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2009年8月 9日 (日曜日)

ロボットの設計・製造のための技術指導料の支払請求が棄却された事例(大阪地裁平成21年7月23日判決・平成20年(ワ)第4712号技術指導料等請求事件)

有限会社浦上技術研究所(原告)は,特許権の登録,実施,その情報提供を業務とする会社であり,株式会社安川メカトレック(被告)との間で,平成19年9月初旬,技術指導契約を締結した(以下「本件契約」という。)と主張して,本件契約に基づく技術指導料462万5250円の支払いを求めた事件について,大阪地方裁判所は,2009年年7月23日,原告の請求を棄却する判決をした。

本件訴訟において,原告は,被告との間で下記の内容の契約を締結したと主張した。

ア 原告の技術指導
 原告は,被告に対し,「吸着自走式超高圧ウォータージェットロボット」及び「吸着自走式塗装ロボット」(以下,これらを併せて「本件ロボット」という。)の設計・製作に必要な技術指導を行う。
イ 技術指導料
(ア) 被告は,本件ロボットを株式会社西部川崎(以下「西部川崎」という。)に販売した日の翌日,原告に対し,技術指導料として本件ロボットの販売価格の10%に相当する金員を支払う。
(イ) 原告が個別のプロジェクト毎に出張,指導等を行った場合には,被告は,原告に対し,上記(ア)とは別に技術指導料及び経費を支払う。

これに対し,被告は,「被告担当者のA(以下「A」という。)は,原告代表者との間で,平成19年9月初旬,原告に対して本件ロボットの設計・製造の技術指導料を支払うという協議をしたことはあるが,これはあくまで見積作業の一環としての協議であり,この協議により原告と被告との間で本件契約が締結されたことにはならない。」と反論した(積極否認)。

本件について,大阪地方裁判所は,原告主張の本件契約締結の事実が認められないとして原告の請求を棄却した。

 大阪地方裁判所平成20年(ワ)第4712号技術指導料等請求事件:平成21年7月23日判決
 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090727164643.pdf

その判決理由中の重要な部分は,次のとおりである。

******************************

第1 請求原因について

2(2) 検討

ア 上記認定事実からすれば,原告が,被告との合意に基づき,被告及び安川エンジニアリングに対し,本件ロボットの設計・製作に必要な技術指導を行っていたことは明らかであるが,問題は,原告と被告との間において,被告が原告に対して技術指導料を支払うとの合意が成立していたか否かである。
 原告は,被告との間で,平成19年9月初旬,原告が被告に本件ロボットの設計・製作に必要な技術指導を行い,被告が原告に技術指導料(本件ロボットの販売価格の10%並びに原告が個別のプロジェクト毎に出張指導等を行った場合の技術指導料及び経費)を支払うと合意したと主張し,原告代表者はこれに沿う供述をする。
 そして,上記認定のとおり,①被告担当者のAが,平成19年8月29日,原告代表者に対し,原告が取得する本件ロボットの特許・ノウハウ料を算出してほしいと求めたこと,②これを受けて,原告代表者が,Aに対し,同年9月3日,本件ロボットの特許・ノウハウ料を工場出荷価格の10%とするが,個別のプロジェクト毎に発生する新規設計料・技術コンサル料・経費については特許・ノウハウ料には含まないとする内容の電子メールを送信したこと,③被告が同月6日に西部川崎に提出した見積書1には,原告に支払うべき特許ノウハウ料として機械製作費の10%に相当する220万円が計上されていたこと,④原告代表者が,同月7日にAらと本件打合せを行った際,被告及び安川エンジニアリングが原告に技術指導の費用を支払うとの説明をしたこと,⑤実際,被告及び安川エンジニアリングが,原告から,本件ロボットに関する図面を受け取ったり,設計・製造の指導を受けている,との事実が認められるのであり,これらの事実は,原告と被告との間において被告が原告に対して機械製作費の10%に相当する技術指導料を支払うとの合意が成立したとの原告代表者の上記供述の信用性を補強する事情といえなくもない。

イ しかし,原告代表者の供述に係る上記合意については,これを証するような契約書その他の書面は作成されておらず,上記アの①ないし⑤の事実を総合しても,原告と被告との間で,いつ,いかなる内容で意思表示の合致が見られたか(とりわけ被告の承諾の意思表示があったか)は明らかではない上,この点に関する原告代表者の供述も曖昧なところがある(原告代表者は,上記合意の内容は業界の常識であるとの趣旨を縷々供述するが,合意に至った具体的経緯,とりわけ上記内容について被告の承諾を得た事情についての供述はなく,また,原告代表者のいう「業界の常識」が慣習として存在することを認めるに足りる証拠はなく,被告がこの慣習による意思を有していたとも認められない。)。
 かえって,原告代表者の上記供述の信用性を減殺する以下の事情も存する。すなわち,被告は,西部川崎と本件ロボットの設計・製作等に関する契約を締結するに当たっては,見積書1ないし見積書4を作成して提出し,最終的には具体的な契約条件が記載された本件注文書を受け取っているのであるから,原告との間で技術指導料の支払に関する契約を締結していれば,同様に具体的な契約条件を記載した書面を作成しているものと思われるが,本件においては,本件打合せにおける原告代表者の説明を記載した複写機能付きのホワイトボードを印刷したものがあるだけで,原告と被告との間で技術指導料の支払契約の成立を証するような書面は作成されていない。
 また,Aは,同月10日,西部川崎のBから,特許・ノウハウ料については西部川崎が負担するので見積書から削除するよう指示され,翌11日の夕方,原告代表者に電話をかけてこれを承諾してもらったと証言し,Bも,見積書1を受け取った後,原告代表者に見積書1に記載されていた原告に対する特許・ノウハウ料を削除することを求めて承諾を得たと証言するところは,被告が見積書1に続いて提出した見積書2ないし見積書4において,原告に対する特許・ノウハウ料が削除されていることと整合する上,原告と共同してロボット事業を立ち上げようとしていた西部川崎の立場からすれば,原告に本件ロボットの特許・ノウハウ料を取得しないよう求めたというのも不合理なことではないから,A及びBの上記証言の信用性を否定することはできないというべきである。原告代表者は,Aから,西部川崎が原告に対する特許・ノウハウ料を支払うという話をされたことはあるが拒否した,Bから,特許・ノウハウ料を被告には請求しないよう求められたことはないという趣旨の供述をするが,A及びBの上記証言に照らせば採用できないものである。
 さらに,同年12月20日に原告代表者がAに送信した電子メールには「なお,私は自費にて40日以上も袖ヶ浦に滞在し,また,横浜~諫早間をこれも自費にて何度も往復しておりますが,この分は西部川崎殿へ請求したいと思っております。」と記載されていることからすれば,原告としては,そもそも出張による指導料及びそのための経費を被告に請求することを意図していなかったものと考えられる。

ウ 上記イで検討したところからすれば,上記アの①ないし⑤の事実に原告代表者の供述を併せても,原告と被告との間において,被告が原告に本件ロボットの技術指導料を支払うとの合意が成立したと推認することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

******************************

本件契約の法的性質については,若干の問題があるとはいえ,仮にそれが締結されていたとすれば,役務提供契約の一種となると考えられる。そして,この種の契約について「書面」によるべきことを定める法令は存在しないから,諾成契約として口頭の合意のみで契約が成立し得ることは明らかである。本件判決は,その口頭の合意の成立という事実を認定しなかったということになる。

ただ,本件契約がどのような種類の契約であるにしろ,原告が被告に対して一定の技術指導をしたことそれ自体については当事者間で実質的に見解の相違は存在しない。そうだとすれば,本件請求が棄却されたことによって,原告は,一定の技術指導をしながらもその代価を得ることができなかったこと,反対から言うと,被告は一定の技術指導を無償で入手したことになるだろうと思われる。

原告代理人の訴訟における巧拙はひとまずおくとしても,果たしてそのような結果でよいのだろうか?

もちろん,完全に割り切って,書面による合意を形成しなかった以上,それによる損失は原告が負担すべきだという見解もあり得るだろうし,そのような見解は形式論としては全く正しい。本件判決もまた,そのような立場にたっているものと思われる。

しかし,被告が原告から技術指導を受けた結果として現実にロボットを開発・販売し利益を得ている以上,その法律構成はひとまずおくとしても,原告が被告に対する技術指導の対価を全く得ることができないということには若干の疑問が残る。

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コメント

Tropiccaさん こんにちは。

貴重な情報をご提供いただき,まことにありがとうございます。

いまちょっとバタバタしていて調べられないのですが,片付いたら早速その高裁判決を読んでみたいと思います。

投稿: 夏井高人 | 2010年5月23日 (日曜日) 22時08分

「ロボットの設計・製造のための技術指導料の支払請求が棄却された事例(大阪地裁平成21年7月23日判決・平成20年(ワ)第4712号技術指導料等請求事件)」の控訴審において平成22年4月28日大阪高裁判決がありました。

投稿: Tropicca | 2010年5月23日 (日曜日) 03時57分

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