« 経済産業省:経済産業分野を対象とする個人情報保護ガイドラインが改定 | トップページ | ネットセキュリティ総研が刊行するセキュリティ調査レポート「情報漏えい年鑑2009」のお値段 »

2009年10月12日 (月曜日)

「コルシカ」に対し日本雑誌協会が閲覧サービス提供中止を要請

下記の記事が出ている。

 日本雑誌協会が雑誌閲覧ネットサービス「コルシカ」にサービス中止を要請
 CNET Japan: 2009/10/09
 http://japan.cnet.com/venture/news/story/0,3800100086,20401440,00.htm

私はコルシカのビジネスモデルの詳細については何も知らない(もちろん利害関係は一切ない)ので,誤解があるかもしれないが,この件については若干疑問がある。

というのは,読者は,自分が定期購読している雑誌について閲覧サービスを受けることができるようになっているらしいので,もしそのネット上の定期購読代金が物体としての雑誌の代金総額(または定期購読料)と同額であり,そのままコルシカ経由で雑誌社に支払われているのであるとすれば雑誌社(出版社)には1円の損失も発生していないことになるだろう。したがって,この場合には,形式的には著作権侵害行為があるように見えても1円の損失もないという意味で著作権侵害に基づく損害賠償請求権が発生しないと解するべきだ。

これに対し,コルシカが読者から支払われた雑誌代金総額(または定期購読料)を雑誌社に支払っていない場合には,要するに「ただ乗り」ということになるので,日本雑誌協会が怒って抗議するのは当然のことだろうと思う。なお,ネット上でのデジタル複製物の「閲覧(=利用者側での一時的ダウンロード+キャッシュファイルまたは一時ファイルの自動生成)」を書店店頭での現物の「立ち読み(=可視光線で読解可能な画像ファイルとしてのダウンロード+生体脳内での記憶)」と同視してかまわないかどうかについて従前から議論があることは周知のとおりだ。

要するに,コルシカが読者から支払いを受けた定期購読料なるものの法的性質(利用契約上の位置づけ)及びそれが雑誌社(出版社)に支払われているかどうかによって,この事件の法的評価が異なることになるのだが,冒頭にも書いたとおり,事実関係の詳細については知らないので,結局どういうことになるのかを判断することができない。

ちなみに,あくまでも一般論だが,私が認識しているところでは,これまでの裁判所の判決では,実質的に損失が発生しているのかどうかが争点となった事件であってもちゃんとした判断がなされていない場合がある。しかし,著作権侵害を理由とする損害賠償請求は,理論的には民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求であり,ただ損害額の推定等について著作権法に特則が存在するというのに過ぎない。そして,「加害行為」によって「損害が発生したこと」及びその損害が金銭的に評価可能なことは,不法行為に基づく損害賠償権が発生するための必須の要件事実の一部となっている。したがって,今後は,法理論面及び実務面の両面において,「損失」及び「損害」についてきちんろした議論を尽くすべきだろうと思う。

ここでもまた,民法及び民事訴訟実務(←要件事実論を含む。)を完全にマスターしていない者は,著作権を含む知的財産法制についての真の専門家であるとは言えないということが証明できる。

私は,法科大学院でもサイバー法の講義を担当しているが,そこでは「とにかく民法を完全にマスターしなさい」とことあるごとに学生に話している。昔から言われていることの一つではあるが,「法律家は,民法を完全にマスターしていなければならない。民法を制覇できない者は,法律家としてはかなり問題がある。」という信念をますますもって強くめてきている。


[追記:2009年10月15日]

関連記事を追加する。

 雑誌閲覧サイト「コルシカ」、全雑誌の販売を中止--数カ月以内の再開目指す
 CNET Japan: 2009/10/14
 http://japan.cnet.com/venture/news/story/0,3800100086,20401580,00.htm

|

« 経済産業省:経済産業分野を対象とする個人情報保護ガイドラインが改定 | トップページ | ネットセキュリティ総研が刊行するセキュリティ調査レポート「情報漏えい年鑑2009」のお値段 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 経済産業省:経済産業分野を対象とする個人情報保護ガイドラインが改定 | トップページ | ネットセキュリティ総研が刊行するセキュリティ調査レポート「情報漏えい年鑑2009」のお値段 »