Microsoft Word 2007のXML特許侵害問題から考えるクラウドアプリケーションの問題点
MicrosoftのWordに用いられているXMLのプログラムにカナダの企業が保有する特許侵害があったとして差止命令が認められた。これにより,MicrosoftはWord 2007などの販売及びライセンス供与ができなくなってしまった。しかし,(特にスタンドアロンのPCで利用されているWordの場合にはそうだが)既に販売またはライセンス供与されているWordは,(その使用が特許侵害行為を構成するかどうかは別として)何の支障もなく依然として事実上使われ続けている。
ところが,クラウドコンピューティングサービスベースでアプリケーションが提供される場合,そうはならないということを銘記すべきだろう。
すなわち,クラウドコンピュータ上では,1個のアプリケーションのコピーが利用者の仮想コンピュータ上に再構成され,そのコピーであるアプリケーションを利用者が使用することになる。ところが,もし仮にそのアプリケーションに特許侵害や著作権侵害があって使用差止命令が出た場合,当該クラウドコンピューティングサービスプロバイダはその利用者の仮想コンピュータ上に当該アプリケーションを構成して利用させることが全面的に禁止されることになる。つまり,1個の禁止命令によってすべての利用者の利用が同時に禁止されることになる。この点は,クラウドコンピュータという環境と,従来型のパッケージによるアプリケーション販売及びライセンス供与との極端な相違点であるといえる。
果たして,クラウドコンピューティングサービスの利用者はそのような法的リスクに耐えられるだろうか?
実は,同じようなタイプのリスクは既に現実化している。それは裁判所の差止命令によるものではなく,クラウド内のアプリケーションが汚染されたことによるものだ。つまり,普通の情報セキュリティ上のリスクとインシデントのひとつに過ぎない。しかし,個別にパッケージで配布されるアプリケーションを個々別々のマシン上で利用するという伝統的なやり方と比較してみると,大元のアプリケーションが汚染されれば仮想コンピュータ上のすべてのアプリケーションも自動的に汚染されてしまう可能性があるという点で,上記の法的リスクの場合と同じような問題構造をもっているということを理解すべきだ。
要するに,パブリッククラウドはやはり危険だ。
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http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/01/microsoftoffice.html
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