臍帯血バンクの破綻:法的課題の検討が十分でないまま破産手続が進行
茨城県にある民間の臍帯血バンクが経営破綻し,破産手続に入った後,臍帯血の寄託者(所有者)に十分な説明がないまま,破産管財人によって新たな保管者探しが始まっているようだ。下記の記事が出ている。
茨城の臍帯血バンクが破綻 1500人分保管
共同通信: 2009/12/19
http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121901000436.html
記事を読む限り,この臍帯血バンクでは臍帯血を買い取っているわけではなく,有料で保管・管理する有償寄託契約が締結されていた模様だ。つまり,臍帯血の寄託者は,本来であれば債権者であるはずなのだが,破産管財人が臍帯血バンクという特殊な業務に適合した破産債権処理をしているのかどうか疑問な点がある。寄託債権は,金銭債権ではないが,破産手続が進行した場合,寄託契約を終了させ,寄託者に寄託物である臍帯血を返還する必要がある。また,臍帯血は破産者の所有に属しないので破産財団を構成しない。この破産手続を監督すべき裁判所は,一体何をやっているのだろうか?
他方,臍帯血と関連する個人情報は,最も機密性の高い個人情報(機微の情報)に属する可能性が高い。ところが,日本国の個人情報保護法は,個人情報取扱事業者が存在しており,正常に機能している場合のみを想定しており,事業者が経営破綻などによって消滅またま逃亡して管理主体が存在しなくなった場合,または,存在していても事業者として機能していない場合,あるいは,そもそも個人情報を取り扱う事業者が個人情報保護法に定める個人情報取扱事業者に該当しない場合については,個人情報の保護について何も規律していないのと同じだ。加えて,(個人情報が何らかの経済価値を有していて破産財産を構成している場合を除き)破産管財人もまた新たな(暫定的な)個人情報取扱事業者に自動的になるわけではないし,また,そもそも破産者が個人情報保護法に定める個人情報取扱事業者に該当しない場合には,破産管財人が新たな(暫定的な)個人情報取扱事業者になることがあり得ない。これらの点において,現行の個人情報保護法は,致命的な欠陥を有する法律だ。このことは,これまで何度も主張してきたことなのだが,今回の事例によって,現行個人情報保護法の致命的な欠陥が露骨に明確なものとなったと考える。現行法は,私の説に従って全面改正されなければならない。
その他,公開のブログでは差し支えがあって書けない問題点が幾つかある。何でもかんでも民営化するという基本政策の誤りが露呈した事例としても認識可能ではないかと思われるという点だけ指摘しておきたい。
この破産手続が今後どのように進行するのか不明ではあるけれども,今後予断を許さない重大な問題がそこにあることを(この破産事件を担当する裁判官と破産管財人を含め)関係者全員が正しく認識・理解すべきだろうと思う。
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