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2010年3月 6日 (土曜日)

人工知能学会誌 vol.25 no.2 特集「学習支援環境のシステマティックなデザイン:学習の工学を目指して」

人工知能学会誌の最新号が届いた。2つの特集記事が組まれており,1つ目は「ロボカップ12年」,2つ目は「学習支援環境のシステマティックなデザイン:学習の工学を目指して」だった。

ロボットについては,私見もあるが差し控える。

学習支援環境のシステマティックなデザインについては,ちょっとだけ意見を書きたい。

この号に収録されている論文の執筆者は,基本的には工学系の研究者ばかりだ。私は,工学における授業のやり方というものを知らない。どのような方法が良いのかを言うべき立場にはないし,そのような能力もない。現実に工学部で工学系の授業をしたことがないので,意見を言う資格もないだろうと勝手に思っている。だから,これらの論文それ自体について評論することもできない。

問題はそれからだ。

論文を読んでいて,提案されているメソッドが理系・文系の相違と無関係に汎用的なものとして応用可能であるかの如き印象を受けるものが散見された。しかし,文系の学部で文系学問の授業をしたことのない人またはその能力も資格もない人が,どうしてそのようなことを言えるのだろうか?

この号に収録されている論文で提案されているメソッドを仮に法学部の私の授業で応用しようとした場合,私は「退職したほうがましだ」と考えるに違いない。それくらい法学部の授業にはマッチしていない。

誤解のないように繰り返しておくと,私はこれらのメソッドそれ自体について批判しているわけではない。もしかすると工学部では有用な方法なのかもしれないが,私には批判の能力と資格がないのだ。それと全く同様に,工学系の研究者が文系(特に法学)の分野でも同じメソッドが汎用的に応用可能だと勝手に提案する能力と資格もまた否定されるべきだ。

かねがね,大学教育におけるIT化とりわけFDには著しく不快な思いをしてきた。それでも,明治大学に所属する教員の一人として協力できることは協力してきた。しかし,学問や教育の本質的部分まで工学部のやり方で染められてしまうのは困るし,もしそのようなことを安易に承認すると,それこそ法学の自滅行為につながりかねない。

このことは,工学部の特性を全く無視して,伝統的な法学部のやり方を工学部に押し付けようとすれば,猛烈な反発をくらうだろうということと全く同じことだ。

私は,特別にテリトリー意識の強い人間ではない。しかも,ITの利用可能な部分は徹底的に利用してこれまでの研究や教育を行ってきた人間の一人だという自負さえある。

しかし,学問の世界は単調ではないのだ。

単調な考え方から抜けられない限り,日本の大学に未来はない。

ちなみに,教育研究用のホームページにしてもそうで,私は規格化され標準化された世界が大嫌いだ。だから,どんなにへたくそでも,自分流で自分のホームページをつくる。大学との関係もあるので,協力すべきところは協力するが,それ以外の部分は,自分だけの世界をつくりたい。

My lectureでは,私のポリシーに基づく私の統制が徹底されなければならない。このことは,すべてのマネジメントシステムの考え方と共通しており,否定されるべき要素は何ひとつない。ただし,独裁者的な理事長が全てを支配しているようなタイプの大学においては,パブリッククラウドと同様に,その理事長のポリシーと統制だけが優先的に適用されるのであり,個々の教員のポリシーと統制は全面的に否定されることに留意しなければならない。

そして,「世界にただ一人しかいない**先生の授業を聴きたい」と考え,どんな遠くからでも学生がやってくるというような状況こそ本当の意味での「大学の理想」というものだろうと思う。「**大学に行きたい」は,単なる商業主義またはありふれた権威主義の一つの姿に過ぎないかもしれない。

少なくとも法学部という存在においては,他の大学の同種科目に対する明確かつ意識的な差別化は必須の要素だと考える。この文脈において,学問や教育手法の共通化や標準化はレベルの顕著な低下を招き,衰退という結果しかもたらさない。


[このブログ内の関連記事]

 新しいホームページを開設中
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-e51d.html

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