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2010年2月 9日 (火曜日)

オーストラリア:著作権と関連する重要な判決が相次ぐ

先週,オーストラリアでは,著作権と関連する重要な判決が相次いで出されたようだ。その中の一件(Roadshow Films Pty Ltd v. iiNet Limited)は,ISP加入者(利用者)によってなされたインターネット上のP2Pファイルシェアリングについて,ISPは著作権侵害の責任を負わないというものだ。

 Two significant Australian copyright decisions handed down
 ACC: February 5 2010
 http://www.lexology.com/library/detail.aspx?g=87e5b22f-f297-4bcf-9977-285cbca8b51a

 Judge: Internet provider doesn't abuse copyrights
 Sydney Morning Herald: February 4, 2010
 http://news.smh.com.au/breaking-news-technology/judge-internet-provider-doesnt-abuse-copyrights-20100204-nf4b.html

 iiNet ruling casts cloud over legal online content
 Austraian IT: February 09, 2010
 http://www.theaustralian.com.au/australian-it/iinet-ruling-casts-cloud-over-legal-online-content/story-e6frgakx-1225828042312

この判決によれば,iiNetは,その利用者が著作権侵害行為を実行していることを認識しており,かつ,認識しておりながらそれを阻止しなかったとしても,著作権侵害者としての責任を負わないことになった。

ISPにとっては歓迎すべき判決ということになる。

これに対し,著作権管理団体にとっては納得できない判決ということになるだろう。

しかし,現実問題として,ISPが全てのトラフィックについて常時監視をし,利用者の通信が違法なコンテンツの伝送に該当するかどうかをチェックすることなどできるはずがない。

このことは,著作権だけではなく,他の全ての違法な通信の媒介についても該当することではないかと思われる。

なお,日本のプロバイダ責任制限法との関係では,「法がカバーしていない対象についてはプロバイダが免責されないことがあるかもしれない」という重大な論点についてこれまで十分に議論されてこなかったことは一応措くとして,何が「権利侵害」になるのかをISPに判断させることが酷である場合が決して少なくない。より改善されたやり方を模索すべき時期にきているのではないだろうか?

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コメント

eisさん こんにちは。

社会では,特定の利益だけが完全に満足するということはあり得ないことであり,不満足の総体が社会というものだろうし,そうであるべきだというのが私の個人的な見解です。誰か1人の欲望を完全に満足させるためには,その1人だけを独裁者とし,その他の者を奴隷化するしかないということを想像してみるだけでもこのことは明らかでしょう。

著作権をめぐる議論において,どうしても納得できない要素がつきまとってしまうのは,誰か特定の人(組織)の利益を完全に満足させようとする圧力が強すぎるからだろうと思います。そんなこと最初から不可能なことだし,期待するほうが間違っている。そこそこの利益,ささやかな利益を得て満足するくらいにしないといけないと思います。
しかし,米国流の「成功」という概念は,「とてつもない金額の利益を得ること」と同義と理解でき,そのような思想が著作権ビジネスの世界でも浸透しているように思います。米国は,企業経営者にしろ,映画俳優にしろ,スポーツ選手にしろ,巨額の報酬を得る地位を得た者が賞賛される社会です。要するに,「金権国家」だということができるでしょう。そして,このような傾向が世界全体の精神を蝕んできたことは否定できないことだろうと思います。米国人と中国人とで最も相似しているメンタリティはこのあたりではないでしょうか(←著作権に関する考え方は正反対のようですが・・・(笑))。

なお,この私も,もちろん「お金」が欲しいです。常に研究資金の不足で苦しんでいます。資金がなければサイトの運営ができません。スポンサーが欲しくてもいそうにないし,辛いです。それでも,「拝金主義はいけない」という観念が強いですね。

投稿: 夏井高人 | 2010年2月10日 (水曜日) 07時29分

heatwave_p2pさん こんにちは。

世界的には著作権侵害行為に対する処罰を強化せよという圧力が強いように思います。ただ,そのように主張しているのが著作権者ではなく流通業者であることが圧倒的に多いというのも事実であり,一体誰の権利を保護しようとしているのかを冷静に判断しなければなりませんね。「著作権法」という名を用いて利益を獲得している者は誰なのかを理解することが,この文脈における厳罰化または非犯罪化の議論の正当性を評価する上で非常に大事なことなのではないかと思います。

ちなみに,日本の著作権法に定める罰則及びその運用(←警察による捜査活動,裁判所の判決を含む。)は,世界でもトップレベルくらいに厳しいですので,これ以上厳罰化する必要性はないと思います。(笑)

投稿: 夏井高人 | 2010年2月10日 (水曜日) 07時15分

初めまして。いつも良質な記事の紹介と解説、ありがとうございます。

直接エントリには関連しないのですが、コメント欄で気になった点についてコメントさせていただきます。

>世間的には様々な考え方があり,「非犯罪化が正しい」と信じて疑わない人々も現に存在します(←いちど被害者になってみれば,そんな考えなど放棄しなければならないということが身にしみて理解できるだろうと思うのですが・・・要するに,理想論に過ぎないと思います。)。

著作権に関しては「非犯罪化が正しい」とは思ってはいないのですが、「厳格化には意味がない」と思っています。罰則の引き上げ、ダウンロード違法化と厳格化、罰則強化が行なわれていますが、「運用」がボトルネックになり、「厳格化」がプロパガンダ以上の意味を持っていないように思えます。

でも、運用にボトルネックを抱えている単なるプロパガンダにすぎないからといって、おいそれと厳格化、第三者の責任拡大をやらせているうちに、ある1つのルール変更によって情勢が一変するということを懸念しています。

投稿: heatwave_p2p | 2010年2月10日 (水曜日) 02時41分

夏井様

社会・国家法益と個人・法人法益が衝突することは想像できます。どちらが大事かといわれれば、その個人・法人には泣いてもらいますが、社会・国家法益を優先せざるえないとも理解できます。しかし、夏井様のおっしゃるとおり、実質的には民主的統制の下にいない法を裁く人が、社会・国益法益という印籠を振りかざすのも危険ということですね。
これを抑えるためにも、権力の行動が正しいかを後日、第三者が検証する仕組みが必要。取調べの可視化という話ですね。可視化の導入、警察は否定的ですね。捜査の何年後とかでもいいので導入して欲しいものです。禁錮10年ぐらいの罰則付きで。

違法行為、法律の専門家で無い為、とても勝手なことを述べてしまいますが、裁判所が具体的に○○を監視し、○○の状態になったら違法だと、示して欲しいです。コンピューターは論理的なので、論理的に定義してもらえれば、自動的に条件に当てはまるトラフィックをチェックできるのに。

「非犯罪化が正しい」←理想論に過ぎない←被害者になってから出直せとのコメント、賛同します。そのような方々、そのような発言をすることによるメリットを大きく受けているんだろうなと思いました。

最後に、何をするにしてもコストは発生する。で、誰がそれを負担するの??。何か大事故や外国からの圧力が無い限り、なかなか進まないでしょうね。なんか暗い将来について語った感じです

投稿: eis | 2010年2月10日 (水曜日) 01時53分

eisさん こんにちは。

大規模なISPの法務業務の中で非常に大きな部分を占めているのは,誹謗中傷や著作権侵害などのコンテンツや書き込みなどの削除請求対応です。その削除をした場合にISPの損害賠償責任を免責する要件を定めているのがプロバイダ責任制限法なので,ISPの法務部が一番親しんでいる法律はプロバイダ責任制限法ということができるかもしれません。

毎日,かなりの数の苦情申し入れがあるので,それぞれのISPにおいて運用上の努力が積み重ねられてきています。これを更に改善すべきことはeisさんのご指摘のとおりですね。

ところで,私が言いたいことは,実は法律それ自体の改正を含んでいます。現行法は「権利侵害」があることを要件としています。この場合の「権利」とは刑法でいえば個人法益に該当するものです。つまり,個人または法人が被害者になっている場合です。
ところで,法益の中には社会法益や国家法益というものがあり,これらは個人法益とは異なるものです。ところが,社会法益や国家法益の侵害であると主張する警察からの要請に従って問題のコンテンツを削除した場合,プロバイダが免責されるかどうはわかりません。法が予定していない事態だからです(なお,警察は,警察権の行使として要請をすることはできると思いますが,被害者ではないし,(選挙による民主的統制の下にある存在という意味での)社会の代表でもありません。警察権を有する国家機関としてその職務を遂行しているだけのことです。このことは,裁判官でも同じです。裁判官は,司法権を有する官僚の一種としてその権限を行使し職務を遂行しているだけのことであり,選挙による民主的統制の下に置かれた存在ではないからです。)。

というわけで,プロバイダ責任制限法を改正しないと,ISPとしては怖くてできないことが山ほどあるわけです。

それから,「加害行為」であるかどうかの判断が非常に難しいことがあります。特に価値判断によって加害行為であるかどうかの判断が大きく分かれるようなタイプの問題がそうです。そのようなタイプの問題については,運用による改善ができません。法務部のプロといっても,あとで裁判で損害賠償責任を負わされる危険性のあることについては,うかつな判断をするわけにはいかないんです。

それゆえ,運用による改善が見込めるのは,誰が考えても「加害行為」であると明々白々に認識・判定できるタイプの事案だけということになるでしょう。たぶん,そのようなタイプの事案については,ISPの法務部においても(判定が難しくないので)これまでも迅速・適切に対処してきただろうと思います。

犯罪の厳罰化についてですが,罪刑法定主義があるので,「運用」ではなく「法改正」が必要になります。法律家の世界では,「運用」とは法律を解釈し適用することを意味し,「厳罰化」などのようにルールを変更することを含みません。ルールの変更は「法改正」または「立法」になります。既に定められているルールに基づいて行動するフェーズでのみ「運用」が問題となるわけです。

この問題については,様々な立場があります。私は,犯罪の種類によっては厳罰化すべきだという立場の人間ですが,世間的には様々な考え方があり,「非犯罪化が正しい」と信じて疑わない人々も現に存在します(←いちど被害者になってみれば,そんな考えなど放棄しなければならないということが身にしみて理解できるだろうと思うのですが・・・要するに,理想論に過ぎないと思います。)。
ですので,簡単に厳罰化できるとは思いませんが,理論的な研究とともに実証的な検討を深めた上で,必要な法改正を進めるべきだろうと思います。

ただし,法が厳罰化されても,犯人をつきとめることが容易になるわけではありません。犯人の特定のための監視を強化すると,圧倒的多数の犯罪とは無関係の普通の人々のプライバシーがISPや警察によって侵害され続けるような事態が発生してしまいます。加えて,「そのような監視を実行するための機器やソフトウェアなどを導入し運用するためのコストを誰が負担するのか」という非常に深刻な問題もあります。企業にとっては,技術的な解決はそんなに難しいことではなく,むしろコスト負担こそが最大の課題となってしまうかもしれません。ここらへんの対応をどうするかが一番難しいんですよ。

投稿: 夏井高人 | 2010年2月 9日 (火曜日) 07時54分

夏井様

ISPは色々な人が色々な情報を通す道を提供しているようなイメージを持っています。

なので、例えば電車の改札口に顔認識カメラを設置し、犯罪者を検知しろといっているような話なのかなーと思いました。それも鉄道会社負担で・・・すこし話が飛びすぎてしまいましたかも。。

より改善されたやり方について、技術的な仕組みというよりも、運用で対処できないかなと思いました。
例えば、罰則を思いっきり重くする(禁錮10年とか)。少数箇所であるが官民共同の徹底的な調査を実施し、必ず犯人を突き止める。これで法を犯す行為への抑止力とする。。。

投稿: eis | 2010年2月 9日 (火曜日) 01時00分

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