« 総務省:情報通信審議会 情報通信技術分科会IPネットワーク設備委員会安全・信頼性検討作業班(第16回)の開催 | トップページ | 児童自らが個人情報を開示してしまうことによる犯罪被害 »

2009年5月28日 (木曜日)

ライフログ

最近,各方面で「ライフログ」なる用語を目にすることが多くなった。おそらく造語と思われるが,要するに,個人の行動の記録のことを指す。自分自身が自己の行動記録を自分の日記や手帳等に記録することは別段珍しいことでも違法なことでもない。しかし,第三者が勝手に他人の行動記録を作成し,それを商業利用しようとするところに大きな問題が発生する。プライバシー保護の観点からすれば,本人の事前の同意なしに他人の行動記録を作成して商業利用することは,明らかに違法な侵害行為であり,損害賠償賠償責任が発生するだけではなく,事案によってはストーカー規制法,軽犯罪法,迷惑防止条例などに抵触し処罰される可能性もあり得ることについて異論は全くない。それに異論を唱えているのは金銭的利益のためには手段を選ばない悪徳商人のような企業と全く不勉強な一部の悪質なコンサルタント的な人々,あるいは,ごく一部の無責任かつ不勉強極まりない似非学者のような人々だけである。

 事業化をはばむ「ライフログ」のプライバシ問題
 IT Pro: 2009/03/09
 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090302/325729/

今後,クラウド・コンピューティングや携帯電話での各種サービスを含め,Web上のアプリケーションとして非公開の日記や手帳のようなサービスがますます提供され利用されることになるだろう。クライアントマシンベースのアプリケーションでは,ボットやスパイウェアなどを用いるのでない限り,個人の行動記録を他人が入手することは難しいのではないかと思われる。しかし,Web上のアプリケーションやサービスの利用に伴い,ISPなどがその情報を入手することが(物理的には)比較的容易になったという状況が生まれている。

そして,そのような情報を活用すれば「利益」が生まれるのではないかと考える強欲な人々が出てくることもまた驚くに値することではない。

しかし,かつで「CRM」がもてはやされたころ,それによって利益を得たのは,結局,CRMの導入を強く勧め,法外なコンサルタント料をせしめることに成功した悪徳コンサルタントだけである。実際にCRMを用いて何らかのビジネスを行おうとしていた企業の中で,経費を差し引いた後の利益を得たところは,現実にはかなり少ない。つまり,「CRMが利益を生まない」ということは既に歴史的事実として証明されていると断言できる。

強いて言えば,暴力団などに個人情報を売りさばいた企業は利益を得たかもしれない。しかし,そのような違法行為でもしない限り,顧客の情報を集め分析しマーケティングに応用したということだけで利益が生まれることは,原理的にあり得ないことだと信じているし,これまでずっとそのように主張してきた。

だから,もし企業経営者が「自分は賢い経営者である」と自認しようとするのであれば,「ライフログの活用によって利益を得ることができる」と唆しにやってくる悪徳コンサルタントや似非シンクタンクのような人々の甘言に乗り,騙されることがあってはいけない。

なお,警察マターとしては,「ライフログ」が悪用または濫用されることにより,要人に対するテロを含め,特定の個人に対する加害行為の発生確率が異常に上昇する可能性があることを認識すべきだろう。個人の行動記録によって,行動分析をすれば,どのタイミングでどの場所で狙えば確実に加害行為を成功させることができるのかが,加害者にとって,より正確で実効性のあるものとして測定可能となるからだ。したがって,社会秩序の維持と犯罪の抑止という観点からすれば,商売としての「ライフログ」は,常に警察の敵となることであろう。それと同時に,ライフログは深刻なレベルでの捜査妨害手段となり得る。なにしろ,捜査官の「ライフログ」もまたどこかで取得・記録されている可能性があり,犯罪者や犯罪者集団がそのような記録を見逃すはずがないからだ。つまり,最悪の場合,捜査が常に後手に回ってしまい,犯罪者をぜんぜん検挙できなくなってしまう危険性もある。

[追記:2009年6月11日]

いろいろと調べてみた結果,かつて米国のDARPAが企図したLiflogと目下議論されている日本語としての「ライフログ」とは基本的に別物らしいということがわかった。混同するおそれがあるので,現在使われている現代造語としての「ライフログ」のほうを使用禁止用語とすべきだろうと思う。「ライフログ」ではなく,「データマイニング」を用いることで十分ではなかろうか。

 あらゆる個人情報を記録する米国防総省の新プロジェクト
 Wired Vision: 2003年5月21日
 http://wiredvision.jp/archives/200305/2003052102.html

 米国防総省の『ライフログ』プロジェクト、真の目的は人工知能構築
 Wired Vison: 2003年7月31日
 http://wiredvision.jp/archives/200307/2003073103.html

 米国防総省、問題の『ライフログ』プロジェクトをひそかに打ち切り
 Wired Vision: 2004年2月6日
 http://wiredvision.jp/archives/200402/2004020606.html

 中止された米国防総省『ライフログ』プロジェクト、新名称で復活か(上)
 Wired Vison: 2004年9月17日
 http://wiredvision.jp/archives/200409/2004091702.html

 中止された米国防総省『ライフログ』プロジェクト、新名称で復活か(下)
 Wired Vision: 2004年9月21日
 http://wiredvision.jp/archives/200409/2004092108.html

 LifeLog: Because Big Brother Cares What You're Thinking
 http://www.sweetliberty.org/issues/privacy/lifelog.htm

 Pentagon Developing Tool To Monitor Your Life
 Monday June 02, 2003
 http://www.prisonplanet.com/pentagon_developing_tool_to_monitor_your_life.html

 Lifelogging: Privacy and Empowerment with Memories for Life
 http://eprints.ecs.soton.ac.uk/17123/

|

« 総務省:情報通信審議会 情報通信技術分科会IPネットワーク設備委員会安全・信頼性検討作業班(第16回)の開催 | トップページ | 児童自らが個人情報を開示してしまうことによる犯罪被害 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ライフログ:

« 総務省:情報通信審議会 情報通信技術分科会IPネットワーク設備委員会安全・信頼性検討作業班(第16回)の開催 | トップページ | 児童自らが個人情報を開示してしまうことによる犯罪被害 »