総務省:スマート・クラウド研究会(第5回)配付資料
総務省のサイトで,下記の資料が公開されている。
スマート・クラウド研究会(第5回)配付資料
総務省:2010年2月15日
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/smart_kuraudo/24919.html
野村総研がとりまとめたプレゼンテーション要旨を読んで,暗澹たる気持ちになった。
これまで企業内で構築していたシステムの支出先の中には非常に多くの日本企業が含まれる。また,企業はシステムの構築・運用のために多数のエンジニアを雇用している。野村総研の予測によれば,これらの支出の中の多くの部分が,今後はクラウドの外注費になるという。
しかし,その「クラウド」なるものは,大多数において,日本国外に本社のある外国企業であり,会計も日本国外でなされ,サーバその他の施設・設備も外国に所在していることになるだろう。
その結果,これまで企業が雇用していたエンジニアにおいて大量失業が発生し,日本国のIT企業は受注がなくなって大量倒産し,そして,会計が外国でなされ本国で納税する関係から日本国への法人税収入等も大幅に減少する可能性が高い。つまり,日本の資産がどんどん外国に流出してしまい,日本国は沈没する。
想像してみただけでも背筋が凍り付いてしまうような未来像だ。
そのことを想像しながらプレゼンテーションをまとめたのかどうかは知らないが,あまりにも無責任過ぎるというものだろう。
もし日本国のIT企業の経営者と日本国のIT専門家がこのブログを読んでくださっているのであれば,私の意見がヒステリーだとは思わないで欲しい。そして,このような無責任な言動が政府の委員会の中で平気でまかり通っているという事実に怒りを覚えて欲しい。
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コメント
panda3desuさん コメントありがとうございます。
私の一つ前のコメントをお読みになれば,私の「暗澹たる気持ち」はNGではることは理論的にも現実的にもあり得ないことであり,かつ,そのような気持ちは日本人として当然持つべき気持ちだということをご理解いただけると思います。
なお,一つ前のコメントは「野村総研」がNGであることを前提として書きましたので,その部分に限り,撤回します。
投稿: 夏井高人 | 2010年2月17日 (水曜日) 16時20分
panda3desuさん コメントありがとうございます。
高地室長の発言は,それまで厳しい批判と懸念のあった問題について,総務省としての方針を示したものと思われます(民主党政権としての意見かどうかは判りません。)。とは言っても,その批判が公然となされていたかというと必ずしもそうではなく,裏の汚い諸事情を知る人々の間で憂慮されていただけです。公然たる批判は,おそらく私が「丸ちゃんの情報セキュリティ気まぐれ日記」の上でコメントとして書いたのが最初だったのではないかと思います。
この高地室長の発言は,当たり前のことを確認したものだと理解しています。地方自治体も日本国の政治組織の一部ですので,もし日本国の主権(法)が及ばないところで国や自治体の重要な業務について情報処理が行われるとなると,売国行為そのものとなります。戦前であれば,もちろん軍法会議で銃殺刑ものでしょう。
もし野村総研のプレゼンテーションが国や自治体における利用を含むものとしてなされたものであり,かつ,(委員の構成からして)外国企業のサーバの利用を前提とするもであるとすれば,ご指摘のとおり,プレゼンテーションそれ自体としてNGですね。委員会の幹事会社としては不完全履行になる可能性はあると思います。もしそうであるとすれば,国に対して損害賠償責任を負うだけではなく,プレゼンテーションのやり直しをすべきことになるだろうと思います。
ところで,この野村総研のプレゼンテーションは,国や自治体におけるクラウドの利用に限定したものではありません。むしろ民間におけるクラウドを想定していると思われます。そして,民間企業の場合,外国のサーバを利用するのは自由です。
ただし,これまでクラウドに関連してこのブログでもしつこく繰り返し強調してきたとおり,私見によれば,外国のパブリッククラウドにすべて委ねてしまった場合,当該データや業務処理に対する統制が失われることになるだろうと思っています。統制がない以上,個人情報保護法の適用上でもISMS上でも,当該企業は最も低い評価しか与えられない企業として取り扱われることにならざるを得ません。この点について,多くの論者は,「クラウドのセキュリティレベルが高いから何の問題もない」と主張します。確かにそうかもしれません。しかし,それはクラウドの運営者の統制の下における情報セキュリティを論じているだけのことであり,利用者である企業の統制は無視されています。けれども,ここでの文脈で重要なのは,クラウドの運営者における統制ではなく,その利用者である企業の統制なのです。その意味で,上記の論者の論理には明らかな詭弁があります。そして,パブリッククラウド環境において生ずるこのような統制の衝突は,「統制」というものの本質上,どちらか一方が必ず優位にならなければならないものであるので,両立させる方向での解は存在しません。それを両立させるためには,現在主流となっている情報セキュリティの基本理論(基本原則)それ自体を根本から見直すしかないと思われます。
にもかかわらず,日本の企業の多くは,海外のクラウドサービスを利用する可能性が高いです。それは,サービスの質と単価によるものです。
このような民間企業の選択は,(民間企業は国でも自治体でもないので)自由です。
それゆえ,この記事の本文で指摘したような近未来をシミュレートしてみたわけです。
panda3desuさんのご意見はそのとおりなのですが,国が民間企業に対してクラウドの選択を国内企業に限定してしまうと,自由貿易を前提とする国際秩序に反するものとして国際的な貿易摩擦に発展してしまうことになるので,国としてはそのような政策を採用することができません。
というわけで,本文にも書いたとおりの悲観的な意見を述べるしかなくなってしまったわけです。
このような意見は,本来であれば,この委員会において委員の中から出されるべきものだったろうと思いますし,この点についてしっかりと議論をすべきものだったろうと思います。しかし,(代理出席が横行していることもあって)実際にはそうではなかったということが議事録を読んでみればよく判ります。委員は,その分野における専門能力を有する者として評価された上で委員として選任されたのである以上,単に経験上知っていることを一般論として述べるだけではなく,この分野において生じ得る問題点に関し徹底的に調査研究した上で,しっかりと議事を尽くして欲しかったと思います。
なお,私は日本人であり,日本の企業とのお付き合いが多いので,このブログ記事の本文に書いたような論調になってしまいます。しかし,この問題は,全ての国に共通の問題です。もしアメリカの企業がロシアや中国のクラウドサービスを利用しようとしたら,米国内では大きな批判が起きることになるでしょうし,連邦政府や司法省も黙ってはいないでしょう。米国の連邦政府が日本や韓国の企業のクラウドサービスを採用したら,おそらくオバマ政権は失速してしまうでしょう。現実にはそんなことが起きる可能性は乏しいのですが,机上のシミュレーションとしてはそうなるだろうと思っています。
要するに,産業政策として「クラウドを振興する」と述べた場合,そのクラウドという集合の中には運用主体という要素として日本企業だけが入るのではなく外国企業も入ることになるという点,また,日本国は資源の乏しい小国家であるので「自由貿易」の建前を捨てることが非常に難しい国だという点,それゆえ,民間企業が外国企業のクラウドのサービス利用に流れてしまうことを阻止する方法はないという点について,しっかりと自覚した上で,これらの点を踏まえた意見をまとめてほしかったということになるだろうと思います。
投稿: 夏井高人 | 2010年2月17日 (水曜日) 16時17分
間違いました。
正しくは
「筆者の『暗澹たる気持ち』は」
NGです。
以上
投稿: panda3desu | 2010年2月17日 (水曜日) 15時41分
正しい意見です。
但し、
国内法律の及ばない場所への
データ&APIの設置は
出来ません。
よって、野村総研の答えはNGになります。
参照:
「自治体クラウドの課題は業務プロセス標準化」、都道府県CIOフォーラムで総務省の高地室長
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100204/344243/
投稿: panda3desu | 2010年2月17日 (水曜日) 15時38分