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2010年3月 6日 (土曜日)

柳原正治『グロティウス』

若いころ,グロティウスの書いた本の翻訳書を何冊か読んだことがある。どれも高価な本ばかりだったので,自費で購入することはできず,図書館で読んだ。ただし,グロティウスという人物については,高校の西洋史の教科書で学び,百科事典を読んで覚えたことくらいしか知らなかった。

最近,インターネットを含むグローバルネットワークシステムにおける法の本質のようなものを考える機会が多くなり,そのたびに若い頃に読んだグロティウスの本のことを思い出した。細かい点については現代の情勢に合っていない部分がある。しかし,近代的な国際法の基本概念を構築した人物であることは否定しようがない。ただし,本当はどんな人物だったのかをほとんど知らなかったのだ。

そこで,ちょっと古い本なのだけれど,『グロティウス』という本を読んでみた。しばらく前に買って書棚に入れたまま,まだ読んでいなかった書籍だった。数日前に,仕事をしやすくし,大量にアウトプットを生産できるようにするために自室の大掃除をし,書棚を整理し直したので,読む気になったという面もある。

 『グロティウス』
 柳原正治著
 清水書院(2000年10月16日)
 ISBN4-389-41178-0

高校で西洋史や倫理社会(←私が高校生当時の科目名)をとった人ならそれほど苦痛には感じないかもしれないが,グロティウスの生きた時代の社会背景を記述している部分は,知識の羅列みたいな要素が多い。西洋史をとっていない人にはちょっと厳しいかもしれない。しかし,これを正しく認識・理解しないと,グロティウスの仕事の意味を正当に評価することができないだろうと思う。一般に,知識というものは奇妙な入れ子状態になっており,メタ知識とそのまたメタ知識のようなものが幾重にも重なっていて,それを知らないと知識として機能しないことが普通なのだが,この本を読む際にもある種の博識のようなものがないと読みきれないかもしれない。

ともあれ,ざっと全部読みきった。

2000年に出版ということなので,つい最近の出来事は当然フォローされていないし,予言もされていない。しかし,現時点でもなお価値ある書籍の一つだろうと思う。

それはさておき,読後感として思うことは,やはり,武力の統一ができていない現実の社会において,「法」というやり方で一定のルールを強制することには当然の限界があるということだ。北朝鮮の問題にしても,中近東の問題にしても,アフリカの問題にしても,何ひとつ解決できていない。さりとて,簡単に物理的な戦争をしかけるわけにもいかない。湾岸戦争を例にとってみても,結局,問題の本質は何も変わっておらず,誰も得をすることはなかった。

物理的な世界ではそうだ。戦闘継続と治安維持のための人員と物資とそれを調達するための予算に物理的な限界がある以上,当然の結果であるとも言える。

ところが,ネットの中では少し違う。電子的な攻撃が可能なのだ。その攻撃は,戦争でもあり,防御でもあり,自力救済でもあり得る。しかも,主権国家や大規模な組織のみならず,個人またはごく少数のグループが世界規模でそれを実行できてしまう恐ろしさがある。

主要国の政府は,どうやらネットの完全監視と完全管理という方法でこの問題を乗り越えようとしているらしい。

しかし,どのような方法を採ったとしても,内部犯行を防止する手段というものが存在しない以上,どうにもならない面はある。もし内部犯(←大統領や軍司令官や組織としての軍などがそうである場合もあり得る。)が世界を規律するためのシステムの支配権を奪うことができたとしたら,容易に世界独裁が実現できてしまうかもしれない(←神の神はいない。)。それを想像しただけでも怖くて眠れない夜になってしまいそうだ。

これは,誰にも解決できそうにない問題のようにも思える。

しかし,だからこそ挑戦してみるだけの価値のある課題だという言い方も可能となる。

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