左貝裕希子「米国Cablevision判決と日米の著作権侵害責任に対する考え方」
ケーブルテレビやインターネット上のWebサイトなどのサーバにテレビ番組を録画し配信するサービスについて,日米とも著作権侵害訴訟が提起されている。日本の裁判所の中には奇妙なものが少なからず含まれており,このようなものがまかり通っていることに憂慮することもある。他方,米国の判決の中には,実務上も法理論上も非常に参考になるものがあり,米国連邦最高裁まで争われたCablevision事件の判決はその中でも最も注目すべきものではないかと思う。この米国の事件について,丁寧に検討を加えた上で,日本における状況を分析し,日米の相違について考察した論文を見つけた。好感のもてる論文なので紹介したい。
左貝裕希子「米国Cablevision判決と日米の著作権侵害責任に対する考え方」
InfoCom Review vol.49, pp.37-54
2009年12月29日
発行:情報通信総合研究所
発売:NTT出版
ISBN978-4-7571-0273-6
一般に,このタイプの事件の本質は,要するに,個々の利用者が自分でテレビ番組などを録画する行為が適法行為である場合において,利用者から委託を受けて(包括的に)録画代行をし,代行して録画した画像を「配信」という形式で(選択的)に利用者に提供する行為について,それを利用者からの委託業務の履行に過ぎないと考えるか,それとも,独自に録画した画像の放送類似の配信行為であり独自のビジネスであると考えるか,というあたりにある。
伝統的な考え方では,「委託」とは,個別に委託者から受託者に対してなされるべきものであると考えられる。この考え方からすれば,委託予定者が受託見込みの仕事を予め包括的にやり遂げておき,後に個別具体的な依頼があったときに既にやりとげておいた仕事の一部を利用して即時的に依頼に応ずるようなタイプの契約は「委託」ではないということになりそうだ。
しかし,例えば,根担保契約や将来債権の包括譲渡担保などがそうであるように,個々具体的な権利義務の発生が将来のものであることを前提としつつ,それら将来債権を現時点で包括的に処理するための合意は多数存在しており,それらはいずれも適法だと考えられている。このことからすると,本来なら利用者が個別に行うことのできる番組録画について,将来の録画代行を包括的に受託するような契約があっても別に異とすべきことではなく,もちろん適法行為であると考えるほうが正しい。
日本の裁判例などを見ている限り,このようなタイプの事件に関する議論は,しばしば大きな混乱を含むものとなっていることを否定できない。その原因の大部分は,論者の中に著作権法しか知らず,民法(とりわけ債権法)について無知としか言いようがない人が専門家顔をして入り込むことによって生じているように思われる。しかし,そのような意味で無知な者が法の専門家であろうはずがない。客観的には専門家ではあり得ない者が,世間では専門家として活動できるというところに実は最大の問題点が存在しているのかもしれない。
というわけで,私は,法学部及び法科大学院の学生に対しては,「とにかく民法を完全にマスターしろ」と強調している。民法は,他のすべての法律を学ぶための基本を提供するものだ。民法を完全にマスターしていない者は,法の世界の最も大事な部分をぜんぜん知らない無知な人だと評価してよい。
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