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2010年2月26日 (金曜日)

バージニアの裁判所が,Microsoftに対し,ボットネットとの接続の遮断を認める命令

マイクロソフトが原告となり,正体不明の者らを被告として,ボットネットとの接続を遮断することを認める命令を求めていた裁判(Microsoft Corporation v. John Does 1-27, et. al., Civil action number 1:10CV156 in the U.S. District Court of Eastern Virginia)で,合衆国東バージニア地区裁判所は,マイクロソフトの請求を認める判断をしたようだ。

 Cracking Down on Botnets
 Microsoft: Feb 24, 2010
 http://microsoftontheissues.com/cs/blogs/mscorp/archive/2010/02/24/cracking-down-on-botnets.aspx

 Microsoft shuts down global spam network
 BBC: 25 February 2010
 http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/8537741.stm

 Researchers question Microsoft's botnet take-down
 Computer World: February 25, 2010
 http://www.computerworld.com/s/article/9162498/Researchers_question_Microsoft_s_botnet_take_down

ちなみに,日本では,このようなタイプの訴訟は一切認められていない。仮処分(民事保全)手続であっても基本的に難しいのではないかと思う。その理由は,正体不明の者に対しては訴状や仮処分命令などを送達できないということにある(←特定された者に対し,所在不明等の理由で公示により送達する方法はあるが,そもそも正体不明であり何人いるのかさえ判然としない者に対して公示により送達する方法については,これまでまじめに考えられたことがないのではないかと思う。もし私の不勉強により私だけが知らないのであるとすれば,お許しあれ。)。だから,存在していることがわかっていても連絡方法を自ら秘匿しつつ悪事を遂行するようなタイプの者に対しては,日本の民事法は無力に近い。刑事的対応しか残されていないのだが,警察の腰が重くてなかなか動いてくれないことが多い。このことは,日本の法制度における重大な欠陥の一つではないかと思う。

他方で,正体不明の者に対して日本で仮処分命令を求めるとして,その主文を考えてみると,果たして執行可能な主文を構成することができるかどうかが難しい。これは,技術的にできないという意味ではない。そうではなく,現行の民事執行法(←仮処分命令の執行も民事執行法に基づいて遂行される。)がそのような事態を全く想定していないことから,適切な執行方法が存在しないということに起因している。要するに,現行の民事執行法もまた,ひどく古臭いものとなってしまっている。

サイバー犯罪やサイバーな違法行為に対しては,主に刑事的な対応が考えられてきたのだけれど,今後,民事訴訟法,民事保全法,民事執行法の専門家は,この分野での新規立法または法改正をめざし,まじめに研究てもらいたいものだと思う。

なお,日本のプロバイダは,自社のシステムのテリトリーの範囲内であれば,特定の通信の接続を遮断することができる。その法的根拠は,約款(利用契約)や情報セキュリティ上の必要性(正当業務,正当防衛,緊急避難)等に求められる。このことは,世界中のほぼ全てのプロバイダでも同じだろうと思う。しかし,自社のテリトリーの外のことについては,裁判所の仮処分命令などに基づくのでなければ何も手出しができないので,問題を根源から絶つことが難しいという現状がある。

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