MicrosoftのIE9(Internet Explore 9)がオープンソースに?
ブラウザをとりまく状況が更に変化してきたようだ。下記の記事が出ている。
MS、「IE9」のプラットフォームプレビューをリリース
ZDNet Japan: 2010年3月17日
http://japan.zdnet.com/news/internet/story/0,2000056185,20410523,00.htm
Microsoft, 'open' data, and the curse of open source
Registger: 19th March 2010
http://www.theregister.co.uk/2010/03/19/programming_open_data/
Should Microsoft make IE open source?
Computer World: March 17, 2010
http://blogs.computerworld.com/15771/should_microsoft_make_ie_open_source
[参考]
Internet Explore 9
http://ie.microsoft.com/testdrive/
このような動きは,GoogleのブラウザであるChromeを意識したものであることは,ほぼ疑いがない。
私は技術者ではないので根本から間違っているかもしれないが,ここから先は,現時点で考えていること(一般論)を少し述べる。
GoogleのChromeは,単なるブラウザではない。実質的にみてGoogleのクラウドの一部であると言えるのであり,その利用者をGoogleのクラウドへと取り込むための出入口になっている。Googleのクラウドの一部である以上,Googleのクラウドを最も速く安定した状態で使うことができるようになっていることは言うまでもない。
実は,この1ヶ月くらいの間,いくつかのクラウドコンピューティングサービスや仮想コンピュータを実際に試してみた。どれもWebベースでサービスやアプリケーションを提供するもので,その提供のためのインタフェイスはブラウザになっている。
ところが,ブラウザとシステムとの相性が良い場合と悪い場合との差異が極端に出ているように思う。専門家ではないので定量的に結果を示すことはできず,あくまでも感想に過ぎない。しかし,その差異が顕著であるとしか言いがないのだ。
IEがGoogleのクラウドでも使えるとしてもChromeよりも良い性能を出すことは難しいだろうと思う。何しろ,Chromeは実質的にみてGoogleのクラウドの一部なのだ。それは,IEがWindowsの一部であったのと同じことだ。他方で,Google以外のクラウドコンピューティングサービスプロバイダは独自のブラウザを開発・提供するだけの力をもっていない。したがって,もしIEがオープンソース化し,どのベンダーのクラウドシステム上でも自由にチューニングして使えるようになるとすれば,Microsoftがクラウドの世界でも覇権を維持することができることは明らかであり,ここに本当の狙いがあるのではないかと推測されるのだ。
クラウドの世界を制するためには,物理装置の優秀さを追求することが必要であることは言うまでもない。しかし,それ以上に,インタフェイスを制することが最も重要だ。インタフェイスとなるブラウザを通じてアプリケーションが提供され,データが交換され,課金がなされ,セキュリティ管理が可能となるわけだし,ブラウザなしにはクラウドのサービスを提供することが基本的に不可能となる。
もしクラウドのベンダーが,自社のシステムの性能を最大限に発揮するように設計された自前のブラウザを持たず,サードパーティのブラウザに依存することになる場合,そのサードパーティもまたクラウドのベンダーである場合には,当該ブラウザは当該サードパーティのクラウドの性能を発揮するように最適化されている結果,相対的に不利な立場におかれることになる。つまり,自前のブラウザまたは自社のクラウドに最適化された形でチューニングされたブラウザをもたないクラウドベンダーは,同業者間の競争において,相対的に劣後する立場にじわじわと追い込まれてしまうことになるだろう。要するに,ブラウザを支配するかどうかは,単なる技術の問題なのではなく,クラウドビジネスそのものと直結するものであり,世界におけるクラウドをめぐる覇権争いは,結局は,ブラウザのシェアを勝ち取る企業がどこであるかによって基本的には決定されてしまうのではないかと思われるのだ。
米Microsoft、HTML5をサポートした「IE 9」プラットフォームプレビュー版を公開
Enterprise Watch: 2010/3/18
http://enterprise.watch.impress.co.jp/docs/news/20100318_355403.html
Microsoft Announces Hardware-Accelerated HTML5, Pushes Boundaries on Web and Cloud Development
Microsoft: March 16, 2010
http://www.microsoft.com/Presspass/press/2010/mar10/03-16MIX10Day2PR.mspx
このように考えてくると,IEのバンドリングをめぐりEUにおいて争われてきた紛争が,最近になって解決してしまった理由らしきものも見えてくる。おそらく,Microsoftは,在来型のコンピュータシステムをビジネスの最重要ポイントとは考えなくなってしまっているのだろう。そして,クラウドの分野における成長を期待し,ビジネス戦略をすべてそこに集中していると推測しても間違いではないのではないかと思う。もしIE9が数多くのクラウドコンピュータを利用する上でより安定し速い処理を期待できるブラウザであるとすれば,バンドリングの有無に関係なく,IEとそれにまつわる様々なサービス提供における優位を維持できることになる。
クラウドをベースとして考える世界では,バンドリングに関する法的論争もまたほとんど意味をなさないものとなってしまったと判断して良いだろうと思う。
さて,このようなMicrosoftの戦略が正しいものであるかどうか,成功するかどうかは全く別の問題だ。
私は,そんなに楽観はしていない。
何しろ,現時点でのクラウドコンピュータ(仮想コンピュータ)は,まだまだ不安定であり,数多くの脆弱性要素をかかえたままとなっている。
とりわけ,集中管理が頂点にまで達しているクラウドコンピューティングにおいて内部犯行によりデータの盗み取りや破壊などの非違行為がなされた場合には,ガラパゴス的に孤立したシステムの集合体(複雑系)であるという現在のインターネットの状態において個々のサーバで内部犯行による非違行為が実行される場合と比較して,はるかに恐るべき壊滅的な結果を招来するであろうことは,小学生でも容易に理解できる簡単な原理ではないかと思う。
極端な集中管理を推進し,それによってコストを削減しようというベクトルは,それ自体として誤りだろうと思う。効率の悪い複雑系の考え方のほうが,はるかに高い安定性を安全性をもたらすことになるだろう。このことは,自然界における生態系そのものに直接触れ深く考察すればするほど,私の中で確信めいたものとなってきている。
世界規模でガラパゴス化を推進しなければ,インターネットは崩壊することになるだろう。
| 固定リンク
« 英国:Googleストリートビューに対する批判が更に高まる-イギリス陸軍特殊空挺部隊(British SAS)も丸見え | トップページ | 投資家達は,スマートフォンを高収益の投資先とは考えていないらしい »
コメント