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2010年2月 8日 (月曜日)

米国:IBMが,連邦政府用クラウドコンピューティングサービスにおける機密性保持のための技術を開発

特定の国の政府は,法人格主体として1個であり,省や庁などの部門はその機関に過ぎない。したがって,政府が自己保有のクラウドコンピュータを用いる場合,理論的には,それは,常にプライベートクラウドとなる(←政府が民間のクラウドコンピュータサービスを1利用者として利用する場合には,そのサービスはパブリッククラウドとなり得る。この場合,政府の統制は,当該パブリッククラウドの統制に常に劣後し,実際には政府としての統制を実質的に失ってしまうことになる。)。しかし,省や庁などの部局は,それぞれ独立した関係になっていることがあり,相互に他の省や庁からのアクセスを禁止したいという要求がある。例えば,日本の自衛隊のシステムに対して常にどの官庁や政府部局などからもアクセス可能であるとすれば防衛上の問題が発生するだろうし,警察庁が他の官庁のシステムに対して常に自由にアクセス可能であるとすればいろいろと問題が生ずることになるだろう。そのため,政府としてクラウドコンピューティング(プライベートクラウド)を採用する場合,その利用者の法人格はたった1人の「政府」であるという建前を維持しながら,実際には「政府」がプロバイダとなり,省や庁などに対してクラウドベースのサービスを提供するパブリッククラウドのような方式をとらざるを得ないということになる。米国でもこのことは全く同じであり,特に軍関係においては機密情報の保護が問題とされてきた。IBMは,この問題を解決するための方法を開発したとアナウンスしているようだ。

 U.S. Air Force to Fly IBM's Cloud
 TheStream.com: 02/04/10
 http://www.thestreet.com/story/10673849/1/us-air-force-to-fly-ibms-cloud.html

しかし,「何か変だ」と気づかない人は,相当愚かな人だと断言できる。

そのシステムをオバマ大統領が管理できるはずがないので,形式的なroot権限は法人としての米国連邦政府にあるとしても,実際には,IBMが運営するシステムを1利用者として利用するのと同じようなことになるのではないだろうか。この場合,連邦政府がIBMを国有化し,資本・経営とも100パーセント支配している状態であれば,政府がIBMに対して統制を及ぼすことができるので,最終的には政府がシステム全体に対する統制がIBMの統制よりも優越することがない。つまり,連邦政府は,このシステムに対する統制を有していないことになる。言い換えれば,情報セキュリティ上の基本要件を全く充足していないことになる。

私は,この問題がパブリッククラウドにおいて常に発生することであり,原理的に解決不可能な問題の一つだと考えている。

ちなみに,連邦政府がIBMとは無関係に独立して自前のものとしてシステムを運用する場合,実質的にroot権限を有する省(=たぶん国防省)は,他の省や庁に対して絶対的に優位な立場にたつことになる。実質的にroot権限を有する以上当然のことであり,他の省や庁はそのようなものとしてこのシステムを受け入れるしかない。しかし,それを我慢することのできるような国民性を有する国ではないかもしれない。現在,そのような問題が顕在化しないのは,クラウドという仮想的には統一された1個のシステムを共用するのではなく,それぞれの省や庁が物理的にも独立したシステムを保有し運用しているからだ。しかし,これが物理的にも論理的にも共有システムに統合されるとなると,そのシステム内での権限の序列を明確に定めておかないとシステムを運用することができなくなってしまうので,当然のことながら,省庁間の権力闘争が顕在化し,収拾がつかない事態に陥る危険性がある。ただそれだけで米国連邦政府は極端に弱体化することになるだろう。

他方で,形式的には連邦政府がrootであっても実質的にはIBMがrootである場合,テロリスト達は,銃砲や戦車などによって防御されていないIBMとその役員や従業員達を狙うことになるだろう。IBMの主要な施設や役員や従業員を攻撃するだけで,連邦政府のシステムを運用不可能な状況にしてしまうことができるからだ。同様に,連邦の軍人や諜報機関員を誘惑することは比較的難しいことかもしれないが,IBMの役員や従業員などを誘惑したり脅迫したりしてテロリストのスパイや手先にすることは比較的容易なことかもしれない。なぜなら,弱みのない人間などこの世に一人もいないからだ。つまり,国防という観点からは,連邦政府におけるクラウドコンピューティングの導入は最悪の結果をもたらすことになるかもしれず,テロリストにとっては今世紀最大の朗報になるかもしれないということが言える。

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