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2010年3月 7日 (日曜日)

イタリアでGoogleの元責任者に対してなされた有罪判決が意味するもの

ミラノの裁判所は,名誉毀損の罪で起訴されていたGoogleの元責任者らに対する公判において,有罪の判決をした。この事件では,YouTubeに投稿されたビデオ画像が問題とされていた。Guardianの過去記事を読んでいたら,この判決がなされた結果,YouTubeでは,ポストされた画像が適法なものであるかどうかを検査してからでないと公開してはならないということになるのではないかとの指摘をしていた。

 Google Italy ruling threatens YouTube pursuit of profitability
 Guardian: 24 February 2010
 http://www.guardian.co.uk/technology/2010/feb/24/google-italy-youtube-video-analysis

商業音楽コンテンツや商業映画コンテンツなどについては,著作権管理団体などが違法なコンテンツの取り締まりを強く求めている。利益が関係しているので強力な圧力団体となり得るのだろう。

名誉毀損やプライバシー侵害については,相互に無関係な被害者が個々の個人になることが圧倒的に多いので,被害者団体が結成させることはないし,圧力団体となることもない。

しかし,理屈から言えば,著作権侵害となるコンテンツであっても,名誉毀損(プライバシー侵害)となるコンテンツであっても,そのどちらもが「違法なコンテンツは流通させてはならない」という定式の中で取り扱われ得るという点で全く相違点がない。言い換えると,どちらも違法なコンテンツなのだ。

したがって,もし「違法なコンテンツについては事前にフィルタし,検査した上で,適法なものだけをネット上で流通させるべきだ」との定式が正しいとすれば,音楽コンテンツや映画コンテンツだけではなく,およそすべてのコンテンツについてこの定式が妥当するのでなければならないことになる。この「すべてのコンテンツ」の中には,名誉毀損やプライバシー侵害となり得るコンテンツも含まれなければならないことになる。そして,音楽産業や映画産業だけを特別に扱うことは公平の原則に反するので,場合によっては憲法違反となり得ることになるだろう。

そうなると,政策的判断としては,「事前の検査(検閲)は一切しないで,事後的な救済だけに頼るべきだ」という方策を選択するか,または,「事前の検査(検閲)によって,違法なコンテンツは全て事前に遮断すべきだ」という方策を選択するかのいずれかの決断に迫られることになる。

なお,後者を選択した場合,今度は,「表現の自由」の侵害になる可能性があるので,更に困難な法的論争が発生してしまうことになる。

このような議論の場において,議論の構造それ自体がどのようになっているのかを正確に測定・認識するためには,具体的な議論の諸要素の法論理的集合関係をよく考えながら一般的定式にまで抽象化し,その抽象化されたモデルを用いて考察することがとても大事なことだ。そして,その方法によってのみ,「何と何とがトレードオフになっているのか」を正しく把握することができるのであり,かつ,「どの法的利益を選択すれば何が守られて何が失われるのか」を理解することができるようになるといえる。

[追記:2012年12月22日]

控訴審で逆転判決となったようだ。

 Google Video executives' Italian conviction overturned
 BBC: 21 December, 2012
 http://www.bbc.co.uk/news/technology-20812873

 Italian Appeals Court Acquits 3 Google Executives in Privacy Case
 New York Times: December 21, 2012
 http://www.nytimes.com/2012/12/22/business/global/italian-appeals-court-aqcuits-3-google-executives-in-privacy-case.html

 

[このブログ内の関連記事]

 イタリア:Googleの元責任者に対し名誉毀損(プライバシー侵害)で有罪判決
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/google-9a14.html

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