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2010年3月15日 (月曜日)

Twitterは古くて新しいタイプの名誉毀損を発生させることがあり得る

大前提として,私は表現の自由を愛する人間だと宣言しておく。私自身及び私の著作に対する批判を含む表現であっても,最大限の努力をもってその批判者の表現の自由を守ることを約束する。

しかし,そのように宣言することができるのは,私自身が法律家という社会の中では比較的強い立場にある者だからできることだ。現実の社会の中には「泣き寝入り」するしかない弱い立場の人々が大勢存在している。そこでは,利益のバランスというものを慎重に考慮しなければならないし,もし真に救済されるべきだと私が判断する人からの依頼や相談があれば,その被害者のために相談に応じるだけの準備はある。

以上の前提で,ここから先の記事を書く。

最近,Twitter上のメッセージのサンプルを収集しまくっていた。それは,実証を重視した調査研究をしたいという私の基本理念に基づくものだ。また,Twitterで第三者に公表されているメッセージは,公開することに本人が事前承諾を与えているものと推定されるので,個別に許諾を得なくても収集が可能であると判断した。そのようにして,かなり大量のサンプルを収集することができた。

様々な問題点を発見することができた。結論として,ビジネスモデルそれ自体が適法性要件を満たしていないと判断する。

例として,名誉毀損をとりあげる。

私が着目しているのは,著作権法上の「公正な引用」と関係した名誉毀損の問題だ。これは,プロッサーの古典的な分類における第三の類型のプライバシー侵害に該当するものであり,今日では主に名誉毀損の関係の法律問題として分類されている問題だ。まさに古くて新しい問題だといえる。

まず,あるブログ記事をTwitterで第三者に紹介するメッセージが存在すると仮定する。自動的にリンクが生成されるのは良いのだが,そこに示されているのは,ページのタイトルとURLだけだ。著者名の記載があることは珍しい。ブログ記事の場合,個々の記事の中に著者名がデータとして存在しないことが多いから,自動的なリンク生成では基本的にそういうことになるだろうと思う。

もちろん,著者名が表示されていなくても「公正な引用」だといえる場合はたくさんある。しかし,そうでない場合もまたたくさんある。このブログで記事を書く際のエラー発生が著しいため詳細を論ずることができないが,このような理解を前提にして本題に入る。

民法の不法行為の規定(709条)は,故意または過失により他人の法的利益を侵害した場合に損害賠償請求権が発生すると定めている。このことは英米における不法行為(tort law)でも基本的には同じだ。

ところで,Twitterのメッセージ上における他人のブログ記事の引用が間違っていたり曲解に基づいていたりした結果,引用されたブログ記事の著者に対して間違った評価またはその著者について印象を与えるという結果を発生させることがあり得る。そして,それは不法行為としての名誉毀損を構成し得る。過失によってそうなってしまった場合も含まれるから,問題発生の規模はかなり広範囲で深刻なものとなる可能性がある。ある表現物を第三者に対して公開する場合,そのようなことをきちんと考えた上で,もし仮に訴訟を提起されることがあっても受けて立つつもりで腹をくくっているのであれば別だが,普通はそういうことではなく,かなり安易にTwitterが利用されている現状を考えると,全世界で何万人もの人々が過失による名誉毀損として損害賠償責任を負う可能性があるし,その中でも悪質なものについては名誉毀損罪として処罰される可能性がある。

今回のサンプリング調査の結果理解できたことは,上記のような懸念が,単に机上の理論としてはそうだというだけではなく,かなり現実味を帯びているという事実が存在しているということだ。

そこで振り返って基本から考えてみると,ごく普通の市民に対し,上記のような法的問題を正確に理解しろと要求することは不可能だ。また,そのような法的問題があることを理解しているという前提で行動しろと求めることも妥当ではない。むしろ,問題点は,普通の市民が安易に使った場合,何かしら法的紛争を発生させる可能性が十分にあるツールであることを認識すべきなのに,あえてそのようなツールの一つであるTwitterを市場に投入してしまっている企業の側に主な法的責任があると考える。要するに,ビジネスモデルそれ自体が違法なのだと考えるべきだ。

エラーが頻発するので,これまた詳論することができないのが残念だが,議論の骨子は上記のようなものだ。

なお,この記事を書くについても,毎度お馴染みになってきた重大なエラーが何度も発生し,非常に苦労した。このサイトは,ほとんど使いものにならない仮想システムをベースとするブログサイトになってしまっていると断定せざるを得ない。

賢明な経営者は,決してパブリッククラウドをビジネスで利用してはならない。

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