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2010年1月22日 (金曜日)

クラウドコピューティングサービスの環境ではサイバー犯罪の捜査ができない?

クラウドコンピューティングの環境では,従来の電子的捜査手法を前提とする限りComputer forensics(電子犯罪捜査)が実行できないかもしれないという疑問がある。少し古い記事だが,このことを指摘する記事がある。今後,米国と同様にクラウドコンピューティングにおける機密情報の保護が法的にも強化されるとなると,その副作用として,この問題が表面化する可能性はあると思われる。

 Red Tape: Will Current Legislation Isolate Cloud Computing Data From The Forensic Gaze?
 DFI News: July 14, 2009
 http://www.dfinews.com/articles.php?pid=499

さて,この問題を日本国の法制に基づいて考えてみると,日本国の裁判官は,クラウドコンピュータのアーキテクチャを理解することがほとんどできないだろうから,通常の捜索・差押令状を発布しようとするし,現にそうするだろう。しかし,物理的な捜索・押収の場所をどのようにして特定したらよいのか,当のサーバの運営者・管理者でさえ正確に答えることはできないのだから,裁判官にも検察官にも特定できるはずがない。弁護人もまた同じ。そうなると,仮装サーバ上の相対アドレスを基準として仮装データを差し押さえるということしかできないようになると思われる。その場合,「そのような仮装データによる事実の認定が妥当なものといえるかどうか」といういうことが刑事訴訟法上の検討課題ということになる。ところが,日本国の標準的な刑事訴訟法学者が仮装コンピュータというものを正確に理解することができるかどうかは全くもって不明だ。

法律家は時代の変化に追いつかなければならない。実務法曹も法学研究者も,今後何年かにわたり一日の時間の圧倒的大部分を割いて新技術(←最新の電子工学,量子工学,遺伝子工学,行動科学等を含む。)を理解するための勉強を死にものぐるいでやってもらいたいものだと思う。

正確に事実を踏まえ,時間をかけて検討した上でなければ,どんなに頭のよい人であっても,そう簡単に正しい解決策を考え出せるわけがない。

目に見え手で触れることのできる物体の世界に対する認識・理解のみでもって「世界を理解している」とうぬぼれているような者は,法律家として適切ではないと思う。


[このブログ内の関連記事]

 米国:クラウドコンピューティングにおけるプライバシー保護と情報セキュリティ確保のための立法の動き
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/post-634a.html

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