客)が一斉に全滅した場合,ベンダ企業がオンラインで自動的に完全賠償責任を果たすことができるだけの担保を有していることが大事であり,担保となる実質的な資産の分量よりも市場支配が拡大した場合には,自動的にその取引活動を抑制または禁止することができるような国際的な法制度の構築が必要となってくるだろう。

要するに,法的責任を果たす能力を相対的に喪失してしまうほどに巨大化した企業は,法人格主体としては(法的義務を履行する能力を最初から欠いているという意味で限定責任能力者的な存在であると理解した上で)基本的には法人格を否定されるべき存在であると認識することが重要だ。

民法学者や商法学者等は,いったん自分の脳を完全にリセットし,即物的に世界を眺め渡した上で,新たな法制度を構築しなければならない。

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コメント

watanabe8760さん こんにちは。

現在の地球上で完全な資本主義の国はただの1国もありません。米国を含め,資本主義と自称する全ての国が,社会主義国であるか修正資本主義国であるか個人所有国(王国や独裁主義国等を含む。)であるかのいずれかだと思います。

米国,欧州,日本等は,ほとんど社会主義国と変わりません。建前上のスローガンのようなものが社会主義を標榜する国と異なっているだけです。

資本主義経済を貫こうとすれば,所得の再配分をしてはならず,独占禁止法を廃止し,累進課税を廃止し,医療保険や国民年金その他の福祉制度をすべて廃止しなければなりません。しかし,そんなことができる国はありません。

また,自由主義経済理論の祖と思われているアダムスミスでさえ,キリスト教的な倫理観に基礎付けられた経済的競争によって調和がもたらされると力説しており,単なる自由放任ではありません。強いて言えばバイブルによって強力に統制された資本主義とでもいうべきものです。実は,カールマルクスでさえ,キリストの神による強烈な統制が存在すると信じていただろうと考えられます。「ユビキタス」とは,本来,そのようなキリストの神による地上世界の完全支配という状況を意味しています。日本では無宗教に近い状況があるので,そこらへんのことが理解されにくいだけのことだろうと思います。そして,アダムスミス流のバイブルによる強力な統制のようなものを世界規模で実現しようとすれば,非キリスト教国でも受容可能な条約と法律という制度によって抑制するというやり方しか残されていません。

以上のようなわけで,現在の経済社会は,その大部分において既に大幅に制御された社会です。別の記事で,サイバー犯罪条約をめぐる国連でのやりとりについても触れていますが,それとリンクして考えるとわかりやすいだろうと思います。

資本主義が世界を支配していると考えるのは全く根拠のない幻想に過ぎないし,弊害が著しく大きいのでやめましょう。

私の提案は,独占禁止法及び関連条約の考えを少しだけ進めたものです。現実性は非常に高いと考えています。

私が過去20年間に提案してきた様々な法理論には共通した特徴があります。それは,提案の当初にはひどく叩かれたり非難されたり否定されたりするという特徴と,そして,しばらくたつと世界的に承認されて通説のようになってしまっているという特徴です。

私の理論の大部分は,いずれも圧倒的に正しいです。多くの人々が世間の惰性の中だけで生きようとしているので,「受容したくない」という心理が強く働く結果,当初は否定的な態度に出るだけのことだろうと信じています。それでも,私の理論は正しいので,いずれどこかの国で採用されるようになり,そして外圧として再び日本に舞い戻ってきます。私が黙っていても,世間は,私が提案して世界に広まった理論を採用せざるを得なくなってしまいます。過去,そのような実例が数え切れないほどたくさんありました。だから,私は,議論をしないし,単に世間を眺め続けているだけにすることにしています。

きっと,私のことを「ひどく自信過剰だ」と思われることでしょう。

しかし,私と長く付き合っている人は,「私の言うとおりだ」ということをよく知っています。

投稿: 夏井高人 | 2010年4月25日 (日曜日) 06時23分

危機的状況を想定すれば、おっしゃるとおりのセイフティネットを整備するのが合理的かと思います。しかし、これほど資本主義・市場経済が爆走している世の中で、それに対してブレーキをかけるような制度が果たして通るのか?という疑念が拭えません。パブリッククラウドがもたらすリスクがはっきり認知されていない現状を考えると、アンチ・クラウドを成立させるインセンティブのある人間もほとんど存在しないのではないでしょうか。

投稿: watanabe8760 | 2010年4月25日 (日曜日) 00時47分

watanabe8760さん こんにちは。

企業の資産は,それ自体として常に担保です。その担保力が全く評価されなくなってしまうと破産か清算により消滅するしかありません。

それゆえ,企業に対する適正な監査が求められ続けてきました。

とはいっても,現実にはエンロンの事件に代表されるような巨額の粉飾等もあるわけで,真実の担保力がどれだけあるのかは本当は謎です。

にもかかわらず,通常程度の損失があっても「債務不履行はないだろう」という仮定のもとにすべての企業活動は成立しています。

ところで,世界規模のパブリッククラウドが壊滅すると,自動的にその利用者(顧客企業)が全情報資産を失って壊滅してしまうことになるわけですが,その場合の損害賠償額は,常にクラウドベンダの支払能力をはるかに超過するものだと推定することが可能でしょう。そうなると,巨大過ぎるパブリッククラウドベンダの企業としての担保力は常に大幅にマイナスであると推定するのが正しい企業評価になるだろうと考えています。そのようにして常に大幅にマイナスなのに支払能力があるかのごとき態度を示すことは,これは「詐欺」です。

私は,Googleがそこまで巨大になっているとは思いませんが,もし今後も肥大化を続ければ,いつかそのような「詐欺」の状態に到達することになるだろうと思います。

合理的な解決策としては,損害賠償額を限定する約款を全て無効であると仮定した上で,クラウドの機能停止に伴い全利用者(顧客企業)が同時に全て壊滅した際に生ずると推定される損害額を試算し,その上で,その資産額(推計額)に相当する損害賠償債務を履行してもクラウドベンダが経営を正常に維持できる水準のプラスの資産を保有しているかどうかで判定し,その水準を満たさなくなったら「違法」として判定するというやり方を国際的に義務付けることが考えられますね。

これまで多国籍企業についてこのようなことがあまり真剣に考えられてこなかったのは,仮に巨大な多国籍企業の情報システムが破壊されたとしても,その取引先である各国の企業等が同時に全滅するということが考えられなかったからだろうと思います。それは,各国の企業は巨大多国籍企業に経済的には従属することがあるかもしれないけれども,情報システム全部を依存しているのではないからです。

しかし,パブリッククラウドは違います。

巨大すぎるパブリッククラウドのシステムが破壊されると,ほぼ瞬時にして世界経済全体が破壊されてしまうこともあり得ると考えています。

つまり,巨大すぎるパブリッククラウドは,その存在形態それ自体が違法であるという結論になります。

Googleがそのような「悪魔」と表現しても過言ではないようなレベルにまで巨大化しないことを切に祈っております。

投稿: 夏井高人 | 2010年4月24日 (土曜日) 18時20分

完全な担保を保証できない企業は「法人格を否定されるべき存在であると認識すること」とありますが、これは具体的にどういうことになるのでしょうか。その認識の上に築かれる法制度は、実際的にGoogleなどの大企業が認め得る現実性を持てるのかが気になりました。

投稿: watanabe8760 | 2010年4月24日 (土曜日) 13時06分

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