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2009年12月12日 (土曜日)

米国:労働及び生命保険に関し遺伝子情報に基づく差別を禁止する法律(GINA)が発効

米国で2008年に可決された「労働及び生命保険に関し遺伝子情報に基づく差別を禁止する法律(GINA)」が発効した。

 'GINA': Genetic Information Nondiscrimination Act
 Department of Health and Human Services (HHS)
 http://www.genome.gov/Pages/PolicyEthics/GeneticDiscrimination/GINAInfoDoc.pdf

 An Act to prohibit discrimination on the basis of genetic information with respect to health
 insurance and employment (Public Law 110–233)
 http://www.gpo.gov/fdsys/pkg/PLAW-110publ233/pdf/PLAW-110publ233.pdf

 Genetic anti-discrimination law goes into effect
 eXaminer: November 16
 http://www.examiner.com/x-28028-Stafford-County-Conservative-Examiner~y2009m11d16-Genetic-antidiscrimination-law-goes-into-effect

現実には既に差別行為が山ほど存在していると推定できる。その差別の原因は,科学的な根拠に基づくものとはいえない単なる嗜好に属するものが多いのではないかと思う。例えば,背が高いか低いかが遺伝的形質として規律されてしまうことがあることは否定できない。しかし,背の高い者を好むか背の低い者を好むかの基準は,一般的には評価者の嗜好の問題に過ぎないからだ。

とはいえ,遺伝的形質に起因してある種の病気に罹患するリスクの高い者について,労働者としての雇用の場面や生命保険契約の場面で差別的な取扱いがなされる場合,使用者や生命保険会社が「科学的な根拠に基づく正当な取扱だ」という主張をすることが十分に予測できる。その主張が本当に科学的に正しいかどうかについては本当はよく判らない部分が多い。建前論としては人体実験を行うわけにはいかないからだ。そのため,「ある遺伝的要素がある特定の疾病を惹起する可能性が高い」という推論の根拠の多くは,仮説または疫学的な推論のレベルにとどまってしまっていることが珍しくない(←検証可能な実験結果により証明されている例もあるが,大多数であるとは到底言えない。)。つまり,一応科学的な根拠のような容貌を呈しているけれども,結局は評価者の嗜好の問題に過ぎないような場合があり得るのだ。

他方で,人種差別は,差別の中でも最もひどい差別であるとされている。

遺伝子的要素に基づく差別は,人種差別と同様の意味で,任意に変更することができない要素を理由とする差別であり,科学的根拠の有無を問わず禁止されるべきだと考えることができる。

というわけで,米国ではこの法律が制定されたわけだが,今後,どれだけ有用性を発揮するかは未知数と言わざるを得ない。

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