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2010年1月 3日 (日曜日)

タッチパネル式インターネットラジオ

巷では「放送と通信の融合」なる議論を続けている石頭の学者もいないわけではないが,そのような議論が完全なまやかしであり,法理論としてはほとんど無意味なものであることはこれまで何度も書いてきたとおりだ。現実をみると,インターネットラジオやインターネットテレビは,いまや普通の存在になっている。「経路が何であるか?」はほとんど意味のないことだ。より多くの通信料をより少ないコストで送信することのできるチャネルと技術を通信会社は常に捜し求めている。ただそれだけのことだ。インターネットラジオやインターネットテレビは,その典型例の一つと言ってよいだろうと思う。

ところで,より良い通信経路が確保されているというだけではそれ以上の成長が見込めない分野であっても,受信用のデバイスの進化によって更に成長が可能になることがある。普通のインターネットラジオやインターネットテレビは,PCのモニタで視聴したりモバイルまたは携帯電話で視聴することが普通だろうと思う。それは,汎用の機器を用いた情報伝達というモデルとして理解することが可能だろうと思う。この受信デバイスについて,専用マシンによる受信というモデルを構想することはもちろん可能なことだし,これまでもいくつかの製品があったかもしれない。ただ,これまではあまりブレイクしなかったのじゃないかと思う。

今朝,Guardian(Web版)を読んでいたら,タッチパネル式のインターネットラジオなる製品が製造・販売されているという記事があることに気付いた。面白いアイデアだと思う。

 PURE Sensia touchscreen digital radio
 Guardian: 31 December 2009
 http://www.guardian.co.uk/technology/2009/dec/31/digital-music-and-audio-digital-radio

人間は,合理的な機能だけを追い求めて生きているわけではない。「緩み」や「遊び」の要素が全くない生活など耐えられない。ホイジンガではないけれど,人間は,「遊びの動物」なのだ。緊張と弛緩の間を行ったりきたりすること,それこそが,人間が「生きている」ということなのに違いない。その意味で,様々な面白さを加味した受信用デバイスの開発と製造・販売は,それはそれで(もしかするとニッチかもしれないけれど)一定程度のシェアを獲得できるビジネス分野かもしれないと思う。

おそらく,今後,中国あたりで似たような製品がどんどん開発され販売されることになるだろう。中国の企業にとってこの手の製品の開発はお手の物だろうと想像するからだ。ただし,特許を含む知的財産権関係の紛争もまた多発しそうな気がする。


[追記:2009年1月6日]

1月1日から改正著作権法が施行され,「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であって,国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」(改正著作権法30条1項3号)」には「私的使用のための複製」に該当しないこととなった。つまり,違法コピーされたコンテンツであると認識してダウンロードする行為は,違法行為となり,少なくとも損害賠償請求の対象となる。

私は,改正法のこの部分は,憲法違反であり,無効であると考えている。なぜなら,法律家ではない一般市民に対し,個々の音楽コンテンツについて,それが(ラジオ局等として既に権利処理されているかどうかを含め)違法コンテンツかどうかをいちいち確認させるのは事実上無理であるのに,それを強制するような結果となることは著しく正義に反し,国民の自由権に対する重大な侵害になると考えるからだ。従って,百歩譲るとしても,ダウンロードをした者が,個々の具体的なコンテンツについて,違法に複製されたコンテンツであることを予め明確に認識していた場合にのみ適用するのでなければ,憲法違反になると解する。

また,受信行為が複製権侵害として違法行為になるという条項が憲法違反ではないという前提を採る場合でも,(一時的なキャッシュを除き)複製物を記録として一切残さない完全なストリーミングコンテンツ視聴専用のインターネットラジオやインターネットテレビに関しては,そのマシン上では何も複製されていないし記録も残されないので,複製権の侵害というものを考えることはおかしい。要するに,複製権侵害という観点からすれば,そもそも法益が何も侵害されていないし,損害も発生しないので(←このような場合に,損害額の推定規定を適用することは憲法違反になると考える。),損害賠償請求権発生のための要件を充足しない。もし一時的なキャッシュも複製権の侵害になるのだというのであれば,一時的なキャッシュもすべて複製権の侵害となることになるが,もしそのように解するとすれば,ほとんど全てのPCやデジタルテレビ受像機は,違法行為を実行するためのマシンであることになってしまい,一切販売できないことになってしまうだろう。つまり,家電企業やPC製造企業は即時倒産に追い込まれることになる。要するに,そのような解釈は,理論上も実際上も採るわけにはいかない。ちなみに,演奏権の侵害になるという解釈を採るとすれば,普通のラジオやテレビもまた全て違法であるという法解釈を採るのでなければ一貫性がないことになる。つまり,そのようなタイプの解釈論は,そもそも根本的に間違っているのだ。

ちなみに,小倉先生がコメントでご指摘のように,文化庁の法解釈は,私見とは異なっているかもしれない。

また,世の中の「偉い」著作権法学者の多くは,私見に賛成することはないだろう(←の根拠は,公開のブログには書けない。)。

音楽は,国民に楽しみを与えるために存在しているのにもかかわらず,文化庁や「偉い」学者達のやっていることは一体なんなんだろうか?

権利保護を厳格にしたい気持ちは理解できないわけではない。しかし,そうすればそうするほど「国民の音楽離れ」がますます促進され,結果的に,作曲家や作詞家を含め,「音楽家が誰も飯を食っていけない時代がいずれやってくることになる」という誰が考えても当たり前のことを理解することができるくらいの知能は必要なんじゃないかと思う。

さて,私個人としては,今後どうするかというと,私見は私見として,文化庁や権利者団体からいちゃもんをつけられるとストレスがたまるので,合法なものであってもネット上の音楽コンテンツを一切利用しないことにする。これにより,有償コンテンツとして課金される場合には,それが高額であったとしてもちゃんと料金を支払って利用してきた優良利用者が一人失われたことになる。

自分が興味を持ったジャンルに属する音楽CDはほぼすべて入手してしまった。充実したコレクションであり,かなりの枚数になる。私にとってはそれを普通のCDプレーヤで聴き続ければ十分だ。

電車やバスの中でレシーバを用いて音楽を聞くのは,難聴の原因になるということが医学的に解明されているし,また,レシーバから漏れ出る雑音が他人に対する重大な迷惑行為ともなるので,もともと一切やっていない。

そして,最も正しい音楽鑑賞を重視することにする。すなわち,チケットがとれればコンサートホールに行って,室内楽や交響曲やオペラなどの実演奏を楽しむこととしたい。もしかすると,これ以上の贅沢はないかもしれない。その瞬間の音響は,まさにその場にいなければ絶対に体感できないものであり,かつ,どんな手段を使っても絶対に再現できないものだからだ。

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コメント

小倉 先生

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

さて,日本人は,小さい頃から上の人の言うことには従い,自分の意見は絶対に言わないようにするための訓練を徹底して受けているので,どうにもなりませんね。

沼正三こと****氏による『家畜人ヤプー』に示されている自虐的日本人という洞察は,まことに卓見であったと思います。出版当時も現在も状況が全く変わっていないというところがとにかく凄いです。

さて,文化庁の解釈は解釈として,私は,外国のサイトから流されてくるインターネットラジオ放送をPCとイヤホンを使って楽しむことがときどきあります。そのようなインターネットラジオ局のサーバのある国では日本国の文化庁の解釈など全く無視です。というよりも,間違った解釈として理解されていることでしょう。

世界にも稀な日本国刑法に定めるわいせつ関連の法令の適用を免れるため,現在のポルノ映像の送信は,一定の条件さえ満たせばアダルトポルノサイトの構築・運用が適法行為であるとされている外国のサーバでなされています。このポルノ映像などと同じように,いずれ,日本国の著作権法とその(文化庁による妙な)解釈の適用が全く問題にならない外国のサイトから日本の楽曲を含む様々な楽曲のストリーミングデータを提供する「インターネットラジオ局」のようなものが登場するかもしれませんね。

これは,見方によれば,法の抜け穴を探す行為とも評価可能ではあります。しかし,「そもそも日本国の法令及びその(行政庁による)解釈のほうが根本的にどこかおかしいのではないか?」ということを再検討したほうがよほど合理的で生産的なんじゃないかと思います。

なお,児童ポルノだけは絶対に駄目です。びしびし取り締まりましょう!

投稿: 夏井高人 | 2010年1月 4日 (月曜日) 20時33分

日本でのインターネットラジオの普及を阻んでいるのは、非オンデマンド型ストリーミングタイプでも自動公衆送信とする文化庁解釈の存在です。このため、CDに収録された音源を使うことができません。

投稿: 小倉秀夫 | 2010年1月 4日 (月曜日) 20時15分

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