無償で機器を配布するだけではインターネット利用が増加するわけではない
一般に,「情報格差」と呼ばれる現象があるとされており,この情報格差を解消しなければならないと考える人々が多数存在する。そして,国によっては,情報弱者とされる老人などに無償でPC等の機器が配布されることもある。しかし,それだけではインターネット利用が増加するわけではないという調査結果が発表されたようだ。
Free broadband won't entice all
BBC: 10 June 2009
http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/8091398.stm
インターネットアクセスを含め,情報へのアクセスができることが「基本的人権」の一部だと考える人々にとっては,さらに頭の痛い問題が明るみになったことになる。
しかし,よく考え直してみなければならないこともある。
果たして,人は「情報にアクセスしなければならない」のだろうか?
私は,「デジタル情報化されない権利」こそが現代において最も重要な基本的人権のひとつだと主張し続けてきた。最近,やっと賛同者が現れ始めている。そして,この「デジタル情報化されない権利」と同様,「情報から離れている自由」もまた基本的人権のひとつだと主張することとしたい。
「情報格差」は悪いことだと考えることは自由だ。情報にアクセスしたいのに経済的理由でアクセスできない人々については,確かに「情報格差」は存在する。
しかし,だからといって,あたかも強迫神経症患者の如く「情報にアクセスしなければならない」という考えにとらわれてしまうことはもっと悪いことだと信じる。
すべからく人は「自由」を求める。そして,その自由の中には,「インターネットからの自由」も当然に含まれる。
| 固定リンク
コメント
丸山 様
夏井です。
既に予定が入っていたりしたため,情報ネットワーク法学会の講演会に参加できずとても残念でした。とても盛会で,内容的にも充実した講演だったようですね。
過度に集中管理された「快適な未来」がいかに脆弱なものであるかは,既に星新一さんが幾つかのショートショートの中で描いておられますね。あまりにも凄すぎる先見性だと思います。
私は,今後の政府の政策における最重要課題を,「ノンペーカー化」または「ペーパーレス」ではなく「ペーパー化」に転換しなければならないのではないかと考え始めているところです。単なる懐古趣味ではありません。電子媒体は余りにも脆弱すぎ,かつ,高コストであり,それを守るための費用を税金でまかないきれなくなってしまうおそれが出てきました。そもそも,そんなに遠くない将来,電力が枯渇しそうです。電気がなければ消滅してしまう文化など,文化ではありません。
パラサイトの議論は,どこかでやった記憶がありますが・・・あまり露骨に書くと大方から非難されそうなので,やめときます。今度,またゆったりとワインでも飲みながら意見交換しましょう。^^
投稿: 夏井高人 | 2009年6月15日 (月曜日) 07時15分
昨日、情報ネットワーク法学会の講演で佐藤先生の話を聞き、プライバシーについてまた深く考えるところがありました。人とは何かということはよく考える必要がありますね。。
もし、効率化のために、すべての人はインターネットに接続しなければ行政サービス等の一部が制限されることが強制されるようなことが起こったらどうしようか。。。という気がしています。
知的財産については、本当に努力して一から作った人が報われ、そのような人がたくさんうまれることによって世の中の役に立つという制度であればよいのですが、横からかすめ取ったり、そのほとんどが天から与えられているものを自分のものだといったりとすると、どうもよくないと思います。
バブルの崩壊という話を聞くたびに、一体経済って何か。。。ということも考えます。みんなで、努力して消費しなければ維持できない経済社会って何なのか。。。
私のようなサービス業はいわば社会のパラサイトです。農業が基本にあって、それを効率的にするために工業があって、それらを効率的にするためのサービス業であるはずですよね。。。紙幣がいくらあっても食べれませんしね。。。
サービス業が偉そうにしている社会というのは、宿主よりも大きくなった寄生虫のいる状態で、どうしても無理があるのではないかと思っています。
経済社会もシステムであるのであれば、生態系というシステムからもっと学ぶべきことが多いのではないかと、そういう境界領域の研究を進める必要はないのかと最近考えています。
ということで、植物の研究には期待しております。とてもまねできない領域にまで来ていますよね。。。
投稿: 丸山満彦 | 2009年6月14日 (日曜日) 13時14分
丸山様 お久しぶりです。
超有名な評論家である某氏は私が提唱する「デジタル情報化されない権利」など無意味だと言って私のことを嘲笑しているらしいと仄聞しているのですが,思想信条の自由と言論の自由は保障したいので,何と言われても構いません。某女優じゃないですけど,「別に・・・」という感じです(笑)。
私は私で,誰からどのように評価されようと無視されようと迫害されようと一切おかまいなしに,「デジタル情報化されない権利」の重要性をこれからもしっかりと主張し続けていこうと思っております。
「インターネットからの自由」・・・って,良いでしょ?
実は,毎日痛感しているんですよ。(笑)
日本国政府はIT化促進政策をとってきました。日本国は資源に乏しいとても小さな国なのに1億以上もの大勢の人々を食わせていかなければなりません。それゆえ,私は,これまで,産業育成という趣旨で総務省や経済産業省などの審議会や研究会その他の職務について可能な限りの協力をしてきました。
でも,産業政策としてIT化を促進すべきだということと,個々の国民が常にITの奴隷になっていなければならないかどうかということとは全く別次元のことではないかと考えます。
世の中,何でもかんでも単純化して考える人が決して少なくないので,苦労が多いです。
ところで,ITに関しては今後もいろいろと考えていくとして,現時点では,鉱物資源の乏しい日本国においても再生産可能な資源としての「植物」にもっと着目すべきだと考え,その分野での研究も進めています。この研究は,全然別の目的でやってきた非常に困難な研究の一部分(パーツ)を構成するものなのですが,その重要性には計り知れないものがあると信じています。米国や欧州の政府は,既にこの分野で相当額の予算を投入しています。日本国政府もまた,もっと多額の予算を投じて,この分野の研究と産業化施策を推進すべきでしょう。それと同時に,植物の知的財産権保護との関係で,どうしても避けることのできない問題,すなわち「個体識別」の問題について,日本国にとって著しく不利になるような国際標準またはそれに順ずるものが支配的となってしまうようなことは絶対に避けなければならないと考えています。この点については,誰に意見を言っても全く理解してもらうことができず,当然個体識別に関する研究予算を配分してもらうこともできず,途方にくれているような状況です(←理系の研究者などの人々は,「個体識別は自明であり,改めて研究すべき余地などない」と考えるかもしれません。しかし,私の発想は,圧倒的多数の理系の研究者などにとって自明だと信じられている部分が本当は全く自明ではないどころか,実は混沌の中にあるというところからスタートしています。識別子と実体とを同視してしまうような思考を一掃してしまわないと,より真理に近いところに進むことはできないという当たり前のことを理解して欲しいと願っているのですが,力及ばないようです。)。
産業政策や国際関係という文脈の中で個々の研究というものを正しくとらえるという発想がきちんとできる研究者は非常に少ないですね(←汚れた「金儲け」や「横領」や「詐欺」に関してであればとてつもなく嗅覚の優れた人々がどこにでもウヨウヨしていることは周知のとおりですが,私が言っているのはそういうことではありません。)。とても残念なことです。
投稿: 夏井高人 | 2009年6月12日 (金曜日) 10時08分
夏井先生、お久しぶりです。
「デジタル情報化されない権利」は大切ですね。最近かなり、腹落ちしてきました。。。大賛成。
「インターネットからの自由」。いい言葉です。
道具に使われているようでは自律した人間といえないのでしょうね。。。
投稿: 丸山満彦 | 2009年6月12日 (金曜日) 09時37分