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2010年4月12日 (月曜日)

町村泰貴・小向太郎編著『実践的eディスカバリ 米国民事訴訟に備える』

電子的な証拠が増加しているという現状を踏まえ,米国では連邦民事訴訟規則が改正され,電子的な証拠開示手続(ディスカバリ)が導入された。日本国では,米国と同じようなものとしての証拠開示制度はないが,近い将来,現在よりももっと米国のやり方に近い証拠開示制度が導入されると一般に考えられている。また,証拠開示という場面だけではなく,電子的な証拠の取り扱いについて,何らかのかたちでの民事訴訟規則の改正が不可避な状況となっていることは否定できない。

そうした状況の下において,下記の書籍が刊行された。

 町村泰貴・小向太郎編著
 デジタル・フォレンジック研究会監修
 『実践的eディスカバリ 米国民事訴訟に備える』
 NTT出版 (2010/3/11)
 ISBN-13: 978-4757122574

ざっと目を通してみたところ,米国の連邦証拠規則の考え方を紹介する入門書的な書籍であると判断した。類書はないわけではないが,内容的に不正確なものが少なくない。本書は,比較的正確な論述となっており,しかもわかりやすいので,電子証拠開示制度について知るためには良い導入となる一冊ではないかと考える。

なお,米国の連邦証拠規則は,改正されて間もないというのにある障壁によって非常に大きな解釈上の困難に直面している。その障壁とは,クラウドコンピューティングを含む仮想コンピュータだ。特定のデータの物理的オリジナルのようなものを観念することがまるで無意味な世界において,伝統的な理解における電子証拠とその取り扱いが正常に機能する保障は全くない。もちろん,一部の法律家(弁護士)やクラウド関連企業等はクラウド・オリエンテッドな電子証拠開示の方法を提案している。しかし,理論的にきちんと考察してみた場合,かなり問題ではないかと思われる例が多い。

本書では,仮想コンピュータにおける仮想データの存在はあまり意識されていない(14ページに数行だけ触れられているが,この部分の記述は正確ではないし,問題意識も正当なものではない。)。そもそも日本の法律家の大半に本当の問題点が全く意識されていないような状況ので,本書の著者らがあまり意識しなかったとしてもそれは無理からぬものだと考える。

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