テレビ番組の放送について,著作権法77条の正当な利益を有する「第三者」に該当するかどうかが争われた事例(東京地裁平成20年(ワ)3036号損害賠償請求事件)
著作権法77条は,著作権の移転及び著作物への担保権設定について,登録をその対抗要件として定めている。
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第77条(著作権の登録)
次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない。
一 著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)又は処分の制限
二 著作権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は著作権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限
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この第77条に定める「第三者」とは,民法上の不動産物権変動における対抗要件の「第三者」と同様,およそ全ての第三者ではなく,対抗要件欠缺を主張する「正当な利益」を有する第三者であると解されている。
この対抗要件の「正当な利益」の有無が争われた事例がどれだけあるのかの詳細については知らないが,東京地裁において,まさにこの点が争点となった事例についての判決がなされた。
東京地裁平成21年04月30日判決(平成20年(ワ)3036号損害賠償請求事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090511103346.pdf
この事件は,中国の法人である北京華録百納影視有限公司(北京華録)及び世紀英雄電影投資有限公司によって共同で撮影制作された映画の著作物であり,北京華録が単独で著作権を有するTVドラマが放映されたところ,このTV番組のCSデジタル放送としての放映は北京華録の許諾に基づくものではなく,公衆送信権の侵害に該当するとして,TV番組の著作権譲渡を受けたと主張する北京赤東文化伝播有限公司(原告)が,北京華録から日本国における放送権を譲渡する契約を締結して放送権(公衆送信権)を取得した湖南広播影視集団との間での契約に基づき放送権(公衆送信権)を取得したと主張する亜太メディアジャパン株式会社及び亜太メディアジャパン株式会社から業務委託を受けてCS放送を実施したスカパーに対し,損害賠償の支払いを求め,東京地方裁判所に訴えを提起したというものだ。
被告亜太メディアジャパン株式会社は,北京華録から原告に対する著作権譲渡については,著作権法77条に定める「登録」がないから,被告亜太メディアジャパン株式会社に対して著作権を有することを対抗できないと主張した。つまり,この主張のとおりであるとすれば,本件は,北京華録から著作権の二重譲渡を受けた原告と被告亜太メディアジャパン株式会社との間の争いであり,著作権法77条所定の対抗要件によって決すべき事案となり得る。
東京地方裁判所は,北京華録から原告へは本件TV番組の著作権が譲渡されていることを前提にした上で,本件TV番組の日本国における放送権(公衆送信権)に関しては,北京華録から著作権の譲渡を受けたとする湖南広播影視集団と被告亜太メディアジャパン株式会社との間の契約の解釈上では,被告亜太メディアジャパン株式会社に移転することはなく,著作権法77条の「第三者」に該当しないとの判断をした。ちなみに,この判決では,対抗要件欠缺の主張を「抗弁」として位置付けているが,おそらく「権利抗弁説」に立脚するものだろうと思われる。
この判決によれば,本件TV番組の日本国における放送権(公衆送信権)に関しては,原告と被告亜太メディアジャパン株式会社との間で二重譲渡の関係が成立しないことになり,したがって,著作権法77条所定の対抗要件によって決すべき問題とはならないことになる。
なお,被告スカパーに関しては,被告亜太メディアジャパン株式会社から送信されてくる信号を機械的にCSチャネルを通じて送信しただけであり,電気通信事業法上,コンテンツの内容を事前に検閲することが許されていないことから何ら過失はないとの理由で,原告から被告スカパーに対する損害賠償請求は請求棄却となっている。
本件は,著作権法77条の「第三者」の意義が直接に問題となっているという点で興味深い事例であるだけではなく,電気通信事業者の義務,公衆送信の意義など,よく考えてみると非常に多くの論点が含まれていると思われる。また,ビジネスという観点からしても,外国において著作権の二重譲渡がなされている場合を想定した対応を十分にしておかなければならないという意味で極めて深刻な警鐘を鳴らしている事案の一つなのではないかと思われる。したがって,本件は,今後様々な議論を呼ぶ判決になりそうな気がする。
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