ゼミ学生の論文が受賞
明治大学法学部で開講している「専門演習法情報学」の受講学生である高梨さんと全さん(韓国からの留学生)のお二人が約半年をかけて調査研究をした結果をまとめた「プロダクトキーによるライセンス保護の現状と法的課題」という論文が,2009年度明治大学法学部大澤芳秋奨学論文として「優秀賞」を授与されることが決定した。この賞は学生が執筆・投稿した法律論文について,それぞれの分野の専門家である教員が査読・評価して決定されるものだ。今回は多数の論文の応募があったそうだ。私自身も学会誌投稿論文等の査読をしたことがあり,査読の大変さをよく知っている。期末試験と大学入試という極めて多忙な時期に困難な査読を担当してくださった教員各位に御礼を申し上げたい。
さて,この論文は,基本的に学生二人だけで調査研究し,執筆して応募したものだ。私は,中間報告を受けたり,質問に答えたり,精読して法理論的な検討の土台とすべき論文や書籍等を紹介し,関連判決の理解の仕方を教え,その他適宜アドバイスをしたりしただけに過ぎないのだが,この二人のゼミ生を指導してきた教員として,今回の受賞はとても嬉しい。加えて,様々な困難と直面してひどく辛いことが続き,ともすると落ち込みがちな毎日が続くような状態にあった私に対して,彼らの受賞は希望と勇気を与えてくれる素晴らしい出来事だった。その意味で,この二人の学生に心から感謝したいと思う。
また,この調査研究にあたって,現実に販売・提供されている製品やサービスの説明を受けるため,二人の学生は当該企業に対して直接にインタビューを試み,その結果に基づく考察がこの論文の中に反映されている。まだ若い学生に過ぎない二人にとって,最先端のビジネスを走っている一流企業にインタビューを試みることにはそれなりのストレスと苦労があっただろうと想像する。しかし,「机上の空論」ではなく「実証」を重視する私としては,「紙の上でのスペックの比較をしたり,他の論文や報告書等に記載されていることを鵜呑みにしたりするだけでわかったつもりになってはならない。実際に企業の担当者と直接にコンタクトをとり,納得いくまで調査研究をしなければ駄目だ。」と強く指導してきた。そして,彼らなりに学生として可能な範囲でやれることを尽くしたと思う。名も知らぬ若い学生達に対し,懇切に対応してくださった関連各企業の担当者の方々には心から御礼を申し上げたい。
なお,この論文は,明治大学の法学会誌第60号に掲載され刊行される予定だ。
この二人の学生には,それぞれの将来について大きな夢がある。とはいえ,現実の社会は厳しく,彼らが自分の夢を実現するためにはそれなりの苦労が伴うことだろうし,時間もかかる。しかし,今回の受賞を今後の心の支えとし,努力と工夫を積み重ねながら,それぞれの夢を実現する日を迎えてほしいものだと心から願う。
[追記:2011年2月22日]
この論文の受賞が決まった後,某氏から「夏井先生が随分と手を入れた論文なんじゃないですか?」との質問を受けたことがある。
他のゼミではそうしているのかもしれない。
しかし,私は,学生の応募論文である以上,100パーセント学生が書いたものである必要があるという信念を持っている。そのため,ゼミで内容についての中間発表を受け,アドバイスをすることはあっても,文章それ自体に手を入れることは一切ない。
従って,入賞は,100パーセント学生の実力を示しているものだ。優秀な学生に恵まれたこと,教員としてこれ以上の喜びはない。
ただし,入賞が決まり,学生論文集に掲載が決まった時点で,校正原稿を読み,ミスタイプや言い回しなどの細かい点について数箇所だけ意見を述べ,学生に修正させたことはある。正規の論文集であるし,不動文字(活字)として残るものなので,ミスタイプ等は避けたいと考えた上での指導の一貫だと考えている。
大学院の学生に対しても同様に指導しており,大半の学生(欧州からの留学研究生を含む。)は,自分自身の力で論文等を書いている。そうでなければならないというのが私の信念であるし,普通の大学院教員の信念でもある。ただ,例外的に一人だけ,指導がうまくいかなかったことがあり,自分としては痛恨の出来事だった。
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コメント
高梨さん こんにちは。
せっかく詳細に調査し,きちんと検討してまとめたのに,字数制限があったので,その結果を全部公刊できるようにしてあげられなかったのがとても残念です。最初の調査結果は,それ自体として大変貴重な資料の一つだと思います。いつか何らかのかたちで公表し,多くの人々に活用してもらえるように考えてみたいと思います。
とはいえ,私は指導教授なので,当然,どうしても贔屓目に見てしまいます。
今回,専門家の査読委員の先生にきちんと審査してもらえて本当によかったですね。公平で客観的な評価だったと思います。
今後も,何か興味関心のあるテーマをみつけたら,とにかく「対象をしっかりととらえる」ということと「先学が苦心してつくりあげてきた法理論や判例などを徹底的に調べてその意味を理解する」ということを基本としてやってみれば,きっと良い成果をあげることができるだろうと思います。
どんな時代でも「学問に王道なし」です。ショートカットなどどこにも存在しません。とにかく地道に研究し続けることです。
そして,ご自身の夢を実現できるように,粘り強く辛抱強く努力と工夫を継続してください。
投稿: 夏井高人 | 2010年2月20日 (土曜日) 23時49分
ブログでの紹介有り難うございます。最後の添削・確認も細部までして頂いて、感謝の気持ちでいっぱいです。書き始めた頃は、二人とも暗中模索状態でしたが、アドバイスいただき、何とか完成させることができました。昨年論文を提出した時点で今回の経験は僕にとって大変貴重な財産となりましたが、やはり結果が出てとても嬉しいです。
二年間本当にご指導有り難うございました。また良い報告ができるよう、今後も努力していきたいと思います。
投稿: 高梨 | 2010年2月20日 (土曜日) 22時25分