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2009年12月29日 (火曜日)

ユーティリティベース・コンピューティング

グローバルなクラウドコンピューティングサービス(パブリッククラウド)では,単にディスクなどのシステムリソースを提供するだけではなく,各種ユーティリティやコンサルティングまで提供してしまう。むしろ,ユーティリティなどの提供によって利益をあげるビジネスというべきかもしれない(=単なるディスク貸しだけでは利益が出ない。)。そのようにして利用者のビジネスに密接にコミットしたサービスを提供すればするほど法的には非常に大きな問題が発生する可能性が高まり,いずれ(技術的にというよりも)社会的に破綻してしまうことが必定であることはこれまでもしばしば書いた。つまり,「滅びの道」というわけだ。

にもかかわらず,世間にはクラウドコンピューティングに浮かれている人が多いように思う。いや,圧倒的とまではいかなくでもかなりの多数派だと言えるだろう。この分野と関連するバブル企業の社長のような人々が威張っている姿や,それを崇拝しているとしか思えないような人々の姿は,本当は,(少なくとも私の目からすれば)哀れみ以外の気持ちを惹起させるものではない。

さて,そのような人々に法的なセンスや素養や経験がないのは仕方ないとして,ビジネスの上での直観力にも欠けていると断定せざるを得ないのではないだろうか。

ちなみに,法的な責任の問題だけ指摘しておくと,取締役の損害賠償責任は,故意の場合だけではなく過失の場合にも発生し得るという当たり前のことさえ知らない人が少なくないようだ。私は,私が既に明確に指摘していた事項について,「知らなかった」とか「予見できなかった」とかいう弁解をすることを許さない。そのためにも,現時点で予見できていることをすぐにこのブログに書き込んでいる。このブログに書き込まれた時点以降の時点では,予見可能以外の判断があり得ない。

というわけで,下記のような記事を読んでいると,要するに,煽ってボロ儲けをし,適当な時期を見計らって自分だけ足抜けしようとする人々の魂胆が丸見えになってしまっているように思う。そして,本当に賢い人々は,まずいカードを,いつ,誰にひかせ,どれだけ高値で換金するかということだけを考えているようにも思える。すなわち,株の世界とあまり変わりがない。そのような場には,健全なIT産業の成長などあり得ない。

 The Cloudy IT Landscape
 Forbes: 12.28.09
 http://www.forbes.com/2009/12/26/ibm-oracle-dell-technology-cio-network-it-services.html

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コメント

丸山満彦さん こんにちは。

パブリッククラウドに法的問題があるということは,サイバー法の専門家であれば誰にでもすぐに理解できることなんですが,普通の法律家だとちょっと厳しいかもしれません。特に,グリッドベースのパブリッククラウドのアーキテクチャの特性を理解するには,法的な知識や経験だけでは全く歯が立ちません。そういうわけで,まだ十分に認識されているとは思えませんし,まともな法律論文はほとんどありません。

しかし,現実に数多くの問題点が存在しています。

私は,他の誰もができないからこそ自分がやるべき仕事として,この問題について論文を書こうと思いました。政策的なことを考慮に入れると,しばしば筆が止まってしまいますし,悩みもします。でも,最後は正直に自分の意見をまとめてみようと思っています。締切までもう時間があまりないですね。頑張らないと・・・(笑)

投稿: 夏井高人 | 2009年12月30日 (水曜日) 22時53分

夏井先生。法的規制というのも難しいし、グローバルで対応しなければならないので、最初のステップはISOなどで議論をしたほうがよいのではないかと思っています。。。
 で、自主的な対応を期待する。それでも、どうしても、、、となれば、法規制を検討する。監査についても、最初はなし。どうしてもとなれば、監査も検討するイメージです。
 
 それがよいものと本当に信じていて、本気で普及させようとすれば、正直に誠実にするのが一番の近道ですよね。。。

投稿: 丸山満彦 | 2009年12月30日 (水曜日) 21時47分

丸山満彦さん こんにちは。

法規制となると,日本だけ立法しても(パブリッククラウドの大半が米国企業なので)何も効果もないという問題があり,行政規制でも同じですね。強いて言えば,「日本企業が外国のパブリッククラウドを利用することを禁止すること」を目的とする法律を制定することが検討可能ではあります。しかし,それでなくても冷え切ってしまった日米間で極めてシビアな貿易摩擦を生じさせることが確実なので,ちょっと難しいです。

ベターな方策としては,情報セキュリティ及び会計監査(システム監査)の関連での監査基準を厳しくすることが考えられます。ご指摘のような情報開示はとりわけ重要ですね。ただし,情報開示したとたんに,非常に大勢の利用者をかかえるパブリッククラウドでは違法行為(特に利益相反行為及び守秘義務違反)がある(または発生する可能性がある)ということが白日の下に晒されてしまうことになるので,それだけでパブリッククラウドビジネスが破綻または頓挫してしまうことが予測されます。ですので,そのような監査基準の強化に対してはありとあらゆる手を使った抵抗と妨害が発生するだろうと思います。とはいえ,よく考えてみると,むしろ逆に,そのような抵抗や妨害が生じれば,そのような抵抗や妨害をしている企業は「怪しい」と判断できるので,利用者としてはリトマス試験紙のような感じで簡易に判別できる良い機会かもしれません。(笑)

投稿: 夏井高人 | 2009年12月30日 (水曜日) 10時01分

夏井先生、ちょっと考えてみたのですが、パブリッククラウドを含む1対Nの委託型(サービス提供者1に対して多数のユーザがいるような委託)のITサービス事業者に対して何らかの規制が必要ではないかと思って、まるちゃんブログに軽く書きました。
リスク情報等の開示項目を決め、それを開示させるというイメージです。できればグローバル基準とする。
虚偽の開示をしていれば、犯罪として取り締まれるし、あまりにも虚偽の開示が多ければ、監査制度を入れるというのもあり得ます。
 
・ITサービスが企業にとって重要
・1対N型のITサービスをビジネスとして成功させたい

というのであれば、何らかの対策が必要であるように思います。。。

投稿: 丸山満彦 | 2009年12月30日 (水曜日) 09時18分

丸山満彦さん こんにちは。

これまでくどくど書いてきたとおり,全てのタイプのクラウドやグリッドが悪いとは全く思っておりません。あまたあるサービスやシステムの中には非常に有用なものがたくさんあります。しかし,ビジネスの場面でグローバルかつ安易に応用すると大変なことが起きてしまうということだけは確実だと思うようになっています。

これまで,幾つかの実際の製品やサービスを調査してみました。

中にはカタログスペックが異常に誇張されているものがあり,これはこれで法的には相当問題な行為ではないかと思っています。しかも,そのような異常に誇張された宣伝広告を好む企業の経営者や宣伝広告担当者の中には「何が問題なのか」について全く理解しようとせず,意見や批判に耳を貸す気が全然見受けられない例が少なくなかったように思います。しかし,そのような企業は,傲慢さのゆえにいずれきっと失速します。

もちろん,まともな企業もたくさんあります。そして,何か問題が起きるたびに問題解決のために真面目に取り組んできたと評価できます。ただ,問題の発生件数がちょっと多すぎるので,果たしてこれで利益が本当に出るのかどうかかなり疑問に思うことがありました。税金でもって国が運営するシステムなら,運用資金の確保の面ではまだいい方でしょう。けれども,企業ユーザの場合,果たしてどうなるでしょうか?

更に,クラウドのメリットについて相当空虚な内容の商業宣伝広告が平気で横行しているという現実もあります(←嘘や詐欺に近いものもあります。)。ネット上の記事でもそういうのがかなり多数ありますね。専門家のブログに見せかけたようなものも決して珍しくないです。

日本の経営者は,とにかくプラスの面とマイナスの面の両方について丁寧に調査し,問題点を洗い出し,ランニングコストを含む収支のことをよく考え,更に,もしクラウド上でコンサルティングサービス等の提供を受ける場合には本当は誰(←具体的な人間)がそのサービス提供を担当しているかについて徹底的に情報開示を求め,加えて,何か問題が生じたときに裁判管轄地や準拠法等の関係で一方的に不利にならないかどうかについてもきちんと検討をし,その上で,自分のビジネスに最も適切と思われるタイプとサイズのサービスやシステムを選択すべきだろうと思います。

投稿: 夏井高人 | 2009年12月29日 (火曜日) 18時27分

夏井先生。クラウドコンピューティング事業を始めようと考えていた会社の人が私にクラウドコンピューティング事業を開始するにあたってのリスクに相談しにきたのですが、後日、ビジネスモデルをもう一度精査するというお返事をいただきました。結果的にどうなるかはわかりませんが、そういう経営者の方もいるということですよ。。。
 いずれにしても、ブームにのって安易に事業を始めるのは経営者としてはどうかなぁ・・・と思います。。。
 ついでに、そのブームをあおる人や、ブームにのってビジネスを安易に進めるコンサルタントの人も。。。

投稿: 丸山満彦 | 2009年12月29日 (火曜日) 17時39分

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