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2010年3月20日 (土曜日)

スマートフォンで利用できる簡易なオンラインリアルタイムストリーミングビデオサービス

長い間,ビデオコンテンツはコンテンツ制作会社のようなものだった。それは,コンテンツを製作するための機材などが高価であったことと,媒体を製造する能力が個人にはなかったからだ。しかし,長時間ビデオ録画可能なデジカメやスマートフォンなどが普及することにより個人が簡易な製作機材を手に入れることになった。媒体は,CDやDVDのプレス工場ではなくインターネットになった。要するに,編集してアップロードするだけだ。そのような例は,YouTubeに端的に現れている。つまり,コンテンツの集中管理が不可能な時代が到来している。

このことは,コンテンツに関連する著作権などの知的財産権の管理が,従来のような権利管理団体による集中管理では全く機能しなくなっているということを意味している。強いて言えば,Commonsのような著者が自分でコントロールの仕方を決定するというやり方しか機能しない。ただし,課金はほとんど不可能となる。

他方で,コンテンツそれ自体が何らかの権利侵害物である場合が増加すると見込まれる。コンテンツの集中管理が可能な世界では,例えば映倫のような組織とコントロールが機能する。しかし,集中管理が機能しない世界では,映倫のようなタイプの審査機関は全く意味をなさない。強いて言えば,プロバイダの苦情相談窓口と警察だけが頼りということになるだろうが,理論的には全世界の全ての人がコンテンツ製作者となり得る可能性があり,仮にその全員が何らかの意味で他人の権利を侵害するような行為をしたと仮定した場合,苦情相談窓口も警察も全く機能しないという事態が当然発生する。このような仮定は明らかに極端なものなのだが,そこまでいかなくても,事業者が製造するコンテンツの10倍以上の量のコンテンツが個人によって私的に製造されアップロードされるという状態が発生したとすれば(←現実に,既にそうなっていると思う。),ISPの苦情相談窓口と警察の処理能力は既にオーバーフローになっていることが明らかだと思われる。そして,このような権利侵害の中には,例えば他人の著作権や意匠権などの知的財産権の侵害もあり得るし(←要するに,パクリ。),他人のプライバシーの侵害ということもあり得る。後者の場合,簡単に言えば,ひとりひとりの個人がローカルなStreet Vewになっている状態だと言ってよい。自分で自分の姿を撮影してアップロードするのは,自分で決めたことだから他人の権利侵害にはならない。しかし,他の人に知られたくない事実を映像として撮影され,ネットにアップロードされることを苦痛に感じる人はかなり多数存在するのではないだろうか?

これらの問題すべてについて,司法機関は既に処理能力がオーバーフローになっていると思う。現実にそうならないのは,実際に損害賠償請求訴訟が提起されたり,何らかの罪で起訴されたりする件数が少ないからだ。しかし,いずれ,スマートフォン上で「誰でも簡単に裁判できる方法」とか「告訴状・告発状の書き方」のようなコンテンツが流布されることは時間の問題なので,司法機関が現実にオーバーフローとなって処理不可能状態が発生することは目に見えている。誤解のないように言っておくと,そのことによって弁護士の仕事が増えるとは思っていない。コンテンツを映画会社が製作するのではなく個人が自分で製造するのと同じように,民事では,弁護士を訴訟代理人としない本人訴訟が増加することはほぼ疑いがない。刑事では,法務省関係の予算が枯渇し,検察官が次々と過労死したりノイローゼになって非違行為を発生させたりするような事態が発生することになるだろう。

ちなみに,職業人としての評論家等は消滅する可能性がある。Twitterのような文化は,集団による集合知のような世界であり,特定の評論家のような一個人の能力でもってそれを凌駕することは原理的に不可能なのではないかと思う。そして,Twitterのようなものが普及すれば,誰もテレビ(特にバラエティショー)を見なくなり,評論家の出番それ自体が消滅する。このことは,ニュースキャスターなどでもいえることではないかと思う。

冷静な読者は,「世界が壊れつつある」ということを理解することができるだろう。そして,壊れたあとに来る世界には,「どこにも管理者が存在しない」という恐るべき状態が待っている。まさに「カオスの到来」だ。そのような世界を規律するのは,結局は,露骨な暴力(武力)ということになるのではないかと想像している。

「誰でもアクティブになれる状態」は,もしかすると世界を破滅させることになるのかもしれない。

下記の記事を読みながら,そんなことを考えた。

 Where does privacy fit in the online video revolution?
 Guardian: 19 March 2010
 http://www.guardian.co.uk/technology/2010/mar/19/streaming-video-online-privacy

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